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まだ恋とは呼べない距離で  作者: rio
中学生編
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25/48

第22話 正しさと我慢

毎日20時20分更新予定

全40話+番外編で完結となります。

晃サイドの続編を準備中です。

夜の玄関は、いつもより重く感じた。


ドアを開けた瞬間、母の声が飛んでくる。


「理緒」


怒鳴るわけではない。


でも、短い声だった。


反射的に背筋が伸びる。


「……はい」


リビングに入ると、母はキッチンに立ったままこちらを見ていた。


表情は怒っているというより、感情を抑えているように見えた。


「今日、遅くない?」


「……ちょっと、話してて」


「“ちょっと”じゃないでしょ。前より遅いじゃない」


理緒は言葉に詰まる。


母は一歩近づく。


「誰と?」


その問いで、空気が変わる。


「……友達です」


「夜に?」


「……塾の帰りに」


母はため息をつく。


「理緒」


その声は、少しだけ強くなった。


「何度も言ってるけど、夜に出歩くのはやめなさい」


理緒は視線を落とす。


「……ごめんなさい」


「謝るなら、やめられる?」


その問いに、答えは出なかった。


沈黙。


母はそれ以上責めなかったが、許したわけでもなかった。


「もう遅い時間に外で話すのは禁止。分かった?」


「……はい」


---


部屋に戻ると、ドアを閉めた瞬間に力が抜けた。


ベッドに座る。


スマホを開く。


指が重い。


――どう伝えればいいんだろう。


先輩に、母に強く言われたことをそのまま伝えるのは違う気がした。


でも、隠すのも違う気がした。


迷いながら打つ。


«ちょっと、お母さんに怒られてしまいました»


少し考えて、続ける。


«夜の外出は控えるように言われました»


そこで一度止まる。


本当はもっと厳しかった。


でも、そのままは言えない。


だから濁す。


«ごめんなさい»


送信。


既読はすぐについた。


数秒後。


«仕方ない。連れ出してごめん»


理緒の胸が少しだけ締まる。


すぐに、また続く。


«会える時、会おう»


理緒は指先で唇に触れる。


先輩の言葉に応えたい。


なのに、不安も混ざる。


打つ。


«先輩にも、無理させてしまっている気がしていて……»


送信。


すぐに返ってくる。


«無理してない»


短い。


でも、その言葉の奥に焦りのようなものが見える気がした。


理緒は画面を見つめる。


また打つ。


«私のために時間を使わせてしまって、大丈夫ですか»


送信。


少し間。


そして――


«だから大丈夫だって»


続けて、


«むしろ、会えない方が無理»


理緒の指が止まる。


その言葉に、嬉しさと、少しだけ重さを感じる。


また少し時間が空く。


そして、先輩から。


«受験終わるまではちゃんとやる。夜会えなくても我慢する»


«だから、クリスマスだけは会いたい»


理緒の胸が、きゅっと鳴る。


――私も会いたい。


その必死さも分かる。


理緒は息を吐く。


何が正しいのか、分からない。


このまま側にいたい。


でも、どう続けていけば正しいのかも分からない。


どちらも、完全には選べなかった。


だから、曖昧なまま応える。


«分かりました。クリスマスイブ、楽しみにしてます»


送信。


すぐに返事が来る。


«絶対な»


理緒は小さく頷くように画面を見て、


«はい»


と返した。


スマホを置く。


部屋は静かになる。


胸の奥に残っているのは、今日の幸せな時間と、後ろめたさ。


その間で揺れる、まだ名前のつかない感情だった。


理緒は目を閉じて、ベッドに倒れ込む。


まだ、答えは決まっていないまま。

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