第33話 グループワークとカレー
毎日20時20分更新予定
全40話+番外編で完結となります。
晃サイドの続編を準備中です。
翌日、理緒のスマホにメッセージが届いた。
《2号館のカフェテリア来れる?》
理緒は短く返信する。
《お昼休みなら》
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昼休みのカフェテリア。
いつもの席には、先に誠さんが来ていた。
相変わらず、いつものカレーを食べている。
理緒はレジでたらこスパゲッティを注文し、トレーを受け取って席へ向かった。
席に着くなり、理緒は口を開く。
「……今日は、どうしたんですか?」
誠さんはスプーンを口に運びながら言う。
「一夜を共にした仲なのに、ランチ誘うのに理由いる?」
「その言い方やめてください」
理緒は睨みながら低い声で返した。
誠さんは少し笑ってから、ふっと表情を戻す。
「……昨日、達也から電話あった」
理緒の手が止まる。
「……え?」
「やっぱ、お前らお互い誤解してるだろ」
「誤解……?」
「達也、相変わらずシスコン兄貴だったぞ」
「はい!? 意味分かんないです」
誠さんは気にした様子もなく続ける。
「もう少ししたら日本帰ってくるって言うから、会うことになった」
「……会う?」
「お前、ちゃんと兄貴と話せ」
理緒は視線を落とした。
「……そんな、話すことなんて……」
「ある」
即答だった。
理緒は少しだけ眉を寄せる。
「でも……何を話したらいいか分からないです。家族で会っても、挨拶くらいしかしないし……」
「家族みんなでいるからだろ。二人で話せよ」
「二人きりは……兄が昔、“困る”って……」
「はぁ?」
誠さんが顔を上げる。
「あいつ、そんなこと言ったのか?」
理緒は小さく頷いた。
誠さんは少し考え込むように黙る。
それから、軽く息を吐いた。
「……それ、多分“嫌”とかじゃねぇよ」
「……え?」
「今お前が言ってるやつ。何話したらいいか分かんないって」
理緒は目を瞬かせた。
「……兄も?」
「知らん。でも、そうじゃねぇの」
「……」
「分かんねぇなら、聞けばいいだろ」
「聞く……?」
「『なんで私と二人きりは困るって言ったの?』って」
理緒は少し戸惑ったように誠さんを見る。
そんなふうに、真正面から聞くものなのだろうか。
誠さんは構わず続けた。
「だから、達也が帰ってきたら会うぞ」
一瞬迷う。
でも、逃げるのは違うと思った。
「……はい」
「時間決まったらまた連絡する」
「……兄には、私も会いに行くって伝えてあるんですか?」
「言ってる」
「……そうですか」
しばしの間沈黙が続く。
やがて理緒は、小さく笑いながら言う。
「……兄が本当にシスコンか、確認してみますね」
「おぉ。してやれしてやれ」
「さすがに、それはないと思いますけど」
「……」
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誠は、昨日の電話越しの達也の声を思い出していた。
『理緒、まだ俺のこと怖がってると思う』
あんな弱った声を聞いたのは、初めてだった。
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昼休みが終わり、理緒は午後の授業へ向かった。
後日予定されている企業訪問。
地域活性化事業を行っている企業での講義と見学に向けた、事前準備のグループワークだった。
しかし、授業にはどうしても集中できなかった。
気が付けば、兄のことばかり考えてしまい、悪い方向へ想像が膨らんでいく。
グループ内で、企業のどの事業を見学するか、質問したいこと、提案したいことなどを出し合っていく。
理緒は元々、こういったグループワークが苦手だった。
誰が仕切るのか。
誰がまとめるのか。
誰が意見を出すのか。
誰が情報を集めるのか。
グループを組むたびに、理緒は自分がどの役割になるのか、空気を読みながら輪へ加わる。
幸い、今回のグループには自然とリーダー役やまとめ役になる人がいたおかげで、理緒は静かなグループメンバーAでいられた。
それでも、グループワークが終わる頃には、理緒はすっかり疲れていた。
授業が終わり、荷物を鞄へしまいながら、深いため息をつく。
こんな時は――と、理緒はスマホを取り出し、まみちゃんへメッセージを送った。
《ご飯一緒に食べたいな》
すぐに返信が来る。
《明日なら大丈夫だよ》
理緒は少し迷ってから、
《明日の夕食いいかな?》
と返した。
《いいよ》
という短い返事に、少しだけ気持ちが軽くなる。
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帰り道。
大学近くの商店街を歩いていると、不意に声を掛けられた。
「あ、理緒ちゃん。こんにちは」
振り向くと、そこにいたのは昌大さんだった。
「昌大さん、こんにちは」
「久しぶりだね。……っていうほどでもないか」
昌大さんは軽く笑う。
「昌大さんも大学帰りですか?」
「ううん。僕は誠や理緒ちゃんとはキャンパスが違うんだ」
「そうなんですか?」
「僕、情報学科で別キャンパスなんだよ。そこの附属高校出身だから、誠のキャンパスにも知り合いが多くて。その縁で仲良くなった感じ」
「そうだったんですね」
昌大さんは理緒の顔をのぞき込むようにして言った。
「なんか、今日はちょっと元気ない?」
「あ……ちょっと考え事をしていて」
「そっか。もう帰る? よかったら夕飯でもどう? 今日は自炊する気分じゃなくてさ」
理緒は少しだけ迷ったあと、小さく頷いた。
「……ぜひ、ご一緒させてください」
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二人が向かったのは、昌大さんおすすめのインドカレー屋だった。
店内には異国風の装飾が並び、壁にはネパールの地図が飾られている。
「インドカレー屋さん、初めてです」
理緒が言うと、昌大さんは少し得意げに頷いた。
「たぶん、お店の人はネパールの人だと思うけどね」
「そうなんですか」
「真実って、知らないと分からないものだよねぇ」
理緒は小さく頷きながら席に着く。
店員へ注文を済ませ、やがてカレーが運ばれてきた。
昌大さんの説明を聞きながら、理緒はナンにカレーをつけて食べる。
「……美味しいです」
「でしょ? ここ、学生の味方なんだよ。安くて美味しくて、ちゃんと満たされる」
「……なんだか、少し元気が出ますね」
昌大さんは柔らかく笑い、それから、ふと表情を改めた。
「でさ、どうしたの?」
「え?」
「何か悩んでるんじゃないかなって」
理緒は手を止め、少し視線を落とした。
「あの……面白い話じゃないですよ」
「面白い話は期待してないよ」
その言葉に、理緒は少しだけ息を吐いた。
「兄と、あまり上手くいっていなくて……でも誠さんが、ちゃんと会って話した方がいいって」
「へぇ……誠が」
昌大さんは少しだけ目を細める。
「誠は適当に言うタイプじゃないからね。何か考えがあるんじゃないかな」
「あ、兄と誠さんは高校の寮の同室だったみたいで」
「知り合いなんだね。じゃあ、きっと大丈夫だよ」
「大丈夫、ですか?」
「うん。あいつを信じておけば、大きく外すことはないと思う」
理緒はその言葉に少し驚いた。
「……昌大さんと誠さんって、本当に仲がいいんですね」
「ね。キャンパス違うのに」
理緒は小さく笑みをこぼす。
「……少し、羨ましいです」
「理緒ちゃんなら、すぐ誠の一番になれると思うけど」
昌大さんは意味深に笑う
「……昌大さんには敵わないと思います」
理緒はそう言って、少しだけ困ったように笑った。
その時、二人のスマホが同時に鳴る。
《来週金曜日、会議。来れるか?》
「理緒ちゃんも、誠から?」
「あ、はい」
「理緒ちゃん、来週の金曜日来れる?」
「でも……」
「理緒ちゃんが来てくれたら、僕も嬉しいなぁ」
「でも、私なんて、昌大さんみたいに専門的な知識があるわけじゃないし……」
「そんなの問題ないよ。僕の役割は僕がやるから。それより、理緒ちゃんにしか頼めないことがたくさんあるから、来てくれたら僕たちは大助かり」
「……私にしか、出来ないこと……ですか?」
「うん。理緒ちゃんの危機管理能力は僕たちに欠けてた部分だし、野郎二人じゃ女の子の視点は分からないし。あと、広報活動も強化したいから……理緒ちゃん美人さんなんだもん」
「……私が役に立ちますかね」
「なるって。理緒ちゃんが忙しい時は無理にとは言わないけど、来れるなら来てよ」
「……そう、ですね」
「うん、うん」




