まだ名前も呼べない距離で
毎日20時20分更新予定
全40話+番外編で完結となります。
晃サイドの続編を準備中です。
中間テスト期間。
放課後の図書室は、普段より静かだった。
理緒はいつもの席に座って問題集を開いていた。
少しして、隣の席の椅子が引かれる音。
「……ここ、いい?」
聞かなくても座るのに。
そう思いながら、理緒は小さく頷く。
「はい」
藤森先輩が隣に座る。
机に参考書を置いて、軽く伸びをした。
「疲れた……」
「塾ですか?」
「うん。最近ずっと勉強してる気がする」
先輩はそう言って笑う。
理緒も小さく笑って、再びノートへ視線を落とした。
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しばらくすると、自習する生徒が増え、図書室の席が埋まってくる。
「理緒っち、ここいいかな?」
波瑠が向かいの席を指しながら、荷物を置く。
「誰も使ってないから、大丈夫だと思うよ」
「邪魔してごめんね」
そこに、永田先輩もやってくる。
「藤森、ここいいか?」
波瑠の隣の席へ、どかっと座る。
「ん? おう……」
四人で机を囲み、それぞれ問題集に視線を落とす。
しばらくして、波瑠が小さく唸った。
「んんん……分かんない。理緒っち、この問題の解説の意味分かる?」
「分かるかな……ちょっと見てもいい?」
波瑠から問題集を受け取ろうとした時、横から大きな手が伸びて、問題集を取っていく。
「どれ? えーっと……これは、この前の問題で出てきた公式使うんだよ」
「あ、そっか。こっちで解説されてるんですね」
「そうそう。だからここ、省かれてるだけ」
永田先輩と波瑠だけで話が進み、理緒の入る隙はなくなる。
理緒は小さく視線を落として、再び自分の問題集を開いた。
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しばらくして、
「そろそろ帰ろっかな」
波瑠がそう言って片付け始める。
「じゃ、俺もこのへんにしようかな」
永田先輩も鞄を肩に掛ける。
二人はそのまま並んで図書室を出ていった。
「波瑠と永田先輩、いい雰囲気でしたね」
理緒は何となく言ってみる。
「……波瑠って、永田に憧れてるんだっけ?」
「……はい。そうみたいです」
何となく、胸の奥が少しだけざわつく。
「そっか。なら、うまくいくんじゃねぇの」
先輩は、何か知っているみたいに言う。
「そう、ですか……」
「おう」
少しだけ間が空く。
「……あの」
「ん?」
「先輩は、波瑠のことは『波瑠』って呼ぶんですね」
「……え?」
「その……私のことは『神崎』なのに」
言った瞬間、少しだけ恥ずかしくなる。
でも、もう引っ込められない。
先輩は一瞬だけ目を丸くして、それから少し視線を逸らした。
「いや……呼ぶっていうか、他学年の女子の苗字なんて覚えてないから」
「え?」
「神崎が『波瑠』って呼んでるから、名前は分かったけど……苗字、覚えてねぇんだよ」
「……じゃあ、私の名前は覚えてます?」
言ったあとで、自分でも少し驚く。
どうして、そんなことを聞いたんだろう。
先輩は少しだけ黙って、それから観念したみたいに口を開く。
「……神崎理緒」
名前を呼ばれた瞬間、胸の奥がくすぐったくなる。
理緒は視線を落としたまま、小さく呟く。
「……覚えてくれてるんですね」
問題集へ視線を戻す。
でも、さっきから文字が全然頭に入ってこなかった。
中学生編、ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。
この物語を書き始めた時、私は「派手な展開」よりも、「誰かの心に残る感情を呼び起す物語」を書きたいと思っていました。
理緒と晃の距離や、言葉にならない気持ち、少しずつ積み重なっていく時間を、ゆっくり読んでくださる方がいることが、とても嬉しいです。
中学生編はひとつの区切りになりますが、二人の物語そのものが終わったわけではありません。
まだ私の中にも、書きたい感情や、描きたい時間の続きがあります。
この先の物語についても、少しずつ形にしていく予定です。
そして、更新を追ってくださっている方、ブックマークをくださった方、本当に励みになっています。
感想を書こうか迷っている方がいらっしゃったら、もし一言でもいただけたら、とても嬉しいです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
引き続き、この物語を見守っていただけたら嬉しいです。




