第12.5話 兄妹
ママと妹と三人で、電車で出かけた帰り道。
「グスッ……グスッ……」
「ほら、理緒。電車来たから乗るわよ」
まだ五歳になったばかりの妹は、疲れて泣いてしまった。
ママも、それは分かっている。
でも、荷物が多くて抱っこできないんだ。
電車のドアが開き、中から人が降りてくる。
全員が降り終わるのを確認して、空いている席を探す。
――ここだ!
三席並んで空いた席に、達也は素早く座る。
その瞬間、両隣に知らない人が座った。
――すわられちゃった!
ドアの方を見ると、まだグズったままの理緒と、それにオロオロするママが立っていた。
「理緒、ほら……お兄ちゃんの近く行こう」
「グスッ……グスッ……」
ママと理緒がゆっくり近づいてくる。
「……理お、ここすわる?」
達也は席を立って、理緒に譲る。
「グスッ……グスッ……」
理緒は首を振って、座ろうとしない。
「理緒、疲れたんでしょ? 座りなさい」
「うぁぁぁ……!」
ママに強く言われて、理緒は泣き出してしまう。
ママは困ったように眉を下げた。
「……達也、とりあえず座ってなさい」
「……はぁい」
達也は座り直し、理緒とママの様子をうかがう。
「理緒? 疲れたんじゃないの?」
「……グスッ……」
理緒は何も答えない。
「……」
ママは困った顔のまま、黙ってしまった。
「……理お、ここすわる?」
達也は自分の膝をぽん、と叩き、腕を広げる。
理緒は顔を上げ、達也の顔を見る。
「理お?」
達也は優しく笑いかける。
理緒は、ぐしゃぐしゃに泣いた顔のまま、にこっと笑った。
そして小さな体で椅子によじ登る。
達也が理緒を引っ張り上げると、理緒はくるっと向きを変えて、達也の膝にちょこんと座った。
達也は、理緒が落ちないように後ろから支える。
「達也、ありがとう」
ママが、ほっとした顔で言う。
なんだか、ママだけじゃなくて、電車の中の人たちにも見られている気がして、達也は恥ずかしくなる。
達也は理緒を支える手にぎゅっと力を入れ、理緒の背中に隠れる。
――理おのせなか、あったかい……。
「おにぃちゃん、ありがと」
この物語は、実際に作者が電車で見かけた兄妹がモデルです。
あまりにも可愛くて、いつか書きたいと思っていました。
もしモデルになったご本人たちがどこかで読んでいたら――
あの日、とても素敵な光景を見せてくれて、ありがとうございました。




