98話 地鶏炭火焼き風 猛禽類
【 12歳 晩夏 】
メイドのみんなが鳥の肉の厚さ調整をしている間、俺はその出た肉とあばら肉なんかを調理する手段を検討する。もちろん妹は嬉々として解体に参加していた。
炭火焼きかぁ 魔法で対応可能かな?
魔法で炭の燃える状態を再現するって事は、要は熱源と輻射熱を作れるかって事だろ? 油をその温度に上げるのは無理だが石や鉄を加熱するというなら問題は無い、直火の再現に比べれば遥かに楽だ。最悪は気圧調整したら熱も通るだろうし、腹痛の心配は無いと思うんだよな。取り敢えずは火属性と土属性魔法による調理器具の製造を試してみるとしようか。
まずは少し小型な遠赤外線の発生源を製造する。形状としては、火属性魔法の対象で熱源となる大きな鉄の立方体を作り、それから発生するであろう熱から床を守る為に石の台座を付け、更に熱が逃げないよう地面から浮かせている。
調理時はこの鉄を火属性魔法で加熱させるので周囲を念入りに熱対策を行ない、更に食材である鳥から出る脂が直接熱源に当たらないよう、上部に溶けない程度の厚さの鉄の受け皿を台座の側面から取り付ける。この皿自体が炭の温度に達して貰わないいけないのでそこそこ熱源に近づけ、そしてその上に更に取り外し可能な二段の石の網を取り付けてひとまずは準備完成だ。
上手く行くかは判らないので、まずはやってみようか~
俺は 2種類の魔法を操るので、調理作業はルンにお願いする事にした。工程としては熱源用の鉄を溶解させる勢いで全力の加熱魔法を掛けつつ、周囲の煙が余り漏れないよう風魔法で食材と熱源の空気を対流させて食材を燻製にするのだ。
早速、買ってきたラプトル肉を石の網の上に置き、二段目の網に脂身を入れて焼き始めたのだが、とにかく熱過ぎっっ もう一枚分、石で囲みたいくらいだ。
すぐにロァヴェルナさんが気付いて、横方向へ漏れる熱を遮断してくれた。
「ありがとうございます。ルン、実験だから手早く焼いちゃって」
「はい」
顔を近づけるのも辛いようで、火ばさみを長く持ちながら肉を転がし焼き目を付けていく。肉から滴る肉汁と脂が落ちる度に凄い煙が上がり、肉がどんどん真っ黒になっていった。
「 ……そんな物かな。加熱は一度止めるね」
「はい」
道具を作り網ごと取り出して窯から離れ、肉を確認をする。
「どんな感じだろ?」
ルンとロァヴェルナさんと一緒に覗き込む。
焦げてる訳ではなさそうだが、なんか煤だらけの肉って感じだ。熱が強すぎるのか尖った部分とかが即座にチリチリになったので時間を掛けてない。
……少し切って確かめてみたが、中心はまだ生っぽい感じがする。
「熱はもう少し抑えても良いかな。あとは肉の大きさも変えるとして、道具と窯の形状を変えようか」
ここで魔道具の製造を行なう事になるなんてと思わなくも無いが、時間も無いのでさっさと調理魔道器具の作成を開始した。魔道具は買う側の予定だったのに……
男爵家の三姉弟が終始興味深げに見ていたので石魔法で椅子を作ってあげる。
「見ていて良いのですか?」
「大した事はしないけど、人が何か作業している姿を見るのは楽しいでしょう? 気になるなら遠慮しなくて良いですよ」
男爵家のメイドたちにも勧めたのだが断ろうとしていたので強引に座らせた。たぶん今回は伝言などの為に付けられたのだと思うんだけど、実家のメイドたちと同じでこう言う場合って仕事の少ない年少の子が割り振られるんだよ。見られるのは慣れているし、時間も掛かるからゆっくりと待って欲しい。
だって養護院で作業してるとすぐ人だかりになるんだもの。舞台とか動画鑑賞みたいなものだし、追い払うほどの秘密なんて無いから遠慮はいらんさ。こっちも立って待たれるよりは気が楽になるからね。
さーて、作るのは焼き鳥の焼き台。一気に改良と行こうか。
この設備の機能として重要なのは食材から落ちた肉汁や脂が落ちた時に一気に焼けて煙になる温度を熱源が維持する事。それが必要な炭の役目なんだ。温度が低ければ煙とならず油が貯まるので、落ちる脂の量に合わせてある程度熱源の質量が必要だ。
そして魔道具として必要な事は調理する人が調理し易いようにする事。石魔法で窯の形状を作業しやすいように加工し、その上で熱が外に届かないよう空気の断層を複数入れていく。
ある程度できた所で外壁を冷却する為の機能を組み込もうとしたんだが、魔道具の回路が熱に耐えられない事が判明した。配管を作って循環式にしようともしたが、熱量と材質の関係で水冷も空冷も使えなさそうだ。脱泡したオイルなら可能かもしれないが工業用油なんかねーよ。
何度か調理して熱源の最適な温度を調べ、範囲内で極力温度を下げるように試みてはみたがやはりそれなりの排熱が出る。
仕方ないので作業者の上半身へ当たる熱を断熱する方向に方針を変更し、魔導器の設計をする事にした。メイド衣装の上から着れるよう余裕のある大きさにし、今のエプロンとは異なり袖は長くし、油が付着しても常温まで下がるよう魔導回路を組み込み、そして窯からの放射熱を通さない……
魔導割烹着、いや、割烹魔導着の完成である。
ウチのメイドが若干和風になった気がした。
あーとーは~~ 折角きれいな場所だし、焼き鳥臭のする訓練場にしない為にも煙対策だけはしっかりやるとするかぁ 窯の上部と窯周辺に集煙装置とダクトを作り設置していく。なんか、ルティ姉に料理を習ったら鍋作りから始まった事を思い出すわ。
そうこうして漸く出来上がった姿は……
ピザ窯だった。
おかしいな、焼き鳥台だったはずなのに……
◆
その後はメイドたちも合流し料理の試作品を作りながら大きさと焼き加減のバランスを探って行く。
更にいくつかの改造を加え調理窯が魔道具と化した頃、この地の領兵たちが任務を終えて帰ってきたようだった。ちなみに窯の魔道具機能とは排煙ダクト内に別の配管を通し、光魔法で外部から肉の焼き加減が見れるだけの単純な物である。
「「「うぉぉぉ?!」」」「凄いな、これは……」
支柱で支えられた猛禽類の肉を見て領兵たちが驚きの反応を示す。
彼らとは面識は無かったが、男爵家の姉弟が居るのが見えたのか特に何も言ってこなかった。まぁ、怪しげなマスクをしたルンには何か言いたそうにしていたが……
「そろそろ時間か~」
鹿肉や百足の肉で試食し過ぎて顎も疲れてきたし、そろそろ切り上げるとしよう。
「たぶん、兄さまか父さまが来ると思うのですが……」
「場所は合ってるんだから準備だけ進めておこうか」
「はい」
メイド隊にテーブルを用意するよう指示を出し、オーレイリア嬢には飲み物などが必要なら男爵家の人に指示を出して欲しいと伝えた。
「わかりましたわ」
話を聞き、メイドの一人が領主邸へ向かう。
「ヴァレニーにも大仕事頼んでも良いかな?」
「んー なーに~?」
「鳥の毛皮の乾燥をお願いしても良い? いつもの魔法を使ってさ。派手な感じで~」
会場の真ん中でふわふわと舞わせて貰えたら、きっと良い感じだろう。
「あれを? 派手な感じでと……」
「臭いが出ないくらいのゆっくりでお願いしたいんだけど、できない?」
「ゆっくり……」
「排出する空気を排煙ダクト周辺に送って貰えれば多少の臭いは大丈夫なんだけど」
「 ……できるかな? たぶん? いや、工程多いなぁ~」
ぶつぶつ言いながら検討し計算を始める。
この辺りがヴァレニーの凄いところだ。説明書要らずの才能が設計図要らずの意味合いを持って来るんだもの。
「ルァニ、ちょっと浮かせて貰って良い?」
「了解ー」
指を折っていたかと思えば、ダンスをし始めている。
「……いーくーーぜぇ~」
ヴァレニーが上を指さすと、剥製にもできそうな綺麗に剥ぎ取られた毛皮が徐々に高く浮き、ピラミッド中央の空間でゆっくりと回りだす。
真ん中の認識が違ーうっ
毛皮は最初、洗濯機にでも入れたかの様にグネグネと回っていたのだが、それが徐々に首側を上に向け、そして翼を広げて回りだした。領兵は唖然としている者と腰を抜かす者まで居る。
派手過ぎっ 目的は乾燥だからな?
信仰でも集める気かよ。こうなると頭が付いていないのが非常に残念だ。
珍しくヴァレニーのダンスが長い。どんだけ工程を詰めてるのやら。
溶かす理由は無いですし、鉄は実際に溶けてまではいません。ただ揚げ物の温度ではいけないと思ってるのと自分ができる限界温度が不明なため全力で加熱しています。
ロァヴェルナさんは作業を見ていた 3人に魔導器のサングラスや光学フィルターが付いているメイド仕様の空調マスクを貸し出し一緒に鑑賞していました。ヴァレニーは主人公の後ろで味見役をする為に待機中。
窯使用時は割烹着にネックガード、断熱グローブに空調付きマスクを装備します。
一部の衣服系魔導器を魔導着と呼び出しましたが、これは主人公だけが使う呼称です。




