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まだ恋とは呼べない距離で  作者: rio
大学生編
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39/48

第33話 グループワークとカレー

毎日20時20分更新予定

全40話+番外編で完結となります。

晃サイドの続編を準備中です。

翌日、理緒のスマホにメッセージが届いた。


《2号館のカフェテリア来れる?》


理緒は短く返信する。


《お昼休みなら》


---


昼休みのカフェテリア。


いつもの席には、先に誠さんが来ていた。


相変わらず、いつものカレーを食べている。


理緒はレジでたらこスパゲッティを注文し、トレーを受け取って席へ向かった。


席に着くなり、理緒は口を開く。


「……今日は、どうしたんですか?」


誠さんはスプーンを口に運びながら言う。


「一夜を共にした仲なのに、ランチ誘うのに理由いる?」


「その言い方やめてください」


理緒は睨みながら低い声で返した。


誠さんは少し笑ってから、ふっと表情を戻す。


「……昨日、達也から電話あった」


理緒の手が止まる。


「……え?」


「やっぱ、お前らお互い誤解してるだろ」


「誤解……?」


「達也、相変わらずシスコン兄貴だったぞ」


「はい!? 意味分かんないです」


誠さんは気にした様子もなく続ける。


「もう少ししたら日本帰ってくるって言うから、会うことになった」


「……会う?」


「お前、ちゃんと兄貴と話せ」


理緒は視線を落とした。


「……そんな、話すことなんて……」


「ある」


即答だった。


理緒は少しだけ眉を寄せる。


「でも……何を話したらいいか分からないです。家族で会っても、挨拶くらいしかしないし……」


「家族みんなでいるからだろ。二人で話せよ」


「二人きりは……兄が昔、“困る”って……」


「はぁ?」


誠さんが顔を上げる。


「あいつ、そんなこと言ったのか?」


理緒は小さく頷いた。


誠さんは少し考え込むように黙る。


それから、軽く息を吐いた。


「……それ、多分“嫌”とかじゃねぇよ」


「……え?」


「今お前が言ってるやつ。何話したらいいか分かんないって」


理緒は目を瞬かせた。


「……兄も?」


「知らん。でも、そうじゃねぇの」


「……」


「分かんねぇなら、聞けばいいだろ」


「聞く……?」


「『なんで私と二人きりは困るって言ったの?』って」


理緒は少し戸惑ったように誠さんを見る。


そんなふうに、真正面から聞くものなのだろうか。


誠さんは構わず続けた。


「だから、達也が帰ってきたら会うぞ」


一瞬迷う。


でも、逃げるのは違うと思った。


「……はい」


「時間決まったらまた連絡する」


「……兄には、私も会いに行くって伝えてあるんですか?」


「言ってる」


「……そうですか」


しばしの間沈黙が続く。


やがて理緒は、小さく笑いながら言う。


「……兄が本当にシスコンか、確認してみますね」


「おぉ。してやれしてやれ」


「さすがに、それはないと思いますけど」


「……」


---


誠は、昨日の電話越しの達也の声を思い出していた。


『理緒、まだ俺のこと怖がってると思う』


あんな弱った声を聞いたのは、初めてだった。


---


昼休みが終わり、理緒は午後の授業へ向かった。


後日予定されている企業訪問。


地域活性化事業を行っている企業での講義と見学に向けた、事前準備のグループワークだった。


しかし、授業にはどうしても集中できなかった。


気が付けば、兄のことばかり考えてしまい、悪い方向へ想像が膨らんでいく。


グループ内で、企業のどの事業を見学するか、質問したいこと、提案したいことなどを出し合っていく。


理緒は元々、こういったグループワークが苦手だった。


誰が仕切るのか。

誰がまとめるのか。

誰が意見を出すのか。

誰が情報を集めるのか。


グループを組むたびに、理緒は自分がどの役割になるのか、空気を読みながら輪へ加わる。


幸い、今回のグループには自然とリーダー役やまとめ役になる人がいたおかげで、理緒は静かなグループメンバーAでいられた。


それでも、グループワークが終わる頃には、理緒はすっかり疲れていた。


授業が終わり、荷物を鞄へしまいながら、深いため息をつく。


こんな時は――と、理緒はスマホを取り出し、まみちゃんへメッセージを送った。


《ご飯一緒に食べたいな》


すぐに返信が来る。


《明日なら大丈夫だよ》


理緒は少し迷ってから、


《明日の夕食いいかな?》


と返した。


《いいよ》


という短い返事に、少しだけ気持ちが軽くなる。


---


帰り道。


大学近くの商店街を歩いていると、不意に声を掛けられた。


「あ、理緒ちゃん。こんにちは」


振り向くと、そこにいたのは昌大さんだった。


「昌大さん、こんにちは」


「久しぶりだね。……っていうほどでもないか」


昌大さんは軽く笑う。


「昌大さんも大学帰りですか?」


「ううん。僕は誠や理緒ちゃんとはキャンパスが違うんだ」


「そうなんですか?」


「僕、情報学科で別キャンパスなんだよ。そこの附属高校出身だから、誠のキャンパスにも知り合いが多くて。その縁で仲良くなった感じ」


「そうだったんですね」


昌大さんは理緒の顔をのぞき込むようにして言った。


「なんか、今日はちょっと元気ない?」


「あ……ちょっと考え事をしていて」


「そっか。もう帰る? よかったら夕飯でもどう? 今日は自炊する気分じゃなくてさ」


理緒は少しだけ迷ったあと、小さく頷いた。


「……ぜひ、ご一緒させてください」


---


二人が向かったのは、昌大さんおすすめのインドカレー屋だった。


店内には異国風の装飾が並び、壁にはネパールの地図が飾られている。


「インドカレー屋さん、初めてです」


理緒が言うと、昌大さんは少し得意げに頷いた。


「たぶん、お店の人はネパールの人だと思うけどね」


「そうなんですか」


「真実って、知らないと分からないものだよねぇ」


理緒は小さく頷きながら席に着く。


店員へ注文を済ませ、やがてカレーが運ばれてきた。


昌大さんの説明を聞きながら、理緒はナンにカレーをつけて食べる。


「……美味しいです」


「でしょ? ここ、学生の味方なんだよ。安くて美味しくて、ちゃんと満たされる」


「……なんだか、少し元気が出ますね」


昌大さんは柔らかく笑い、それから、ふと表情を改めた。


「でさ、どうしたの?」


「え?」


「何か悩んでるんじゃないかなって」


理緒は手を止め、少し視線を落とした。


「あの……面白い話じゃないですよ」


「面白い話は期待してないよ」


その言葉に、理緒は少しだけ息を吐いた。


「兄と、あまり上手くいっていなくて……でも誠さんが、ちゃんと会って話した方がいいって」


「へぇ……誠が」


昌大さんは少しだけ目を細める。


「誠は適当に言うタイプじゃないからね。何か考えがあるんじゃないかな」


「あ、兄と誠さんは高校の寮の同室だったみたいで」


「知り合いなんだね。じゃあ、きっと大丈夫だよ」


「大丈夫、ですか?」


「うん。あいつを信じておけば、大きく外すことはないと思う」


理緒はその言葉に少し驚いた。


「……昌大さんと誠さんって、本当に仲がいいんですね」


「ね。キャンパス違うのに」


理緒は小さく笑みをこぼす。


「……少し、羨ましいです」


「理緒ちゃんなら、すぐ誠の一番になれると思うけど」


昌大さんは意味深に笑う


「……昌大さんには敵わないと思います」


理緒はそう言って、少しだけ困ったように笑った。


その時、二人のスマホが同時に鳴る。


《来週金曜日、会議。来れるか?》


「理緒ちゃんも、誠から?」


「あ、はい」


「理緒ちゃん、来週の金曜日来れる?」


「でも……」


「理緒ちゃんが来てくれたら、僕も嬉しいなぁ」


「でも、私なんて、昌大さんみたいに専門的な知識があるわけじゃないし……」


「そんなの問題ないよ。僕の役割は僕がやるから。それより、理緒ちゃんにしか頼めないことがたくさんあるから、来てくれたら僕たちは大助かり」


「……私にしか、出来ないこと……ですか?」


「うん。理緒ちゃんの危機管理能力は僕たちに欠けてた部分だし、野郎二人じゃ女の子の視点は分からないし。あと、広報活動も強化したいから……理緒ちゃん美人さんなんだもん」


「……私が役に立ちますかね」


「なるって。理緒ちゃんが忙しい時は無理にとは言わないけど、来れるなら来てよ」


「……そう、ですね」


「うん、うん」

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