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第109話 それでも

 職員室を後にした正義は、黙ったまま廊下を歩いていた。


 先ほど耳にした教師たちの言葉が、何度も頭の中で繰り返される。


 ――評価対象外。


 その一言が、胸に重くのしかかっていた。


 隣を歩く栞も、何も言わない。


 ただ、正義の表情を静かに見つめていた。


 やがて。


 正義がぽつりと口を開く。


「納得できません」


 栞は足を止めた。


 正義は拳を握り締める。


「地域の皆さんは喜んでくれました」


「楠市長も認めてくださいました」


「社会福祉協議会の皆さんにも感謝していただきました」


「それなのに……」


 一度言葉を切る。


「学校では評価されないなんて」


「こんなに頑張ってきたのに……」


 その声には、悔しさが滲んでいた。


 栞は静かに首を横へ振る。


「桜木君」


「私たちは、評価されるために活動してきたわけではありません」


 正義は黙って栞を見る。


「困っている人がいたから」


「誰かの力になりたかったから」


「それが、エンジェル部です」


 栞は穏やかに微笑んだ。


「だから私は、今までの活動を後悔したことは一度もありません」


 正義は少し俯く。


「……でも」


 栞は真っ直ぐ正義を見つめた。


「正しい努力は、いつか誰かが見ていてくださると、私は信じています」


「今は評価されなくても」


「皆さんが積み重ねてきたことは、決して無駄にはなりません」


「今日も地域の皆さんが、『ありがとう』と声を掛けてくださいました」


「あの言葉は、私たちが積み重ねてきた証です」


 正義は、礼拝堂で交わしたたくさんの『ありがとう』を思い出していた。


 河川敷。


 保育園。


 老人ホーム。


 炊き出し。


 病院。


 夏祭り。


 一つひとつの活動が、人と人との繋がりになっていた。


 栞は優しく微笑む。


「私は、その『ありがとう』だけで十分幸せです」


「それに」


「本当に頑張っている人のことは、きっと誰かが見ていてくださいます」


「だから私は、信じています」


 その言葉は、静かに正義の胸へ届いた。


 張り詰めていた心が、少しだけ軽くなる。


 正義は小さく笑った。


「……そうですね」


「ありがとうございます」


 栞も嬉しそうに微笑む。


「はい」


 二人は再び歩き出す。


 積み重ねてきた日々は、決して無駄ではない。


 正義は、栞の言葉を胸に刻みながら、静かに前を向いた。

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