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第107話 積み重ね

 始業式ミサの準備を終えた三人は、礼拝堂の片付けを済ませ、一息ついていた。


 その時だった。


「失礼します」


 教会の入口から一人の男性が入ってくる。


 社会福祉協議会の職員だった。


「あっ」


「いつもお世話になっております」


 栞が笑顔で頭を下げる。


 職員も穏やかに微笑んだ。


「こちらこそ」


「皆さん、夏休みは本当にお疲れさまでした」


 シスター小林も歩み寄る。


「今日は打ち合わせですか?」


「はい」


 職員は頷いた。


「来月以降のボランティア活動について、ご相談に伺いました」


「それと、皆さんにもお礼をお伝えしたくて」


 三人は少し照れくさそうに笑う。


 シスター小林は休憩室へ案内した。


「せっかくですから、お茶でも飲みながらお話ししましょう」


「ありがとうございます」


 休憩室。


 温かいお茶を囲みながら、五人は穏やかな時間を過ごしていた。


 職員が口を開く。


「今年の夏休みも、本当にお世話になりました」


「地域清掃では、河川敷や公園が見違えるほど綺麗になりました」


 凪が苦笑する。


「あの時は暑すぎて倒れるかと思いましたわ」


 部屋に笑いが広がる。


 職員は続けた。


「保育園では、子どもたちが皆さんと遊べる日を心待ちにしていました」


「老人ホームでは、利用者の皆さんが『また来てほしい』と何度も話してくださいました」


「炊き出しでも、多くの方が喜んでくださいました」


「病院では、子どもたちが皆さんのおかげで笑顔を取り戻しました」


「そして夏祭り」


「あの日は、本当に助かりました」


 正義は少し照れくさそうに笑う。


「思い返すと、本当に色々ありましたね」


 栞も優しく微笑んだ。


「どれも忘れられない思い出です」


 その時。


 シスター小林が三人を見つめながら、静かに口を開いた。


「皆さんは、どうして地域の皆さんがこんなにも温かく接してくださると思いますか?」


 三人は顔を見合わせる。


 正義が首を傾げた。


「……どうしてでしょう」


 シスター小林は穏やかに微笑む。


「積み重ねです」


「地域清掃も」


「保育園も」


「老人ホームも」


「炊き出しも」


「病院慰問も」


「夏祭りも」


「皆さんは、一つひとつの活動を真剣に続けてきました」


「信頼というものは、一日で生まれるものではありません」


「小さな親切」


「小さな思いやり」


「その積み重ねが、人の心を動かし、地域との信頼へと繋がっていくのです」


 社会福祉協議会の職員も深く頷いた。


「皆さんが活動してくださるから、『またお願いしたい』と思えるんです」


「それは、一度だけ頑張ったからではありません」


「皆さんが続けてくださったからです」


 正義は地域の人々から掛けられた『ありがとう』を思い出していた。


 あの言葉は偶然ではなかった。


 一つひとつの活動が積み重なり、少しずつ信頼へ変わっていった結果だったのだ。


 シスター小林は優しく微笑む。


「続けることが、一番大切なんですよ」


「派手なことをする必要はありません」


「目の前の一人を大切にすること」


「それを続けていけば、その想いは必ず誰かへ届きます」


 三人は静かに頷いた。


「はい」


 この夏休みに積み重ねてきたもの。


 それは奉仕活動だけではない。


 三人が育んできた信頼も、絆も、一日では決して築けなかった大切な積み重ねだった。

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