第15.5話 誕生日プレゼント
毎日20時20分更新予定
中学生編完結まで執筆済み
全50話前後を予定しています
「お兄ちゃん、今度の土曜日に池袋行きたいから付き合って」
未来はソファに寝転ぶ兄を見下ろす。
「行かない。メンドイ」
即答だった。
「えぇー。ママに一人で行っちゃダメって言われたの! お願い!」
「やだ」
また即答。
でも、これは未来の予想通りだった。
未来はわざとらしくため息をつく。
「理緒の誕生日プレゼント買いに行きたかったのになー」
兄の肩が、ぴくっと反応する。
未来は気づかないふりをしたまま続ける。
「誰か行ける人探さないとなー。クラスの友達は予定合わなかったしなー」
そう言いながら、ちらっと兄を見る。
「……しょうがねぇなぁ」
未来はぱっと顔を上げる。
「え!? お兄ちゃん来てくれるの!?」
「クラスの友達ダメだったんだろ。しょうがねぇじゃん」
「へへ〜ん。ありがと、お兄ちゃん」
「なんでニヤニヤしてんだよ」
「べつにぃ?」
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土曜日。
池袋の雑貨屋で、未来はマグカップ売り場の前にしゃがみ込んでいた。
「お兄ちゃん、これ可愛くない? すっごい理緒っぽい」
未来は、水色の猫柄のマグカップを持ち上げる。
「あ、でも理緒はこっちの方が好きそう!」
今度は、夜空に流れ星が描かれたマグカップを手に取った。
「どっちがいいかなぁ?」
「はぁ? 俺に聞くなよ」
「だって、どっちも可愛くて迷うんだもん。理緒にずっと使ってほしいし」
「ずっと使う……ね」
晃は小さく呟いて、少しだけ考える。
「……こっちの方が、大人になっても使えるんじゃねぇの?」
指差したのは、流れ星のマグカップだった。
「うんうん。こっちの方がオトナっぽくて理緒っぽいよね。さすがお兄ちゃん、分かってる〜」
「だから、なんでニヤニヤしてんだよ」
「べつにぃ?」
未来は楽しそうに笑いながら、値札を見る。
「あ……でも、これ予算オーバーだ」
「は?」
「これ二千円する。でも、あたし千円しか持ってない」
晃は呆れたように眉を寄せる。
未来はわざとらしく肩を落とした。
「これ、ぜーったい理緒が気に入ると思ったのになー」
その言葉に、晃は小さくため息をつく。
「……しょうがねぇなぁ」
「え?」
「いくら足りねぇんだよ」
「千円!」
「……レジ行くぞ」
未来はぱっと顔を輝かせる。
「やったー!」
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一学期の終業式の日。
「理緒、一日早いけど、お誕生日おめでとう!」
未来はラッピングされた箱を差し出した。
「未来、ありがとう」
理緒は少し驚いたように受け取る。
「開けてもいい?」
「もちろん!」
包装を開くと、中から流れ星柄のマグカップが現れる。
「わ……可愛い」
理緒の表情が、ふわっと柔らかくなる。
未来は満足そうに笑った。
「これね、池袋でお兄ち――」
「おにいち?」
「……うぅん! 池袋ですっごい悩んで買ったの!」
「そうなんだ。嬉しい」
理緒はマグカップを両手で包むように持つ。
「大事にするね」
「うん!」
未来は嬉しそうに頷く。
「じゃ、また夏休み明けにね!」
「うん。ありがとう」
未来は満足げに教室を出ていった。
『お兄ちゃんが理緒にベタ惚れなの分かりやすいんだけどなぁ』
廊下を歩きながら、未来はひとりで笑う。
『でも、理緒はお兄ちゃんのこと、どう思ってるんだろ』
――その後、理緒がこのマグカップを十年以上使い続けていることを、晃は知らない――




