26 現し世【お勉強】
ログアウトして現世に戻った私は、誠人が買っていた『徳川家康の本』を強奪しその日は終日読書に費やした。
翌日は金曜日だったので普段通り出勤。
仕事をするフリをしながらひたすらネットで歴史のお勉強。
お勉強していく中で知識の部分以外でも改めてよく分かったこと、というよりも考えさせられたことが一つ。
例えば、本能寺の変。
明智光秀が織田信長に謀反を起こし、本能寺に居た信長を急襲する有名な変。
学校で歴史を習う時、
『1582年、家臣の明智光秀が主君の織田信長に対し謀反を起こした』
だいたいがこれで終わる。
けれど、この変には原因があり、今もなおそれを探求している人も居る。
そして亡くなったのは当然織田信長だけではない。
嫡男信忠、有名な森蘭丸などなど。
本能寺だけでなく同じく襲撃を受けた二条御所まで入れると相当数の武将が亡くなっている。
教科書ではわずか一行で記されているが、実際には様々な人物が関係し、数多くの無名な人たちの命もまた散っている。
歴史とは、そういう無名の人たちの生死の上に成り立っている。
その亡くなった人たちのうち、もし一人でも生き残ったら。
場合によっては様々な因子に作用し、後世の歴史は大きく変わる可能性もあるのだ。
要はバタフライエフェクトだ。
『氷室の野望(仮)』はゲームであり、その中で起こる出来事、イベントは史実に沿って再現しているだけ。
実際にあった昔の出来事が寸分たがわずそのまま再現されているわけではない。
そこに生きていた人々。
無名の武士や商人、農民などはプログラムが生成したオブジェクトだ。
それでも。
ゲームの中で歴史は変わる。
そしてこれは普通のテレビゲームとは没入感が、感情移入のレベルが半端ではない。
普通にそこに居る人と会話できること。
再現されたその時を我が目で見て、匂いを嗅ぎ、温度を感じられること。
これがどれほど大きく作用するかよく分かった。
『氷室の野望(仮)』を他ゲームに応用すれば、たぶん大革命になると思う。
我ながらすごいゲームを作ったもんだ……。
と、心の中での自画自賛と認識、そして少しの恐怖を感じながら歴史のお勉強でその日は仕事(?)を終えた。
定時のチャイムが鳴り、飲み会におじじ達から誘われるも満面の笑顔で断り、いつも通りおにぎりとお酒、つまみを買うと家へ帰った。
帰宅するとすぐに、買ったものをほお張りながら強奪本の続きを読んだ。
1時間ほど読み進めたのち、これまたいつも通り換気扇の下で一服中に誠人が来た。
「ただいまー」
「おかえりー、っておい」
ツッコミを入れながら私は換気扇の下に戻り一服を継続。
誠人はコンビニで買った総菜をつまみながらとコーラを飲み始めた。
「そういえばさ」
「ん?」
一服しながらボーっとしていたら誠人が話しかけてきた。
「今日ふと思ったんだけど……」
「うん」
「このゲームさ、改めて最初から始められるの?」
そう。
実は私も昨日それを思った。
現実世界を変える?ことが出来るとした場合、『続きからはじめる』ではなく『新しくはじめる』としたらどうなるのか。
その結論は――
「それがさ、出来ないの」
「え?」
「今やってるワールドをやめて、新しく始めるヤツ。出来ないの」
「そうなの!?」
そうなのだ。出来なかったのだ。
AIにも聞いてみた。
結論は『出来ません』だった。
「なんか……ちょっと怖くない?」
「……ね。作ったの私のはずなんだけど、知らない仕様が多すぎる」
これはAIを使用したことによるものなのか。
はたまた第三者の介在によるものなのか。
まだ、分からない。
そうこうしながら、二人は今夜もヘッドセットをかぶり、ログインした。
<1567年7月23日時点(前回ログアウト時)>
―歴史乖離率:3.1%
―安定化モジュール:通常出力
―現実世界アンカー不安定率:0.7%(無効化処理済)
―管理者権限保有者:氷室真紀
織田信長【真紀】(33)…統85 武63 知74 政71 魅80
織田信広【誠人】(35)…統35 武66 知71 政64 魅76
柴田勝家(41)…統89 武88 知59 政69 魅81
丹羽長秀(32)…統76 武71 知80 政75 魅72
木下秀吉(30)…統69 武58 知77 政72 魅84
竹中重治(23)…統81 武35 知92 政88 魅82
足利義昭【恭祐】(30)…統91 武49 知93 政70 魅79
明智光秀(39)…統75 武77 知80 政71 魅76




