第103話 ラストスパー
八月三十一日。
夏休み最後の日。
朝から正義の部屋には、鉛筆を走らせる音だけが響いていた。
机の上には、昨夜よりもずっと少なくなった宿題の山。
残る宿題はあとわずか。
読書感想文。
作文。
そして、数枚のプリントだけだった。
正義は宿題を確認し、小さく頷く。
「あと少しです」
「ここまで来れば終わります」
凪は机へ突っ伏した。
「もうあかん……」
「眠い……」
目の下にはうっすらと隈ができている。
栞も苦笑しながら肩を回した。
「私も少し眠くなってきました」
正義は立ち上がる。
「少し休憩しましょう」
「飲み物を淹れてきます」
「神ぃ!」
凪が勢いよく顔を上げる。
「正義先生!」
「ありがとうございます!」
「先生じゃありません」
正義は苦笑しながら、三人分のコーヒーと紅茶を用意した。
温かい飲み物を口にすると、張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。
凪は大きく深呼吸した。
「よし!」
「ラストスパートや!」
三人は再び机へ向かった。
正義は数学や理科を教え、作文にも目を通す。
「ここは言い回しを変えた方が自然ですね」
「なるほど!」
凪は夢中でペンを走らせる。
栞も英語や漢字を確認する。
「ここはこの漢字ですね」
「ありがとう!」
カリカリ……。
部屋には鉛筆の音だけが響く。
そして――。
「……できた」
凪が最後の一文字を書き終えた。
一瞬、静寂が訪れる。
次の瞬間。
「終わったぁーーーー!!」
凪は両手を突き上げ、思い切り叫んだ。
正義は思わず笑う。
「お疲れ様です」
栞も嬉しそうに拍手した。
「間に合いましたね」
凪は完成した宿題を抱き締める。
「ありがとう!」
「二人がおらんかったら、絶対終わっとらんかった!」
正義は肩を竦めた。
「来年は計画的にやってください」
「それは無理や!」
「即答ですか」
三人は思わず吹き出した。
窓の外では、ツクツクボウシの鳴き声が響いている。
夏の終わりを告げる声だった。
長かった夏休みも、いよいよ終わりを迎える。
明日からは、新学期。
三人は少しだけ名残惜しそうに窓の外を眺めながら、静かに夏の終わりを感じていた。




