99話 猛・筋・類っ
【 12歳 晩夏 】
頭の無い猛禽類の毛皮がピラミッドの中心部で盛大に舞っている。
ヴァレニーはその下で良く判らないダンスを踊っているが、速めの決まったリズムが妙に似合っており、まるで猛禽類を崇める巫女かのようだった。
ダンスに合わせて波打つ彼女の金色の髪はとても美しい。
もちろん、本人も黙ってれば美少女だしな。
と言うか…… 風を下から自分にも当ててるんだな。しかもなんか、ヴァレニーと毛皮に薄っすらと白いスポットライトも当たってるし…… 演出家め~ 何工程、並行に熟してんだよ。
舞っていた毛皮の切り口が徐々に閉まり始め、生前の厚みを以って威厳を再現していく。
そのまま鳥の姿を取り戻すと今度は翼を広げ胸を張り、頭が無いのに見渡すかのようにゆっくりと横方向に回りだす。宙を浮かぶ鳥は解体時の切り口は見えるものの魔法で形状を整えられており、中身が空とは思えない程の胸板を備え明らかに生前より強そうだ。
いやいや! お前、ただの鳥だったよな。何でそこまでムキムキなんだよっ
「ちょっ ヴァレニーサン?!」
骨格が無いからやりたい放題である。第一、筋肉の位置がおかしいだろっっ
人間の筋肉に似せているようで鳥とは思えない程にくっきりと大胸筋と広背筋が主張し、引き締ったウエストに割れた腹筋、太い太腿にと、雄大を超えて尊大にすら見える。
鳥類とは思え無い程大きな肩甲骨の膨らみの上を流れる羽毛の艶が何ともセクシーで、更には毛皮の内面が赤く光りだし、首の切断面と解体時の胸の傷から光が漏れて出すものだから最早邪神像か何かにしか見えん。
流石ヴァレニー、何でもありだな。何というか表現力と言うか再現力が凄い。
ただ、あんまりやると領兵たちが祈りだすぞ、まぢで……
「頭が無いのが惜しいなぁ」
一撃で倒されたくせに何とも雄大でかっこいい感じだ。いや、いっそ頭が無い事で強そうに見えるのか、首から漏れる太く赤い光が強者感を出している。しかも解体時に出来た傷が細い筋となって胸から翼と太腿へと伸び、赤い光を放つ様子は微妙にサイバーパンクだしゲームなら中ボス役くらいにはなれるんじゃないだろうか?
とは言え、傷だらけなのに偉そう、且つ誇らし気なポーズはどうにも彼女の父親を連想してしまう。
そう……
「ヴァリアルトさんみたい?」
「「ぶっっ!」ルァニっ! 笑わせんなっ! あっっぶなー 集中力、集中力、集中力……」
ロァヴェルナさんが脇腹を押さえてぷるぷるしていた。
あちらも少しは思っていたようだ。
少し高度を落とした邪神像がヴァレニーのダンスの再開で再び上昇していく。
そして右腕を掲げ……
力こぶを作った。
え?! いや、翼はそこでは曲がらんだろっ?!
「あれ?! くっ 雑念がぁぁ」
ヴァレニーが慌てるも続いて左腕まで上げ、邪神像は上半身をゆっくりと捻りだした。
何でだよっ カッコいいけどさ…… 実は中に居たりしないか?
「 !―――― 」
俺の横ではロァヴェルナさんが足をバタつかせながらも声を出す事に耐えていた。
「ふぅぅっ 雑念っ 邪魔っっ!」
ヴァレニーは軽く息を吐き、大きく手を振り払うと改めてダンスを再開する。
……たぶん今、自分のお父さんを雑念って呼んだぞ?
猛禽類型の邪神は上を目指すかのように両方の翼を下ろし、再び胸を張った。
◆
ピラミッドの上部付近でゆっくりと回転し続けている邪神像の下で、漸くヴァレニーのダンスが止まった。
毛皮の内部で赤い光を放っているのに、不定期に白い稲光のような鋭い光まで発しているし、まじ信者の獲得をしに走ってるようにしか思えない。太ももからつま先まで伸ばして爪先立つ鳥類なんて初めて見たわ。
とは言え、神々しいのは確かだな。ヴァレニーが顔を上げるのに合わせて拍手を送ると、見ていた人全員も拍手を送った。
少し照れながらヴァレニーが戻ってくる。
「ルァ~ニ~ 笑わせないでよぉ 集中途切れるじゃん~ 頼んどいてさ~」
「ごめん、ごめん。いや、だって、頼んだのは毛皮の乾燥なのにあーなるなんて思わんじゃんさ」
「ほんと、あなた方と居ると退屈しないし、腹筋が鍛えられるわ」
「ロァヴェルナからも言っといてよ。積層魔法は大変なんだからぁ」
「途中で失敗なんてするの? あれって、唱えた後はしばらく継続するんだよね? 違った?」
「「あぁ~」合ってるけど違うわね。今回、ヴァレニーは何度も書き換えてたのよ。だから書き換えの位置次第では全てが強制停止してしまうわよ?」
呪文の上書きなのか。パラメーターの微調整的なものじゃないんだな。
「そうなんだ。真似できる気がしないなぁ」
「そうだよ! 凄いんだよ」
「流石、姉弟子っ! ほんと助かったよ、ありがとう。想像以上で驚いたけど……」
「ま~ねぇ~」
何で気流の調整だけであんなんできんだよ……
そのあとヴァレニーは新人メイド、妹、男爵家の娘たちの質問攻めに合い、照れながらも魔法の解説やコツなんかの説明をしていた。
それから少しして狩りに出ていた様子のサルフレクス殿が現れた。建物に入ってすぐは邪神像にしか見えない毛皮を見て驚いたものの、説明を聞いて納得しこの後の予定を話してくれる。
これから一度領兵を解散させて 1時間後くらいから始めたいと言い、そしてオーレイリア嬢からも料理が来るのにも 1時間以上は掛かるだろうと言われる。
まぁ、領兵全員分の料理だろうしな。
そしてサルフレクス殿は領兵に解散と着替えの指示を出し、自身も着替える為に領主邸へ戻って行った。
「じゃぁ、あの肉もそろそろ焼いちゃおうか。肉汁が落ちないよう、再度受け皿の部分を確認してね」
「「「はいっ」」」
「じゃあ、ロァヴェルナさん。準備が出来たら焼いていきましょうか」
「ええ、良いけどホントに空気を囲うだけで良いの?」
「はい。そこから先はこちらでできますので」
「わかったわ。準備が出来たら言ってね」
「はい」
その空気を囲うのが難しいんだ。凹凸の無い球体だと途端に簡単になるんだが、それだと熱が逃げまくる。薄っすらと表面付近だけ囲い、更に断熱までとなるとかなり難しいのさ。しかもそれが風魔法、一工程なんだもの。ヴァレニーのあれとは別の意味で難易度が高い。
受け皿の確認が終わり、ロァヴェルナさんと調理を開始する。接した石材を加熱しつつ囲まれた範囲内の空気を対流させる。肉に接した支柱を熱源とするので加熱のムラは少ないと思う。
そして俺たちが調理している間にメイドたちには下拵えを終えたもも肉と、分解されたスペアリブを焼き鳥窯で焼いて貰う事にする。
結局肋骨周りの肉は分割した上で、更に骨を 10cm毎に分解して焼くことにしたんだ。身離れを良くする為にスパイラル状に骨まで切り込みを付けて軽く塩茹でしてある。これを鳥の脂と一緒に網焼きし燻煙するのさ。言っとくが肋骨は俺の太腿くらいあるからな。
大型の鳥肉の調理は二段階で行ない、茹でる温度で数十分、その後揚げる温度で数分焼いた。まあ焼くと称して良いのか判らないな、原理はノンフライヤーだし。何か所か切れ目を入れてはおいたが、表面しか焦げ目が無いからある程度食べたらもう 1、2度焼こうと思う。デカいから身も厚いんだわ。熱は通っているだろうけどな。
それから少し経って徐々に料理が到着しだした。運んで来たメイドさん達が上で舞う鳥に驚き、更に巨大な肉を見て再度驚いている。多分聞いてなかったな……
もしかして、あちらも結構量があるのかな?
次第に領兵たちも着替えて戻りはじめ、徐々に賑やかになってくる。そしてメイドたちが料理の運び込みを終える頃、男爵夫妻と長男夫妻が到着した。
「聞いてはいたが、これは凄いな……」
「「 …… 」」
女性陣には邪神像は衝撃が強すぎたか……
「それに、料理の大きさも凄い事になってるじゃないか。全て出してくれたのかね?」
「残しておくほどでは無いので一気に調理してしまいました」
「こちらが饗すつもりだったのだがな……」
「把握できず作り過ぎたようなのですので、他に参加できる方も呼ばれては如何でしょうか?」
「はははっ そうだな。ただ、全ての使用人呼んでも余りそうだ。 ……よし、領兵の家族にも声を掛けるとするか。飲み物なども追加で用意させるとしよう」
こうして男爵領の宴は予想以上の規模で開催される事となった。
拍手は共通の風習って事で納得してください。動物だって手足や物を打ち付けますし、世界が変わっても同じく手があるのであればね。
鳥は通常時も飛行時も太腿をお腹側に曲げており、普通は伸ばせません。
フクロウは伸ばせるかも?
風属性魔法の範囲指定は 3Dデータのフレームの構築に近いです。球体だと X, Y, Zの 3本で済みますが、凹凸が激しいなら本数を増やさなければいけません。いくら長くても良いので一行で式を書けって言われても困ります。流石に一発ではできないので、微調整はしています。
ヴァレニーはアイドル魔法により複数の属性を複数行で操作してますが、内側のこの辺りに小さな気流渦、外側のこの辺に…… 何てのを感性でやってます。
ノンフライヤーは海外では意味が通じ無い和製英語です。
あちらではエアフライヤーとなります。
猛筋類…… 調べたら既にネット上に存在する単語なんですね。
凄いな日本っ




