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【御礼5,000PV到達】氷室の野望(仮)第壱巻 ~戦国突入編~  作者: 和音
外伝

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4 竹中半兵衛【1567年3月31日 最後の日】

久しぶりの掲載です。

また、初めてのプレイヤー以外の外伝となります。

書きながら「戸侯記っぽいな……」と思いつつ、そのまま最後まで書き切りました(笑)。


『1567年3月31日 竹中半兵衛――』



一昨日、半兵衛は単身京を発った。


その日、半兵衛は主・織田信長に従い足利義昭公の定宿である京にある本圀寺へ同行した。

本圀寺へ行った理由は、信長が美濃へ戻る挨拶のためであった。


しかし半兵衛は今ここで信長が京を離れる事には反対だった。

そして本圀寺に入ったのち、信長自身にも意見を伝えた。

理由の一つ目は、京から落ち延びた三好氏の動向がいまだはっきりしないこと。

二つ目に平定したばかりの南近江の情勢が不安定であること。

そして三つ目は、これから会う足利義昭公に含むところを感じるからだった。


もちろん何らかの証拠があるわけではない。

ハッキリ言えば直感だ。


ただ、その理由を言う前に、主は義昭公に呼ばれて部屋に入っていった。

そして、おおよそ四半刻後。

部屋から出てきた信長と、随伴した織田信広殿はかなり険しい表情だった。


本圀寺の中では誰もが無言で歩き、境内を出た途端に信長が口を開いた。

「すぐに京を出る」


何があったのかは、あえて聞かなかった。

ただ、信長は得たばかりの南近江も捨てて美濃まで引き下がると決めていた。

もちろん異論は無かった。信長が決めた事なのだ。

むしろ、思い切って美濃まで戻るなら反対では無かった。


信長からは、近江小谷城へ赴き浅井長政殿へ助力を請うために行くよう承った。

半兵衛はすぐに支度を整え、護衛を五人ほど引き連れて京を出発したのであった。



それから二日後。

途中、馬を変えながら駆け続けた半兵衛と五人は、無事に小谷城に到着した。

身上を述べると、すぐに大手門が開き中へ通された。

山城である小谷城は、不思議なほど静寂に包まれていた。


家臣や家人などの人影は無く、居たのは最低限の人数の門番と守備兵。

しかも誰もが無言かつ無表情だ。


しばらく歩いたのち、本丸前に到着した。

ここに至ってもなお人影が無い。


――おかしい。


そう思いつつもしばらく待っていると、使番が出てきた。

「ご案内いたします」

使番はそう言うと、先頭を歩き半兵衛と五人は本丸の中に通された。


しばらく廊下を歩いたのち使番は立ち止まると

「御供の方々はここでお待ちください。御食事を運ばせます」

と言い、五人は部屋で待つこととなった。



本丸の階段を上り通されたのは、大広間ではなく少し広めの部屋だった。

「こちらでお待ちください」

そう言うと使番は頭を下げて去っていった。


半兵衛は刀の鯉口を切った。

何か起きた時に、すぐに対処出来るようにしておくためだった。


しばらくすると

「失礼いたす」

障子の向こう、廊下から声が聞こえた。

そして部屋の中に見知らぬ武士が入って来て、正面に座った。


その武士は頭をわずかに下げると言った。

「拙者は浅井家家臣、海北綱親と申す」

かの有名な海赤雨の三将の一人だった。


「竹中半兵衛重治と申します」

そう言って半兵衛も頭を下げた。

続けて聞く。

「長政様は居られぬので?」


すると綱親は

「は。殿は御気分が優れず、御休みされておりまする」

と答えた。

「急を要する話があるのだが……」

と言うと、綱親は遮るように

「某がお聞きし、殿へお伝えいたしまする」

言う。有無を言わせない雰囲気だ。


「……されば、出直しまする」

そう言ってわずかに頭を下げて、刀を持って立ち上がろうとしたその時だった。


――ガタン!!


大きな音を立てて、廊下とは反対側の襖が勢いよく開かれた。

そして

「ふんっ!」

武士が一人上段から刀を振り下ろした。


――ガギッ!!


半兵衛も片膝を立てた状態ですぐに右手で刀を抜いて、それを受け止めた。

「何者!」

半兵衛が言うと

「遠藤直経と申す!御命頂戴仕る!」

そう叫びながら直経が二撃目を振り下ろした。


すると半兵衛は、空いている左手を懐に入れ、出すと同時に二人に向けて何かを撒いた。


目潰しの石灰が白い霧となって部屋に舞う。

「ぐっ……!」

綱親が思わず目を覆い、遠藤直経も一瞬だけ太刀筋を乱す。


その隙を逃さず、半兵衛は畳を蹴った。


――今だ!


障子へ駆け寄り、一気に外へ出る。


だがその瞬間。

「討てっ!」

廊下の左右に潜んでいた武者たちが、一斉に姿を現した。

槍、槍、槍。

十数本の穂先が半兵衛へ向けられる。


「……おのれ」

半兵衛は静かに刀を構えた。


「討ち取れ!」

怒号とともに槍が突き出される。

半兵衛は最初の二本を斬り払い、三本目を身を捻ってかわす。

そのまま踏み込み、一人の槍兵を袈裟懸けに斬り伏せた。

返す刀でもう一人。

血飛沫が廊下へ散る。


しかし敵は怯まない。

一人倒れれば、すぐ次が前へ出る。

「囲め!」

背後から太刀が閃いた。


半兵衛は振り返りざま受け止めるが、その隙に槍が脇腹を貫いた。

「……ぐっ!」

熱いものが身体を走る。


槍を斬り落とし、刺した兵を斬り伏せる。

それでも次々と敵が押し寄せる。


「おのれ竹中半兵衛……」

目を押さえていた綱親が、ようやく視界を取り戻し刀を抜いて廊下へ歩み出た。


半兵衛は脇腹から血を流しながらも、静かに刃を構える。

肩で息をしている。

それでも、その眼だけは少しも死んではいなかった。


「まだ戦うか」

綱親が低く問う。


半兵衛はわずかに笑みを浮かべた。

「ふ……」

その一言だけだった。


「……見事」

綱親はそう呟くと、刀を静かに構え直した。


「掛かれ!」

号令とともに槍兵たちが一斉に踏み込む。

半兵衛は最初の突きを払う。

返す刃で一人を斬り伏せ、身を沈めて二本目をかわす。

しかし、三本、四本と続く槍をすべて避け切ることはできなかった。

一本が太腿を貫き、さらに一本が肩口を裂く。


「ぐっ……!」

膝がわずかに揺らぐ。

その隙を、遠藤直経は見逃さなかった。


「ふんっ!」

鋭い踏み込み。

上段から渾身の一太刀が振り下ろされる。

半兵衛は受ける。

激しい金属音が廊下に響いた。


だが、傷ついた腕では勢いを殺し切れない。

刃が押し込まれ、肩口を深く裂いた。

鮮血が飛び散る。

なおも半兵衛は退かない。


「まだ……!」

裂帛の気合とともに踏み込み、直経へ斬り返す。

直経は身を引いたが、頬を浅く斬られた。


「くそっ……!」

直経は血を拭いながら焦る。

その瞬間だった。


「そこだ!」

綱親の一声。


左右から四本の槍が同時に突き出される。


一本は腹を。

一本は脇を。

一本は背を。

一本は胸を。


半兵衛の身体が大きく震えた。

刀が畳へ落ちる。


乾いた音だけが響いた。

なおも半兵衛は膝を折らない。


槍に貫かれたまま、静かに前を見据えていた。

「……信長様……頼む……」


誰へ向けた言葉だったのか。

あるいは、自らに言い聞かせたのか。

誰にも分からない。


ふっと全身から力が抜ける。

四本の槍に貫かれた身体が静かに前へ傾き、槍が引き抜かれると同時に崩れ落ちた。


――ドサッ


その場に響いたのは、その小さな音だけだった。

誰も追い討ちをかけようとはしない。

すでに、その必要はなかった。


海北綱親は刀を納め、しばらく倒れ伏す半兵衛を見つめていた。

「……見事な最期であった」

静かな声だった。


遠藤直経も頬から流れる血を拭いながら、無言のまま刀を下ろす。

廊下には十数人の兵が立っている。

それほどの人数を相手にしながら、半兵衛はなお六人を斬り伏せたうえ多くに傷を負わせていた。


誰一人、勝ち名乗りを上げる者はいない。

ただ重苦しい沈黙だけがその場を包んでいた。



障子の向こうでは、春の風が山を渡っている。

その風は、まるで何事もなかったかのように桜の花びらを運び、一枚、また一枚と血に染まった床へ舞い落ちた。


竹中半兵衛重治。

享年二十四歳だった。


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