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まだ恋とは呼べない距離で  作者: rio
大学生編
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第40話 特別と初恋

ある日の夕方。


理緒は、まみちゃんと駅前のファミレスで夕食を食べていた。


「そういえば、この前言ってたお兄さんとのご飯、どうだった?」


「うん。普通に話せたよ」


「良かったぁ」


まみちゃんは安心したように笑う。


理緒も小さく笑みを浮かべながら、ドリンクバーの紅茶へ口をつけた。


「なんかね、最近、少しずつ色んなことが変わってきた気がする」


「いい変化?」


「……多分」


まみちゃんは嬉しそうに頷く。


「大学も慣れてきた?」


「うーん……どうだろ。この間の英会話、初めての人とペア組んで疲れたし」


「あれ? 英会話は誠さんと一緒って言ってなかった?」


「誠さん? その日は休みだったの」


「そっか。だから知らない人と?」


「うぅん。同じ学部で顔は知ってたけど……」


理緒はフォークでパスタを巻きながら、小さくため息を吐いた。


「すごく気を遣っちゃって」


「どんな人?」


「明るい人。悪い人じゃないんだけど、距離感近くて……」


「チャラい感じ?」


「うーん……どうなんだろ」


理緒は困ったように眉を下げる。


「ご飯誘われたり、連絡先聞かれそうになったり……」


「えっ」


「でも、普通に親切だったし、感じ悪くしちゃダメかなとか、変に期待させるのもダメかなとか、色々考えてたら、すごい疲れちゃって……」


「あー……」


まみちゃんはどこか納得したように頷いた。


「りっちゃん、そういうのめちゃくちゃ考えちゃうタイプだよね」


「……うん」


理緒は少し肩を落とす。


「いつもの英会話は、こんな疲れ方しないのになぁって」


まみちゃんがぱちりと瞬きをした。


「へぇ? 誠さんがいるから?」


「うーん……そうなのかな。誠さんって距離感おかしいし、振り回されるし、勝手なんだけど……だから、私も変に気を遣わなくていいんだよね」


「ふぅん……」


「沈黙しても平気だし、雑な返事でもいっかって思える……」


そこまで話してから、理緒は少し考えるように首を傾げた。


「……なんでだろ」


まみちゃんは、じっと理緒を見ていた。


「りっちゃんって昔から、結構気ぃ遣いだったよね」


「……そう、かな?」


「うん」


まみちゃんはストローをくるくる回しながら続ける。


「でも、誠さんの話してる時のりっちゃんは……なんか自然?」


「自然?」


「うん。素っぽい」


理緒は少しだけ戸惑ったように視線を逸らす。


「……まみちゃんと話してるからじゃない?」


「違う違う」


まみちゃんは楽しそうに笑った。


「りっちゃん、最近めちゃくちゃ誠さんの話するし」


「えぇ!? そんなしてないよ!」


「してるよー」


理緒は反論しようとして、でも少し言葉に詰まる。


確かに最近、誠さんの話をする機会は多い気がする。


大学でも、アプリでも、兄のことでも関わっていたから。


……それだけ、だと思う。


「まぁ、でも、誠さんって不思議な人だよね」


「うん。お兄ちゃんも『高校で突出して変だった』って言ってた」


「りっちゃんは、それでも一緒にいて気が楽なんでしょ?」


「……うん。多分」


理緒は素直に頷いた。


「前に泊まった時も、全然気を遣わなかったし」


「へぇ――」


そこまで聞いた瞬間。


まみちゃんの動きが止まる。


「……え?」


理緒も止まる。


「……あ」


数秒の沈黙。


「泊まった!?」


まみちゃんの声が大きくなる。

周囲の客の視線がコチラへ向いた気がする。


「ち、違っ……いや、違わないけど……!」


「どういうこと!?」


「その、人身事故で電車動かなくなって……!」


「えっ、えっ、それで、誠さんの家!?」


「う、うん……」


まみちゃんは完全に固まっていた。


「りっちゃん……それ、大事件では……?」


「でも、本当に何もなかったよ!? 他の人もいたし……」


「いや、そういう問題じゃなくて!」


理緒は慌てて続ける。


「別に危ない感じとか全然なくて、普通にベッド貸してくれて、コーヒー淹れてくれて……」


「それで泊まったの!?」


「だって……だって夜道危ないから帰るなって……」


「りっちゃん、それ他の男の人に言われても泊まる?」


「え?」


「男の人の家に泊まる?」


理緒は想像しかけて、すぐに首を横へ振った。


「……無理かも」


「だよね!?」


まみちゃんは頭を抱える。


「りっちゃん、それ、誠さんだけってことだよ?」


理緒は小さく瞬きをした。


「……そうなのかな」


「そうだよ!」


まみちゃんはじっと理緒を見る。


「ねぇ、りっちゃんって、誠さんのことどう思ってるの?」


「どうって……?」


「好きなの?」


理緒は息を止めた。


好き。


その言葉が、胸の奥へ静かに落ちる。


でも。


すぐには答えられなかった。


「……分かんない」


まみちゃんは少しだけ目を細める。


「そっか」


理緒は俯きながら、小さく呟いた。


「私、昔……失敗したことあるから」


「……失敗?」


理緒は、テーブルの上でぎゅっと指を握った。


「中学生の頃、好きだった人がいて……」


理緒は、藤森先輩との恋を初めて言葉にして紡いだ。


まみちゃんは黙って聞いていてくれた。


「……でね、あの頃は『これは恋だ』って認めることもできなくて、『さようなら』も言えないまま、先輩は卒業しちゃった」


「それっきり?」


「うん。それっきり」


「そっか……それは、残るね」


「うん。正直、まだ『立ち直れた』とは胸を張って言えないかも」


「そっか……じゃあさ、それ小説にしちゃえば?」


「……え?」


「今、すごい聞き入っちゃったよ。すごくいい初恋だと思うよ」


「でも……」


「だから、りっちゃんの心の整理のためにも、一度形にして、昇華して前に進もうよ」


「形に……」


「うん。せっかくちょうどいいアプリあるしさ?」


「……えぇ!? アプリで書くの!?」


「うん。いいじゃん。連載にしちゃえば、小説読むためにアプリ開いてくれるようになるかもよ?」


「えぇ!? そんな需要あるかなぁ??」


「大丈夫だよ。少なくとも、私は読むよ。ね?」


「……うん……」

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