第15話 テスト勉強と不安
毎日20時20分更新予定
中学生編完結まで執筆済み
全50話前後を予定しています
期末テスト期間。
図書室は、普段より静かだった。
参考書と問題集を広げた生徒が、一定の距離を保って座っている。
理緒も、その中の一人だった。
いつもの席に座り、問題集に視線を落とす。
少しして、椅子が引かれる音。
顔を上げなくても分かる。
隣に座ったのは、藤森先輩だった。
「……ここ、いい?」
「はい」
短い会話。
それ以上は続かない。
ページをめくる音だけが、ゆっくり重なっていく。
しばらくして。
先輩の手が止まる。
シャーペンを持ったまま、問題文を読んでる。
でも、書かない。
視線だけが、同じところに留まっている。
理緒は一瞬だけその様子を見る。
——分からないのかな。
そう思う。
でも、何も言わない。
言えない。
数分後。
先輩は小さく息を吐いて、シャーペンを置いた。
そして、問題集を閉じる少しだけ乱暴な音。
周りの何人かが、わずかに視線を向ける。
「……ダメだ」
そう小さく、呟く。
理緒の手が止まる。
「難しいですか?」
なるべく、軽く聞く。
先輩は少しだけ笑う。
「いや……難しいっていうか」
一拍。
「やってなさすぎた」
その言い方は、冗談みたいだった。
でも。
どこか、冗談じゃない響きがあった。
理緒は視線を落とす。
ページの文字が、少しだけ遠く見える。
——間に合うのかな。
ふと、そう思う。
でも、それを口には出さない。
先輩は今度は参考書を開く。
今度は、さっきよりゆっくりページをめくる。
さっきまでの軽さが、少しだけ消えている。
ペン先がノートを滑る。
今度は、止まらない。
静かな時間が戻る。
でも。
さっきと同じではなかった。
理緒は問題を解きながら、ほんの少しだけ意識が横に向く。
隣で、先輩が問題を解いている。
普段より、少しだけ真剣な顔。
——ちゃんとやれば、できる人。
そう思う。
でも同時に、
——やらなかったら、危ない人。
そんな考えも浮かぶ。
その瞬間、
ふと、別の顔が重なる。
——兄。
テストの前、
夜遅くまで真剣に勉強する顔
理緒の手が、止まる。
すぐに動かす。
何も考えていないふりをする。
先輩が、ぽつりと言う。
「……ちゃんとやらないとだな」
独り言みたいな声。
理緒は顔を上げないまま答える。
「……まだ時間あります」
それだけ。
それ以上は言わない。
先輩は少しだけ笑った。
「そうだな」
でも、その声は少しだけ薄い。
また、静けさが戻る。
ページをめくる音、ペンの音、遠くの時計の音。
理緒は問題を解きながら、思う。
——関係ない。
これは、私には関係ない。
そう思ったのに、
なぜか、さっきより集中できなかった。




