第112話 廃部理由
放課後。
生徒会室。
普段は生徒会役員が活動する部屋も、この日ばかりは重苦しい空気に包まれていた。
ロの字型に机が並べられ、その上には人数分の資料が整然と置かれている。
桜木正義は、自分の前に置かれた資料へ静かに視線を落とした。
表紙には大きく記されている。
――『エンジェル部査問会議資料』
胸が少し締め付けられる。
出席者は、エンジェル部。
桜木正義。
竜胆栞。
日向夏凪。
その隣には担任教師・松田茂。
顧問代理としてシスター小林。
向かい側には、生徒会役員。
生徒会長・橘悠斗。
副会長・柊誠。
会計・榊美咲。
書記・藤宮葵。
そして最後方には、
校長・梅原恒一。
理事長・柏木恒一。
二人が静かに腰を下ろしていた。
誰一人として口を開かない。
資料をめくる音だけが、静かな会議室に響いていた。
やがて、副会長の柊がゆっくりと立ち上がる。
「それでは、エンジェル部査問会議を始めます」
一礼。
全員が静かに頭を下げた。
柊は会計の榊へ視線を向ける。
「榊さん、資料一ページをご覧ください」
「はい」
榊は資料を開き、落ち着いた口調で読み上げた。
「平成二十五年度、エンジェル部の前年度予算は、三十七万五百三十二円です」
「決算内容をご報告します」
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平成二十五年度 エンジェル部決算書
【前年度予算】
370,532円
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【支出内訳】
地域清掃活動用品費 89,400円
福祉施設教材・消耗品費 56,800円
炊き出し活動費 74,300円
地域行事参加費 42,500円
災害支援物資購入費 68,000円
交通費・その他 49,532円
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支出合計 370,532円
差引残高 0円
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榊は資料を閉じる。
「以上が、前年度の決算内容です」
柊は静かに頷いた。
「続いて、生徒会より査問理由を説明します」
会議室の空気がさらに張り詰める。
「査問理由は三点あります」
「第一に、顧問不在」
「現在、エンジェル部には、本校教員による正式な顧問が在籍していません」
松田は何も言わず、資料を見つめていた。
シスター小林も静かに耳を傾けている。
「第二に、活動実績不足」
「地域での奉仕活動は確認しています」
「しかし、本校部活動規定における活動実績とは、大会、コンクール、発表会など、学校を代表する活動を指します」
「エンジェル部には、それらに該当する実績がありません」
正義は思わず資料を握り締めた。
昨日。
職員室前で聞いた言葉。
――評価対象外。
それが今、正式な言葉として突き付けられる。
柊は最後のページを開いた。
「第三に、部活動予算の見直しです」
「限られた学校予算を、すべての部活動へ公平に配分する必要があります」
「以上三点をもちまして、生徒会はエンジェル部を査問対象としました」
説明が終わる。
しかし、誰も口を開かなかった。
重苦しい沈黙。
ページをめくる音さえ聞こえない。
正義は静かに拳を握る。
夏休み。
三人で積み重ねてきた活動。
地域の人々から贈られた「ありがとう」。
そのすべてが、今――。
規則という名の前で試されようとしていた。




