33 続きからはじめる(1567年9月8日 足利家)【信長との対面】
わからんな……側には居らぬのか。
義昭(草薙恭祐)は信長との対面後、思案していた。
今日の対面で、出席していた者たちのパラメータは一通り見た。
さほどの違和感は無かった。
そう、違和感だ。
自分の知っていること、やっていること。
ここに対する『違和感』は、プログラムやAIには無い、人にとって重要な感性の一つだ。
今日の対面で感じた違和感は一つだけだ。
――織田信広。
この者が、この場に居ること。
織田信広は、異母弟である信長に反旗を翻したのち、制圧され尾張の地で細々と暮らしたはずだった。
それが今は岐阜に居る。
しかも座る場所から見ると結構な上席だ。
ただ、「このぐらいだろう」と思われるパラメータとそこまで乖離は無い。
自分が知る歴史とそれに基づく違和感。
そして目にした信長とその家来衆。
今のところ「これだ」という決定打はない。
織田信広にしても、ただ単にそこに居るだけだ。
歴史の微妙なズレが信広をここに居させている可能性も高い。
いずれにせよ、京へ上るまでの間、自らを悟られること無くもうしばらく注視せねばなるまい。
しかし信長の家臣団。
今更ながら、つわものぞろいだ。
正直なところ羨ましくもある。
自分の転生先が義昭ではなく信長だったら。
そう思わないでもない。
だが、私はもうすぐ征夷大将軍だ。
武力はともかく、権力は信長を大きく凌ぐことになる。
京に上り朝廷より将軍職さえ賜れば、自らの能力を全開放してすぐに天下統一してみせる。
そしてこのゲームの権限を手に入れて、世界でも指折りの富裕層に上り詰める事が出来るのだ。
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「失礼いたします――。
織田上総介信長様がご面会を求めて参られております」
客間で考え込みながら休んでいると、共に岐阜に来た細川藤孝がそう知らせてきた。
―ほう、信長が。
「あいわかった。通せ。
それとそなたと光秀も同席せよ」
「ははっ」
藤孝が応じて光秀を呼びにいく。
信長が来るか。
先程の大広間と異なり、ここならばもう少し突っ込んで話も出来る。
探りを入れてみる、か。
藤孝と光秀が部屋に来てしばらくしたのち、襖の外から声がした。
「織田上総介信長様、参られました」
「通せ」
襖が静かに開く。
入ってきたのは信長一人だった。
家臣は連れていない。
義昭はわずかに目を細めた。
――ほう。一人で来るか。
信長は座に進み出ると膝をつき、丁寧に頭を下げた。
「夜分に恐れ入ります。義昭様」
「構わぬ。面を上げよ」
信長が顔を上げる。
その目は昼間の謁見のときと同じく、静かでどこか底が見えない。
義昭は内心で小さく笑った。
――やはり信長はただ者ではないな。
「それで信長殿。何用かな?」
藤孝が言う。
信長は一瞬、言葉を選ぶように沈黙した。
「上洛の件にございます」
義昭は頷いた。
「うむ。そなたならば必ずや道を開いてくれると信じておる」
信長はゆっくりと顔を上げた。
「ただ、その前に一点だけ……確認したきことがございます」
空気がわずかに張り詰めた。
光秀が横でわずかに眉を動かす。
「ほう?」
義昭は面白そうに言った。
「何を聞きたい」
信長は言った。
「義昭様は……この世を、どこまでご存知でございますか」
――なんだと?
その瞬間。
藤孝の表情が固まった。
光秀の目が鋭くなる。
だが義昭は――感情を抑え込んで微動だにしなかった。
むしろ口元がわずかに笑った。
「面白いことを聞く」
信長の目は義昭から逸れない。
義昭は少しだけ身を乗り出した。
「逆に聞こう、信長殿」
静かな声。
「そなたはこの世を、どこまで知っておる」
二人の視線がぶつかる。
部屋の空気が重く沈んだ。
数秒。
沈黙。
やがて信長は言った。
「では率直に申し上げます」
義昭は頷く。
信長は続けた。
「この世は――」
一瞬の間。
「武家の棟梁を求めておりまする」
「ほう?」
「先の将軍、義輝公が討たれたのち、この世は棟梁を求めております」
「うむ」
「義昭様が棟梁になられるために――まずは世を御知り頂くことです」
光秀の目が見開いた。
藤孝は完全に黙り込んだ。
義昭はゆっくりと笑った。
「……なるほど」
「来年の春には京に上り、将軍職に就かれる事はさほど難しいとは思っておりませぬ」
信長は言い切った。
「心強いな」
「されど――」
かぶせるように言い、またもや一瞬の間。
「将軍になられたのち、万が一にもその身内で争う事は愚策にございます」
「信長殿!」
「無礼な!!」
藤孝と光秀が激高する。
「控えよ」
義昭は落ち着いた声で二人を抑える。
信長は義昭から視線を外さない。
「義昭様」
信長は姿勢を改めると、両手を着き頭を下げて、続けた。
「某が申し上げましたこと、努々お忘れなきよう。
そして、織田家を信じてくださいませ」
そう言ったのち、深く頭を下げた。
「うむ。決して忘れぬ」
義昭はそう答えた。
そして、信長は部屋を退出した。
「なんと無礼な……」
藤孝が言う。
「されど、言われた事はあながち間違いではござらぬ」
光秀が返す。
「その通りだ」
義昭がぼそりと言う。
そう。信長の言うとおりである。
このやりとりが史実にあったものなのかどうか。
さすがにそれは分からない。
史実にあったとすれば、いずれ至る信長包囲網の火種を感じ取っていたのか。
又は史実ではなく、プレイヤーに諭されて牽制に来たか。
はたまた信長自身がプレイヤーか……。
どうにも受け取れるやりとりだった。
やはりまだ、しかと見ていかなければ。
ただ、非常に面白いと感じていた恭祐であった。
<1567年9月8日時点>
―歴史乖離率:4.1%
―安定化モジュール:通常出力
―現実世界アンカー不安定率:不明(無効化処理済)
―管理者権限保有者:氷室真紀
織田信長【真紀】(33)…統86 武63 知75 政71 魅80
織田信広【誠人】(35)…統35 武66 知71 政64 魅76
柴田勝家(41)…統89 武88 知59 政69 魅81
丹羽長秀(32)…統76 武71 知80 政75 魅72
木下秀吉(30)…統69 武58 知77 政72 魅84
竹中重治(23)…統81 武35 知92 政88 魅82
林秀貞 (54)…統52 武44 知68 政72 魅57
前田利家(28)…統75 武83 知62 政41 魅70
足利義昭【恭祐】(30)…統91 武49 知93 政70 魅79
明智光秀(39)…統75 武77 知80 政71 魅76
細川藤孝(33)…統72 武61 知86 政83 魅79




