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第102話 徹夜勉強会

 八月三十日。


 エンジェル部室。


 机の上には、凪の夏休みの宿題が山のように積まれていた。


 漢字ドリル。


 数学。


 英語。


 理科。


 社会。


 読書感想文。


 自由研究。


 正義は一冊ずつ確認しながら、深いため息をつく。


「……これ、本当に終わるんですか?」


 凪は満面の笑みで親指を立てた。


「終わらせるんや!」


「気合いや!」


「気合いで終わる量じゃありません」


 正義は即座に突っ込む。


 栞も苦笑した。


「部室は夕方には閉まってしまいます」


「このままでは時間が足りませんね」


 正義は少し考え込んだ。


 そして静かに口を開く。


「それなら……」


「僕の家でやりませんか?」


「えっ?」


 二人が同時に顔を上げる。


「一人暮らしなので、夜まで勉強できます」


 凪は目を輝かせた。


「ほんま!?」


「助かるー!」


 栞も少し驚いたように正義を見る。


「そういえば桜木君、一人暮らしでしたね」


 正義は小さく頷く。


「はい」


「あの事件の後、地元を離れたかったので」


「なるべく家から遠い学校を選びました」


 栞は静かに頷いた。


「……そうでしたね」


 それ以上は聞かなかった。


 正義も、その先を語ることはなかった。


 こうして三人は、正義のアパートへ向かうことになった。


「お邪魔しまーす!」


 凪が元気よく部屋へ入る。


 栞も丁寧に一礼する。


「お邪魔します」


 正義は少し照れくさそうに笑った。


「狭いですけど、どうぞ」


 凪は部屋を見回し、目を丸くする。


「めっちゃ綺麗やん!」


「意外やなぁ」


「失礼ですね」


 正義は苦笑した。


(良かった……。)


(普段から掃除しておいて。)


(まさか僕の部屋に女子が二人も来る日が来るなんて思わなかった……。)


 栞も部屋を見渡し、感心したように微笑む。


「とても綺麗なお部屋ですね」


「ありがとうございます」


 しかし。


 そんな空気を壊す人物が一人。


「おっ!」


 凪が棚を物色し始める。


「何やこれ!」


「ちょ、ちょっと!」


「勝手に見ないでください!」


 正義は慌てて止めようとする。


 しかし一歩遅かった。


 凪は一冊のファッション雑誌を手に取っていた。


「見て見て!」


「このモデルさん、栞に似てへん?」


 栞は雑誌を覗き込み、小さく微笑む。


「本当ですね」


「少し似ているかもしれません」


 ページをめくる。


 今度は元気な雰囲気のモデルが載っていた。


 栞はその写真を見て言った。


「こちらの方は、凪ちゃんに似ていますね」


「えっ?」


 凪も覗き込む。


「ほんまや!」


 そして。


 二人はゆっくりと正義を見る。


「桜木君」


「どういうことですか?」


「たまたまです!」


 正義は全力で首を横に振る。


「本当に偶然です!」


 凪はにやにや笑う。


「へぇー?」


「普段こんなん見とるんや?」


「違いますって!」


 栞も少し頬を赤らめながら尋ねる。


「こういう方がお好みなんですか?」


「だから違います!」


「たまたま本屋で見掛けただけです!」


 凪は吹き出した。


「言い訳が苦しいなぁ」


 正義は頭を抱える。


「……もういいです」


「いいから早く勉強してください!」


 二人は顔を見合わせる。


 そして。


「あははは!」


 同時に笑い出した。


 笑いが落ち着くと、三人は机を囲んだ。


 正義は数学の問題を解説する。


「ここは、この公式を使います」


「なるほど!」


 凪は感心したように頷く。


 英語は栞が担当し、理科と数学は正義が教える。


 分からない問題を一つずつ解きながら、宿題は少しずつ減っていった。


 時計の針は、いつの間にか夜遅くを指している。


 夏休み最後の大勝負。


 三人だけの徹夜勉強会は、まだ始まったばかりだった。

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