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第117話 それぞれの想い

 会議室は静まり返っていた。


 正義。


 栞。


 凪。


 三人の想いは語られた。


 松田。


 シスター小林。


 二人もまた、それぞれの立場からエンジェル部を擁護した。


 誰もが言葉を尽くした。


 その時だった。


 理事長・柏木恒一が、ゆっくりと立ち上がる。


「皆さん」


「貴重なご意見をありがとうございました」


 穏やかな口調だった。


 しかし、その声には重みがあった。


 柏木は会議室を見渡す。


「私は、皆さんのお話を聞きながら、一つ考えていました」


 一呼吸置く。


「学校教育における部活動とは、何のために存在するのでしょうか」


 静かな問い掛けだった。


 誰もすぐには答えられない。


 理事長は生徒会へ視線を向ける。


「まず、生徒会の皆さん」


「皆さんは、部活動をどのようなものだと考えていますか」


 副会長・柊が立ち上がる。


「部活動は学校教育の一環です」


「共通の目標へ向かって努力し、技術を磨き、その成果を学校へ還元する場だと考えています」


「そのため、生徒会は学校規則に基づき、公平な基準で判断しなければなりません」


 理事長は静かに頷く。


「ありがとうございます」


 続いて松田へ視線を向けた。


「松田先生はいかがでしょう」


 松田はゆっくり立ち上がる。


「私は、生徒が人として成長する場だと思っています」


「勝つことも大切です」


「ですが、それ以上に」


「仲間を思いやること。」


「責任感を学ぶこと。」


「社会との関わりを学ぶこと。」


「それもまた、部活動の大切な役割です」


 理事長は静かに頷いた。


「ありがとうございます」


 次にシスター小林へ目を向ける。


「シスター小林先生」


「お願いいたします」


 シスター小林は穏やかに微笑んだ。


「私は、奉仕とは人を育てる教育そのものだと思っています」


「誰かのために行動することで、人は優しさを学びます」


「感謝されることで、自分自身も成長していきます」


「エンジェル部は、そのことを学ぶ部活動です」


 理事長は静かに頷き、今度は校長・梅原恒一へ視線を向けた。


「校長先生は、どのようにお考えでしょうか」


 梅原校長は静かに立ち上がる。


「私は、教育とは可能性を育てることだと思っています」


「勉強だけではありません」


「スポーツだけでもありません」


「音楽や芸術、そして奉仕活動もまた、生徒を成長させる大切な学びです」


 会議室は静まり返る。


「エンジェル部の活動には、人を思いやる心や、社会へ貢献する心を育てる教育的価値があります」


「その点について、私は高く評価しています」


「だからこそ、この会議では規則だけでなく、教育という本質についても考えていただきたいと思っています」


 その言葉に、生徒会役員たちも静かに耳を傾けていた。


 理事長は最後に、正義たち三人へ目を向ける。


「皆さんは、どうでしょう」


 正義は迷わず答えた。


「僕は、人の役に立つことを学ぶ場所だと思います」


 栞が続く。


「私は、人との繋がりを学ぶ場所だと思います」


 凪は少し照れながら笑った。


「うちは、人を笑顔にする方法を学ぶ場所やと思います」


 三人の答えを聞き終えた理事長は、小さく目を閉じた。


 しばらくの沈黙。


 やがて静かに口を開く。


「ありがとうございました」


「皆さん、それぞれの立場から、大変貴重なご意見を伺うことができました」


「議論は十分に尽くされたように思います」


 会議室を見渡す。


 生徒会。


 教師。


 教会。


 そして、生徒。


 それぞれの想いが交わった今。


 議論は、いよいよ最終局面を迎えようとしていた。

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