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まだ恋とは呼べない距離で  作者: rio
大学生編
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32/48

もう恋とは呼べない距離で

毎日20時20分更新予定

全40話+番外編で完結となります。

晃サイドの続編を準備中です。

大学の講義を終えた帰り道。

晃は、いつものように電車へ乗り込むと、空いていた端の席へ腰を下ろした。


スマホを取り出しかけて、ふと顔を上げる。


何となく車内を見回した、その時だった。


――……あ。


数メートル先。


車内の反対側の端の席で、理緒がうたた寝をしていた。


鞄を抱え込むように座り、小さく上下する肩。 揺れるたび、柔らかな髪が頬へ落ちる。


イヤホンを片耳だけつけたまま、静かに眠っていた。


晃は、一瞬だけ目を見開く。


――なんで……。


偶然。


ただ、それだけだった。


それなのに、心臓が妙にうるさい。


晃は視線を逸らしかけて、また理緒を見る。


起きる気配はない。


数年ぶりに見た理緒は、少しだけ大人びていた。

それでも、知っているままの理緒だった。


――声、かける?


ふと、そんな考えが浮かぶ。


でも。


何て?


「久しぶり」?


それとも、 「たまたま見かけたから」?


頭の中で言葉を並べてみる。

どれも、不自然だった。


そもそも、自分たちは今、どういう関係なんだろう。


友達?

元恋人?

もう他人?


考えようとするほど、答えが曖昧になる。


晃は小さく息を吐いた。


理緒は眠ったまま、何も知らない。


自分だけが勝手に動揺している。


――別に、話しかける理由なんてないだろ。


そう思う。


けれど、視線を外せない。


電車が揺れる。


理緒の頭が小さく傾き、また元に戻る。


その何でもない仕草から、視線を外せなかった。


車内アナウンスが流れた。


晃は顔を上げる。


自分が降りる駅だった。


――あ……。


立つべきなのに、身体が動かない。


理緒はまだ眠っている。


このまま乗っていれば、もう少しだけここにいられる。


でも。


だから何だ。


晃はゆっくり立ち上がる。


ドアの前へ向かいながら、一度だけ振り返った。


理緒は、変わらず眠っていた。


電車が減速する。


ドアが開く。


晃はホームへ降りた。


春の風が吹き込む。


後ろ髪を引かれるような感覚を抱えたまま、振り返る。


車内の理緒は見えなかった。


プシューッ、と音を立ててドアが閉まる。


その瞬間。


晃は、自分が息を止めていたことに気付いた。


肺の奥が、じわりと苦しい。

息をゆっくりと吐く。


発車ベルが鳴る。


電車はゆっくり動き出し、そのまま晃の前を通り過ぎていく。


晃は黙ったまま、それを見送った。


もう、引き返せない。


その事実だけが、静かに胸へ沈んでいく。


氷を落とされたみたいに、胸の奥が冷たかった。

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