第113話 活動実績
重苦しい沈黙が会議室を包んでいた。
生徒会から査問理由の説明が終わる。
誰も口を開かない。
その静寂を破ったのは、シスター小林だった。
ゆっくりと立ち上がり、一礼する。
「発言をよろしいでしょうか」
副会長の柊が頷く。
「どうぞ」
シスター小林は穏やかな表情で会議室を見渡した。
「生徒会の皆さんのお話は理解いたしました」
「ですが、エンジェル部の活動実績について、一つ申し上げたいことがあります」
一枚の資料を手に取る。
「私は、エンジェル部の顧問代理として、これまで毎年エンジェル部の活動を見守ってまいりました」
「今年だけではありません」
「歴代の部員たちも、それぞれが地域のために奉仕活動を続けてきました」
静かに資料をめくる。
「地域清掃」
「保育園ボランティア」
「老人ホーム慰問」
「ホームレス炊き出し」
「病院慰問」
「地域行事の運営補助」
「募金活動」
「災害支援活動」
「これらは、エンジェル部が創部以来、毎年続けてきた伝統ある活動です」
会議室は静まり返る。
シスター小林は続けた。
「そして今年も」
「桜木君、竜胆さん、日向夏さんの三人は、その伝統を受け継ぎ、誰よりも真摯に活動してくださいました」
「奉仕活動は、一日だけで評価されるものではありません」
「何年も、何十年も積み重ねてきた歴代部員の努力があってこそ、今日のエンジェル部があります」
その言葉には、歴代のエンジェル部を見守ってきた者だけが持つ重みがあった。
続いて、松田がゆっくりと立ち上がる。
「担任教師として、一言よろしいでしょうか」
柊は頷く。
「お願いします」
松田は三人を見つめてから、生徒会へ向き直った。
「私は、この三人を約半年間見てきました」
「活動の日だけではありません」
「普段の学校生活でも、人のために動く姿を何度も見ています」
「夏休みも、自分たちの時間を削って地域へ出ていました」
「彼らは、誰かに褒められるためでも、評価されるためでもありません」
「困っている人がいるから」
「その一心で活動を続けてきました」
会議室は静まり返る。
松田は最後に静かに言った。
「私は、教師として誇りに思っています」
その言葉に、正義たちは思わず顔を上げた。
しかし。
副会長の柊は静かに資料を閉じる。
「シスター小林先生、松田先生」
「ご説明、ありがとうございました」
一呼吸置き、落ち着いた口調で続ける。
「私たちも、エンジェル部の奉仕活動そのものを否定するつもりはありません」
「地域に大きく貢献されていることも承知しております」
正義の表情に、わずかな希望が浮かぶ。
だが、その次の一言が、その希望を打ち砕いた。
「ですが」
「それらは学校外活動です」
会議室の空気が凍り付く。
柊は資料へ視線を落としたまま続けた。
「本校部活動規定に基づく活動実績としては、評価対象外となります」
正義は思わず拳を握り締める。
半年間積み重ねてきた努力。
そして、歴代エンジェル部員たちが受け継いできた奉仕の歴史。
そのすべてが、規則という名の前で切り離されたような気がした。
会議室は、再び重苦しい沈黙に包まれた。




