第114話 評価とは
会議室を重苦しい沈黙が包んでいた。
誰も口を開かない。
正義は目の前の資料を静かに見つめていた。
地域清掃。
保育園ボランティア。
老人ホーム慰問。
ホームレス炊き出し。
病院慰問。
夏祭り。
半年間。
三人で汗を流し、積み重ねてきた活動。
地域の人々から何度も「ありがとう」と言われた。
それなのに。
そのすべてが「評価対象外」。
正義はゆっくりと立ち上がった。
「発言をお願いします」
副会長の柊は静かに頷く。
「どうぞ」
正義は生徒会役員を真っ直ぐ見据えた。
「一つ、お聞きします」
会議室が静まり返る。
「人の役に立つ活動より」
「大会で優勝することの方が、大切なんですか」
誰も答えない。
正義はさらに続けた。
「僕たちは、この半年間、地域のために活動してきました」
「河川敷を掃除して」
「保育園へ行って」
「老人ホームでお年寄りと話して」
「炊き出しをして」
「病院で子どもたちを励まして」
「夏祭りでは、市民の皆さんの笑顔を守るために走り回りました」
「それでも」
「大会に出ていないから」
「賞を取っていないから」
「その活動は評価されないんですか」
静かな声だった。
だが、その一言一言には抑え切れない悔しさが込められていた。
副会長の柊が資料を閉じる。
「桜木君」
「生徒会は、その活動を否定しているわけではありません」
「しかし、生徒会は学校規則に基づいて判断しなければなりません」
柊は資料を示す。
「本校部活動規定では、部活動実績とは、大会、コンクール、発表会など、学校を代表する活動を指します」
「奉仕活動は立派な活動です」
「ですが、現在の規定では、部活動実績には含まれません」
正義は思わず言葉を返した。
「だったら、その規則がおかしいじゃないですか」
一瞬。
会議室の空気が凍り付く。
校長も。
理事長も。
生徒会役員も。
誰も言葉を発しない。
正義は一歩前へ出る。
「人を助けることが評価されない学校で、本当にいいんですか」
「誰かのために頑張る生徒より」
「賞状を持っている生徒だけが評価される学校で、本当にいいんですか」
その言葉は、会議室全体へ静かに響いた。
やがて。
校長・梅原恒一が口を開く。
「私からも、一言よろしいでしょうか」
梅原校長は正義を見つめながら穏やかに語る。
「私は、教育とは知識だけを教えるものではないと考えています」
「人を思いやる心」
「社会へ貢献する心」
「仲間と助け合う心」
「それらもまた、学校教育の大切な目的です」
「皆さんが地域で続けてきた活動には、大きな教育的価値があります」
「その点については、私も高く評価しています」
しかし。
理事長・柏木恒一が静かに口を開いた。
「私も、皆さんの活動を否定するつもりはありません」
「ですが、学校を運営する立場としては、限られた予算を公平に配分しなければなりません」
「規則は、すべての部活動に平等でなければならないのです」
教育。
経営。
二つの価値観が、真正面からぶつかり合う。
正義は静かに拳を握った。
この査問会議で問われているのは、エンジェル部だけではない。
『学校とは何のためにあるのか』
その答え、そのものだった。




