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第七十九話 時計の音

第七十九話 時計の音

「お〜い帰ったぞぉ〜」

と、いっちゃんは、ひとりで十三に寄ってベロベロで帰って来たのだ。

「丸男さんと呑んでたの?!」

「いや、ひとりで」

「馬鹿ね、呼んでくれたら一緒に呑んであげたのに」

「でももう、妊娠したら、お酒飲めないしょ」

と言うと、

「そうね、でもご飯は一緒に食べれるぢゃない?!」

「そうやね、ごめん、呼べば良かったね」

「ふふふ、優しいわねぇ〜 あなたって。

だから女に騙されるのはわかるわ、でもね、そんな男が大好きよ。

 正直だし、ちゃんと頼れるから。頼れるから利用するのよねぇ〜女って、ずるいから」

「ははは、なんか早苗ちゃん子供出来るとパワーアップかよ」

「面接はどうだったの?!」

「知らん、もう、済んだ話、来週には結果出すって」

「主夫になる?!笑笑」

「阿保な?! 笑笑 偉い余裕ぶっかましてるなぁ〜」

「現実から逃げてもしょうがないぢゃん、大丈夫やって行ける」

 

 いつもありもしない想像話をして、相手に不安を与えて、支配しようとするヒステリックだった母親に比べて、ドーンとしている早苗ちゃんが好きだった。

 そういう人に対しては、いっちゃんは優しかったのだ。優しい人間や、言いやすい人間を見つけると、近づいて来て、仲良くなると、すぐに巻き込んで自分のペースに持っていく奴が大嫌いだった。

 モロ人間を支配しようとする彼奴等が大っ嫌いだったのだ。

 早苗ちゃんなら、何を言われても怒らないし、そもそも人を傷つける事を言わない。自分自身をしっかり持っている人との会話や距離感は心地よかったのだ。

 

 何でも話せるのが家族とか言う無神経な馬鹿がいるが、家族だからこそ言えない事もあるのだ。

 良くいぢめられてる子が家族に言えないのは、家族に心配かけたくない優しい気持ちがあるからで、出しっぱなし、ひねりっぱなしの無神経な人間がいっちゃんは大嫌いだったのだ。

 そんな奴らが、上手く立ち回って糞社会をつくる。人をいぢめたり、人をいぢめる奴の顔色を伺いながら、上手く立ち振るまって、いぢめに加担するしたりする人間がこういう奴らだ。

 早苗ちゃんは自分自身をきっちり持っている。だから一緒にいて気持ち良かったのだ。そりゃあ、いっちゃんも早苗ちゃんに弱音を吐くし、早苗ちゃんもいっちゃんに意地悪を言ったり甘えたりもあるが、節度を知っているのだ。

 それがまともな人間だ。出しっぱなし、ひねりっぱなしだった母親を思い出す度に殺してやろうといっちゃんは、今でも想っているのだった。

 

「ねえ、お父さん亡くってるんでしょ、子供も出来たし、あなたのお母さんに挨拶行こうか?!就職決まったら?!」

「あ?!」

 いっちゃんは、ちょっと嫌な気分になってしまった。

「やっぱり、お母さん嫌いなの?!」

「今でも殺してやりたい」

「良い所もあるよ、でも完全支配をしようとするから嫌いなんだよね〜 今は離れているから問題なしやけど、でも弟妹にも報告はいるかなぁ〜」

「いるんぢゃない、一応長男でしょ?!笑笑」

「笑笑、一応ね」

早苗ちゃんは、ウヰスキーと味噌汁を持って来てくれた。

 いつも聞こえない時計の音が、今日は聞こえる。

「嫌な事を想い出してしまったなぁ〜」

と、いっちゃんは、早苗ちゃんにつぶやいた。


 続く〜

 

 

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