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まだ恋とは呼べない距離で  作者: rio
中学生編
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26/48

第23話 決定と選択肢

毎日20時20分更新予定

全40話+番外編で完結となります。

晃サイドの続編を準備中です。

クリスマスイブ前日の夕食の席。


クリスマスイブの話が、母の口から出た。


「今年のクリスマスイブは、去年と同じレストランに行きましょう」


理緒は、すぐには意味を理解できなかった。


「……家族で?」


「うん。毎年そうしてきたでしょ」


その言葉に、記憶が少しだけ重なる。


確かに、そうだった。


小さい頃から、クリスマスイブは家族で過ごしてきた。


母は続ける。


「今年は特にね。お兄ちゃん、来年は受験でしょ。そのあと大学に行ったら、たぶん留学するって言ってるし」


一瞬だけ、空気が変わる。


「……だから、今年が最後みたいなものなのよ。家族でちゃんと過ごせるの」


理緒は黙る。


“最後”


その言葉だけが、少しだけ引っかかる。


母は柔らかく言う。


「だから終業式の後、早く帰ってきてね。お兄ちゃんを駅まで迎えに行かなきゃいけないし」


それは決定だった。



---


夕食後。


理緒は部屋に戻って、しばらくベッドに座っていた。


スマホを手に取って画面を開く。


指が少し止まる。


——言わなきゃ。


そう思うのに、すぐには動かない。


やがて、ゆっくり打つ。


«クリスマスイブ、家族で過ごすことになりました»


言葉を選びながら、何度も打ち直し、結局一番最初の言葉に戻る。


«すみません»


送信。


既読はすぐについた。


少しして返信。


«そっか»


短い。


理緒はその文字を見つめる。


そのあと、すぐに続く。


«じゃあ、その前に少しだけでも会えない?»


理緒の心は惹かれる。


でも、すぐに別の感覚が重なる。


——せっかく時間を作ってもらっても、少ししか会えないかもしれない。


——また、予定を変えさせてしまうかもしれない。


先輩の「我慢する」という言葉が浮かぶ。


それが優しさだと分かっているのに、

どこかで重く感じてしまう自分もいる。


理緒は打つ。


«せっかく時間を作ってもらっても、あまり会えないかもしれません»


送信。


すぐ返る。


«それでもいい»


即答。


その強さが、少しだけ痛い。


理緒はもう一度打つ。


«でも、いつも先輩が私に合わせてくれている気がして»


送信。


少し間。


«問題ない»


またすぐ返ってくる。


そして続く。


«会いたいから会ってるだけだろ»


その言葉に、理緒は息を止める。


嬉しいはずなのに、

安心しきれない。


理緒はゆっくり打つ。


«でも、私が先輩を苦しめているなら、それは違う気がします»


送信。


先輩からすぐ返信がくる。


«苦しくない»


短い。


強い。


でも、その奥に少しだけ焦りが見える気がした。


理緒は画面を見つめる。


本当は分からない。


どちらが正しいのかも。


ただ、ひとつだけ分かる気がしていた。


このままだと、

何かがどんどん“無理な形”になっていく。


また打つ。


«今のままだと、私も少し苦しいです»


送信。


既読。


数秒の沈黙。


先輩からの返信。


«……なにが?»


理緒は答えられない。


なにが、と言われても、

はっきりした理由はない。


でも、全部が少しずつ重い。


夜に出ること。

母に隠すこと。

予定を変えさせてしまうこと。

先輩が「我慢する」と言うこと。


それら全部が、ひとつの形になって胸に残っている。


理緒はゆっくり打つ。


«うまく言えません»


送信。


そして、少しだけ迷ってから続ける。


«でも、このまま続けるのは、もう違う気がします»


送信。


既読。


しばらくして。


«違わない»


その一言。


理緒はスマホを握る。


胸の中がざわつく。


“続ける理由”も、“やめる理由”も、

どちらも決定的じゃない。


ただ、この状態がずっと続くのが怖かった。


ゆっくり打つ。


指先が少し震えている。


«……先輩を幸せにできるのは、私じゃないと思います»


送信。


すぐに返信。


«は?»


一瞬。


そして続く。


«何それ»


理緒は目を閉じる。


さらに来る。


«理緒はどうしたいんだよ»


その言葉で、全部が止まる。


どうしたいのか。


分からない。


でも、分からないまま続けるのが怖い。


このまま会えば、

また嬉しくなって、

また苦しくなって、

また同じことを繰り返す気がした。


理緒は打つ。


«これ以上続けると、どんどん分からなくなる気がします»


送信。


少しの間。


先輩から。


«じゃあどうすんだよ»


理緒は画面を見つめる。


答えは、どこにもない。


でも、ひとつだけ“消去法”みたいに浮かぶ。


続けない以外に、楽になる方法が思いつかなかった。


理緒はゆっくり打つ。


«……やめた方がいいのかもしれません»


送信。


既読。


長い沈黙。


そして、先輩から。


«やめるって何»


理緒は、その言葉を見つめる。


ただの先輩後輩とも、恋人とも違う、名前のない関係。


だから、“やめる”の意味も曖昧だった。


でも、言葉にするしかなかった。


理緒は打つ。


指を止めずに。


«これ以上会うのをやめるということです»


送信。


すぐに既読。


でも、返信はしばらく来なかった。


数分後。


«……意味わかんない»


それだけ。


理緒はスマホを握ったまま、動けない。


少しして、最後の一通。


«俺はやめたくない»


«理緒が勝手に決めてるだけだろ»


理緒の胸が痛む。


でも、それも分かる。


自分でも、正しいとは思っていない。


だからこそ、最後に打つ。


«先輩を縛る関係は、正しくないと思います»


送信。


そして、一拍置いて。


«ごめんなさい»


送信。


既読。


沈黙。


やがて。


«……分かった»


その一言だけ。


理緒はスマホを少し投げるようにベッドに置く。


天井を見上げる。


胸の奥には、何も整理されていない感情だけが残る。


嬉しかったことも、

苦しかったことも、

全部まだ途中のまま。


ただひとつだけ、確かなことがあった。


“終わった”のではなく、


“続けられなかった”のだということ。


――この日の決断が、間違っていたことを、大人になった今なら分かる。でも、この日の私には、それ以外の選択肢はなかった――

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