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4-11 国外追放された借金持ちの平民聖女は、今日も元気にジャガイモを育てる

五歳の時に両親と引き剥がされ、国のために毎日のお祈りと、荒れ果てた大地や国中に広がる防護結界の修復を行っている平民聖女のマリッテ。

毎日働き詰めで、子供のように遊ぶ暇もない彼女の心の救いは、質素だがとても美味しいご飯だった。

しかし、聖堂が借金を抱えてしまい、食事量が減ってしまったマリッテは、意を決して大好きなジャガイモの栽培を開始!

聖堂の庭の畑に、聖女の力で育てた種芋を植えた後、何故か王族の少年・アルカイダが突然彼女の前に現れて?

そこからマリッテは、アルカイダを含む陰謀に巻き込まれ始め、借金を背負わされたまま、育てたジャガイモたちと共に国外追放される事になるのだった。

 聖女。それは、国を魔物から守ったり、国土を豊かにしたりと、国や国民の人々の支えとなる存在である。

 生まれた時から、ごく平和な辺境田舎に住む平民の聖女として生まれたマリッテは、五歳の時に両親から引き剥がされ、王都にある聖堂へと連れて行かれた。

 彼女を待ち受けていたのは、毎日三回のお祈りと、荒れ果てた大地を聖女の力で救う事。

 そして、月に一回、国を覆う勢いで広がる防護結界の修復だ。

 毎日毎日働き詰めで、子供のように遊ぶ事さえも許されない過酷な日々。

 そんな中、マリッテの心を救ったのは、優しい神官と聖堂内の図書室に通う事。

 そして、質素だがとても美味しいご飯だった。

 特に、美味しいご飯を一日二食食べられる事が嬉しく、そのためにマリッテは今日も祈りを捧げて国を守り続ける。

 しかし、いつしか楽しみだったご飯は、段々と量を減らされ、最終的には生だったりパサパサしたものしか出されなくなった。

「ねぇ、神官様。どうして今日の朝ご飯は、こんなに少ないの?」

「それはね、この聖堂が借金を抱えちゃったからなんだ。だから、少なくてごめんね」

「……そうなのね。分かったわ」

 マリッテは悲しい気持ちのまま、出された食事を自分の部屋に運び、もそもそと食べ始めた。


 実は、この聖堂が借金を抱えていた理由を、マリッテはよく知っていた。

 あれは、とある日の眠れない夜。庭を散歩しようと思った彼女は、聖堂にある応接室の明かりがついている事に気が付いた。

 そこの扉の隙間から覗いてみると、そこにはワイン片手にギャンブルや嗜好品を嗜む神官たちの姿があった。

『はっはっはー!これでチェックメイトですな!』

『くうぅ……また借金が増えるぅ』

『それがギャンブルの醍醐味ですからな!これで金銀宝石を更に買う事が出来る!ワインも煙草も我らのものだ。なぁに、あの聖女の小娘に何も与えずとも、新しい聖女を当てがえば良い。さぁ、ギャンブルの続きを始めよう』

 目の前に広がるあり得ない光景に、マリッテの心は今にも潰されそうになっていた。

(あれは、神官様と、別の聖堂の悪い神官様。あぁ、借金ってこうやって作られちゃったのね。可哀想に……)

 だから、次の日も、その次の日も。マリッテはご飯が少ないのを神官に問うも、文句を言わずに食事を摂った。

 ただ、マリッテはこの時から、既に学んでいたのだ。世界一大好きなジャガイモを栽培して増やす方法を。

 それは、ある曇った日の、図書室での出来事。

 もっと沢山ご飯を食べられないかと考えたマリッテは、お祈りが終わったあとの空き時間で図書室に行き、料理の本や植物栽培の本を読み漁った。

(ふむふむ。ジャガイモって、こんなふうに育てる事が出来るのね。これを機に、厨房から洗われてないジャガイモを一つ盗んで、庭の小さな畑に埋めてみようかしら)

 この時のマリッテは、まだ十歳の子供であり、厨房で料理をする事は出来ない。

 だから、聖女の力でジャガイモを育てようと考えたのだ。


 そして、今日がそのジャガイモを庭の畑に埋める日。

 朝食を摂ったマリッテは早速、一ヶ月前に厨房から盗んだ小さなジャガイモを、庭の小さな畑に素手で埋め始めた。

「よいしょ、よいしょ……。うん、これでバッチリね。ちゃんと聖女の力で、種芋の芽の出方を良くしておいたから、いいジャガイモになるわ。緑色の芽が多く出ている方を上にして、土から十五センチほど下に埋めて、そこから七センチほど土を上に盛って。これでまた毎日聖女の力を使えば、問題なし。さて、お祈りは朝食前に終わっているし、次のお祈りの時間まで図書室にいましょう」

 マリッテはルンルン気分のまま、聖堂へと向かう道を進んでいく。

 すると、物陰から誰かがいきなりやってきて、彼女はビックリして尻餅をついた。

「きゃっ!いったぁ」

「うわわっ!ごめん。驚かせちゃった、かな?」

「ええ、平気よ。あり、がとう……」

 腰をさすりながらマリッテが顔をあげると、そこにいたのは、どことなく大人びている綺麗な少年だった。

 向日葵の花びらを連想させる金色の髪に、夏の青空を彷彿とさせる青い瞳。

 着ている服が汚れ一つない高級感を漂わせているため、この少年はきっと高貴な身分なのだろう。

 そのいでだちが、まるで物語に出てくる王子様のようで、マリッテはとっさに顔を赤くする。

 だが、目の前にいる少年も同じで、彼もマリッテの顔を見た途端、顔を耳まで真っ赤にした。

「あ、えと。へ、平気なら、よかった」

「え、えぇ。ちゃんと立てるから、安心して、下さい?」

「ふはっ!なんで疑問形なんだい?でも、君は立派な可愛いレディだから。はい、お手をどうぞ」

「あ、わ、分かったわ」

 ぎこちなくなるも、マリッテは少年が差し出した手を掴んで、その場から立ち上がる。

 その時、急に手が土まみれだった事に気付き、咄嗟に彼女は手を引っ込めて後ろに回した。

「あれ?どうして、手を後ろに回してるのかな?」

「あ、あの、ごめんなさい。手、土で汚れてるから。貴方の手も汚しちゃって」

「土?あぁ、問題ないよ。だって子供は土で遊ぶものだろう?僕はもうすぐ成人する王族の人間だから、土まみれになる事はあっても、土で遊べないから」

「お、王族!?」

 突然少年から発せられた身分に、マリッテは目を大きく見開いて驚きを露わにする。

 そんな彼女を見た少年は、次の瞬間、ハハッと笑って土まみれの手を払い、右手を腰に当てた。

「まぁ、まだ王位とかは継げないんだけどね。次男坊でもうすぐ十五歳だし、勉強が嫌で外で剣を振るったり散歩したりしてるし。あと、ここにとても若い聖女がいるって言うのを、風の噂で聞いたのだけれど」

「えっ!?多分、それは……私だと思、います」

「そうなの!?そっかぁ、土まみれの聖女様かぁ」

「土まみれって、いつもはそうじゃありません!ただ、大好きなんだジャガイモを育てようと、してて……」

 勢い良く話したからか、内緒にしていたジャガイモ栽培の事まで言ってしまい、我に帰ったマリッテはつい俯いて、両手を後ろに組んだまま左右に身体をくねらせた。

「ん?ジャガイモ?どうしてジャガイモを君は育てているんだい?」

「だ、だって、この聖堂、借金まみれで!美味しい食料も少なくなってたから、少しでも食料を増やしたくて。聖女の力があれば、きっと三ヶ月後には立派なジャガイモが出来ると思うし。三ヶ月ぐらいなら、少ない食事でも耐えられるかなって」

「ふむ。なるほど。やっぱり、ここが資金難に遭ってるというのは、あながち間違いではなかったんだね」

「……え?」

 突然、少年が斜め下を向いて何かをブツブツ言ったものだから、マリッテはよく聞き取れずに首を傾げる。

 次の瞬間、少年は顔をバッとあげて、両手を彼の目の前で軽く降った。

「あぁ、気にしないで、聖女様。あと、そろそろ神官殿もいらっしゃる頃だし、ね」

「はい?神官さ、ま!?」

「こらー!マリッテー!前にジャガイモが一つ足りないと思ったら、そう言う事だったのかー!ジャガイモを盗むなー!そしてアルカイダ殿下も巻き込むなー!」

「きゃあぁ!神官様が走ってこちらに向かってるわ!ど、どうしましょう、どうしましょう!」

「あっははは!という事で、逃げる?今なら、土まみれの君をおぶって外に出てもいいよ。なんてね」

「うぅ、その提案はありがたいですけど、後々面倒になると思うので、説教受けます」

「はははっ!了解。僕も君を諌めなかったから、一緒に叱られに行こうか」

 こうして、知り合った王族の少年・アルカイダと共に、マリッテは聖堂の神官にしこたま叱られたのだった。

 

 あれから数時間後。夜の最後のお祈りを終えてマリッテが眠りについた頃。

 夜の聖堂の執務室で、二台のソファにそれぞれ座った神官とアルカイダは、とある話し合いを進めていた。

「神官殿。君が集めたワルヌール聖堂の悪事は、これで以上かな?」

「はい。強引にギャンブルを持ちかけられ、応じなければ聖女を殺すと言われてしまっては、どうにもなりませんでした。そのうえ、こちらの資料にある通り、王家からの潤沢な資金でさえも、殆ど横流しされる始末。これでも、聖女マリッテの食事量を私の食事量より増やしてはいますが、飢えて死にゆく彼女を見ていられないのです」

「うんうん。やっぱり君は優秀で優しい神官殿だ。僕の近くにいて欲しいなぁ。あと、僕はこの国の王子じゃなくて隣国の王子だから、殿下呼びはやめてくれよ」

「いえ。ゆくゆくは貴方の国の神官となるのです。マリッテも連れて行ってくれると言う事であれば、この国に未練はありません。本物の両親ではないですが、私の娘も同然ですから」

 深々と頭を下げる神官に、アルカイダは顎に指を当てて、不敵な笑みを浮かべた。

「こちらこそ、マリッテには一目惚れをしてしまってね。是非とも妻にしたいと思っているけれど、この証拠を今出してもワルヌール聖堂の神官に逃げられるかもしれない。ここは『マリッテに聖堂の借金を追わせて、乾燥地帯が半分以上を占める僕の国に追放する』とした方が、この国に聖女はいらないと認知出来る。本当は、聖女がいないと崩れるのはこの国だというのに」

「ふっ、本当に悪いお人だ。この国ごとワルヌール聖堂を潰すとは。この計画はマリッテに伝えても?」

「ああ。彼女は聡明な子だと、一緒に話してみて理解したからね。今後の計画の為に、よろしく頼むよ」

 

 こうして数ヶ月後。マリッテは聖堂の借金を作った罪で、育てたジャガイモたちと共にアルカイダのいる国に追放宣告を受けた。

 その後、聖女を失った国がどうなったのかは、ご想像にお任せするとしよう。

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