表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まだ恋とは呼べない距離で  作者: rio
大学生編
PR
43/48

第37話 仲直りと弟

理緒は兄に促されるまま店に入り、向かい合って席に着いた。


理緒は兄の顔をまともに見られず、俯いてしまう。


「……」


一瞬の沈黙。


その静けさが、かえって理緒を焦らせた。


「あの……お兄ちゃん……あのね――」


不意に、兄が「クスッ」と笑う。


「理緒、いつの間にか誠と仲良くなったんだね」


「仲良くはないよ!?」


思わず顔を上げて反論する。


兄は、どこか安心したような穏やかな表情で理緒を見ていた。


「いや……さっき、誠のほうが理緒の兄みたいだったから」


そう言ってから、兄の表情が少しだけ陰る。


「そんなわけない! 私のお兄ちゃんは、お兄ちゃんだけだよ」


兄は理緒の勢いに押されたように、目を丸くした。


「……僕が、理緒の兄でいいの?」


理緒は、一瞬返事に詰まる。


でも、その時、誠の言葉を思い出した。


――分からないなら、聞けばいい。


「……なんで? なんで、そんなこと言うの?」


「え……あ……」


今度は兄のほうが、困ったように言葉を詰まらせる。


「……理緒、あのね。僕……ずっと、理緒に嫌われてると思ってた」


「……え?」


予想もしなかった言葉に、理緒は目を見開く。


兄は少し視線を落とした。


「理緒、僕が中学に入った頃から、急に僕を避けるようになっただろ」


「ち、違うよ……! 避けてたの、お兄ちゃんのほうで……」


「僕は、理緒が僕を嫌になったんだと思ったんだ」


「そんなわけない……!」


理緒は思わず身を乗り出す。


「私が、お兄ちゃんに嫌われたんだって思ってたのに……」


「……そんなわけないだろ」


兄の声が、今度は静かに落ちる。


「理緒こそ、なんでそんなふうに思ってたの?」


「お兄ちゃんが、私との勝負に乗ってくれなくなって……それから、“会社は理緒が継げばいい”って言ったから……」


兄は、言葉を失ったように黙り込む。


理緒は補うように続けた。


「……でも、それは……私が無神経なこと言ったからで……」


兄は小さく息を吐いた。


「ごめん。勝負のことは、正直あまり覚えてないんだ。だから、そんなに深い意味はなかったと思う。中学に入って忙しくなったし、僕も……思春期だったし」


少し照れくさそうに笑う。


「でも、それ以上に、“理緒のほうが向いてる”って言ったことだよね」


「うん……」


「あれは、本心だよ。怒って言ったわけじゃない」


「……え?」


「正直、悔しい気持ちはあったかもしれない。理緒のほうが出来るって、思ってたから。でも、それで理緒に怒ったり、嫌いになったりしたことは一度もないよ」


「……そう、だったんだ……」


「うん」


理緒はぎゅっと手を握りしめる。


「でも、お兄ちゃん、それから私のこと避けて……挨拶くらいしかしてくれなくなって……だから私……」


「ごめん。理緒に八つ当たりした自覚はあったし、理緒が僕を怖がってるって思ってたから……どう接していいか分からなくなってた」


理緒は小さく息を吸う。


「……中二の夏、お祖母ちゃんが危ないって言われて、でも私が田舎行きたくないって言った時……お兄ちゃん、“家で二人きりは困る”って言った」


「あれは……理緒が困るかなって思って」


「困んないよぉ……」


ぽろり、と涙が零れる。


「えっ、理緒!?」


兄が慌てて身を乗り出す。


理緒は涙を拭いながら、それでも兄を真っ直ぐ見た。


「私、お兄ちゃんのこと、ずっと大好きだもん……」


「えぇっ!? ちょ、待って……」


兄は耳まで真っ赤になりながら、慌ててポケットからハンカチを取り出して差し出した。


理緒はそれを受け取り、目元へ当てる。


「……ありがと、お兄ちゃん」


兄は少し俯き、それから小さく笑った。


「……理緒。僕も、ずっと理緒のこと、大切な妹だと思ってたよ」


「……うん」


兄の声が少し小さくなる。


「僕も……理緒のこと、好きだよ」


理緒は、その言葉に、まるで幼い頃に戻ったような笑顔を向ける。


「……うん」


温かな沈黙が、二人の間にゆっくり広がった。


やがて理緒が、ふと思い出したように口を開く。


「……ねぇ、お兄ちゃん」


「ん?」


「お兄ちゃんって、シスコンなの?」


「……は?」


兄の動きが止まる。


「理緒、急に何を……」


「ふふっ」


理緒は、兄の慌てぶりが可笑しくて、思わず吹き出した。


「あのね、誠さんが、“達也はシスコンだ”って言うの」


「誠、あいつ……」


兄の声が低くなる。


理緒は気にせず続けた。


「“だから安心して二人で話してこい”って、背中押してくれたんだよ」


兄は小さく息を吐いて、苦笑した。


「……誠には敵わないな」


「お兄ちゃんでも敵わない人いるんだね」


「理緒は僕を何だと思ってるんだよ。うちの学校なんて、鬼才だらけだったぞ?」


「えぇっ? 誠さん以外にも、お兄ちゃんが敵わない人いるの?」


「そりゃいるよ」


「……そっか。そうなんだ」


理緒はどこか安心したように笑う。


兄も、完璧な人間じゃない。


ちゃんと悩んで、迷って、失敗もするんだ。


でも……


だからこそ、今こうして向き合えている気がした。


「……そろそろ、誠に連絡するか?」


「うん。そうだね」


兄はスマホを取り出しかけて、ふと思い出したように理緒を見る。


「ところで、誠と付き合ってるのか?」


「えぇ!? そんなわけないよ!?」


「誠が弟になるの、なんか嫌だな……」


「ちょっと、お兄ちゃん!? 弟って何!?」


「……いや、知らない男が弟になるよりはマシか……?」


「お兄ちゃんってば!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ