第100話 夏祭りの終わり
夕暮れ。
第20回楠市民夏祭りは、大きな事故や混乱もなく、無事に幕を閉じようとしていた。
教会のバザーブースでは、エンジェル部の三人が後片付けを進めている。
「これで最後ですね」
栞が机を丁寧に拭く。
凪は大きく伸びをした。
「終わったぁ!」
「めっちゃ疲れたけど、めっちゃ楽しかった!」
正義も空になった段ボールを抱えながら、小さく笑う。
「本当に色々ありましたね」
迷子の保護。
真理亜との再会。
そして突然始まった市民参加型カラオケ大会。
どれも忘れられない出来事になった。
その時だった。
「皆さん」
聞き慣れた声が響く。
三人が振り向くと、楠市長が穏やかな笑顔で歩いて来た。
「楠市長」
三人は揃って一礼する。
市長は三人を見渡し、深々と頭を下げた。
「今日は本当にありがとう」
「皆さんのおかげで、市民の笑顔を守ることができたわ」
三人は驚き、慌てて頭を上げる。
「そんな!」
栞が首を横に振る。
「私たちは、自分たちにできることをしただけです」
凪も笑顔で続ける。
「みんなが楽しそうで、それが一番やったもん!」
正義も照れくさそうに笑った。
「僕も、皆さんが協力してくださったからだと思います」
楠市長は満足そうに頷く。
「その謙虚さも、皆さんの素晴らしいところだわ」
「今日のカラオケ大会も、本当に見事だった」
「困った時に前へ出て、人のために考えて動ける」
「そんな若者がおることを、わしは誇りに思うよ」
三人は少し照れくさそうに顔を見合わせた。
市長は優しく微笑む。
「これからも、無理のない範囲でええ」
「皆さんらしく、この街へ笑顔を届けてちょう」
「はい!」
三人は元気よく返事をした。
市長は満足そうに頷き、スタッフたちのもとへ戻っていく。
その背中を見送りながら、凪がぽつりと呟いた。
「ええ市長さんやなぁ」
栞も優しく微笑む。
「本当に、市民の皆さんのことを大切に思っていらっしゃる方ですね」
正義は夕焼けに染まる会場を見渡した。
笑顔で帰っていく家族。
名残惜しそうに手を振る子どもたち。
祭りの後片付けをするスタッフ。
そのどれもが、どこか温かく感じられた。
(少し前の僕なら……。)
(こんな景色、気にも留めなかっただろうな。)
人のために動くこと。
誰かの笑顔のために頑張ること。
その喜びを、今の自分は少しだけ知ることができた。
「帰りましょうか」
栞が微笑む。
「せやな!」
「お腹も空いたし!」
凪の一言に、正義は思わず吹き出した。
「最後まで凪さんらしいですね」
「あはは!」
三人は笑いながら、夕暮れの帰り道を歩き始める。
夏休み最後の大きな思い出。
それは三人の胸に、温かな達成感とともに刻まれた。




