第119話 試練
会議室は静まり返っていた。
正義。
栞。
凪。
三人は、生徒会長・橘悠斗を見つめている。
橘は静かに資料を閉じた。
「それでは、生徒会としての結論を申し上げます」
一呼吸置く。
「今回の査問会議につきましては――」
「結論を保留とします」
三人は小さく息を呑んだ。
廃部ではない。
しかし、存続が認められたわけでもない。
橘は続ける。
「ただし、生徒会が指摘した三つの問題は、学校として看過できるものではありません」
「第一に、顧問不在」
「現在、エンジェル部には本校教員による正式な顧問が在籍していません」
「部活動として、安全管理や活動指導、学校との連携を考えた場合、この状態を継続することはできません」
一呼吸置く。
「第二に、活動実績不足」
「地域での奉仕活動については、生徒会も高く評価しております」
「しかし、本校部活動規定における活動実績とは、大会、コンクール、発表会など、学校を代表する活動を指します」
「現行の規定では、エンジェル部の活動を正式な部活動実績として認めることはできません」
正義は静かに拳を握り締めた。
橘は資料をめくる。
「第三に、部活動予算の見直し」
「昨年度、エンジェル部には三十七万五百三十二円の活動予算が配分されました」
「学校全体の予算には限りがあります」
「すべての部活動へ公平に予算を配分するためにも、活動内容と予算の妥当性を見直す必要があります」
橘は資料を閉じた。
「以上三点につきまして、生徒会は改善が必要であると判断しました」
「そこで、エンジェル部に二週間の猶予期間を設けます」
「二週間後、第二回査問会議を開催します」
「その時点で、これら三つの問題が改善されていない場合、生徒会はエンジェル部の廃部を正式に提案します」
重い宣告だった。
橘は校長・梅原恒一へ視線を向ける。
「校長先生、この結論でよろしいでしょうか」
梅原校長は静かに頷く。
「異議ありません」
続いて理事長・柏木恒一も口を開いた。
「私も了承します」
「二週間という期間は決して長くはありません」
「ですが、学校としても改善の機会を設けるべきだと判断しました」
橘は深く一礼する。
「ありがとうございます」
「以上をもちまして、本日の査問会議を終了いたします」
静かに会議は幕を閉じた。
部室へ戻る道。
三人は誰も口を開かなかった。
さすがの凪も笑顔がない。
重苦しい空気だけが流れていた。
部室へ入ると、正義は椅子へ腰を下ろし、小さく息を吐く。
「……厳しいですね」
栞も静かに頷く。
「はい……」
二週間。
顧問。
活動実績。
予算。
どれも簡単に解決できる問題ではない。
その時だった。
部室の扉が開く。
「そんな顔をするな」
松田だった。
その後ろにはシスター小林も立っている。
二人は三人の前まで歩いてきた。
松田は穏やかに笑う。
「確かに厳しい結果だった」
「でも、廃部が決まったわけじゃない」
「二週間ある」
「まだ戦える」
シスター小林も優しく微笑んだ。
「今日の査問会議で、皆さんの想いはしっかり伝わりました」
「だからこそ、生徒会は結論を急がなかったのだと思います」
「神様は、皆さんの努力をちゃんと見てくださっています」
「どうか最後まで諦めないでください」
その言葉に、正義は静かに顔を上げる。
松田は力強く頷いた。
「俺も協力する」
「担任として、お前たちを最後まで支える」
凪がぎゅっと拳を握る。
「……せやな」
「まだ負けてへん」
栞も力強く頷いた。
「最後まで頑張りましょう」
正義は二人を見つめ、小さく笑う。
「はい」
「ここからが、本当の勝負ですね」
三人は互いに頷き合った。
二週間。
エンジェル部の未来を懸けた最後の試練が、今、始まろうとしていた。




