100話 宴じゃ~
【 12歳 晩夏 】
宴は盛大に始まった。
使用人たちはすぐに揃ったのだが領兵の家族は急遽だった為、来れる者から順次来る事になっている。飲み物が振舞われ、希望する者には酒も配られていった。
まずは男爵よりここ最近領地を荒らしていた獲物が漸く討伐された事が伝えられ、聞いてはいたかも知れないが今はその証拠が目の前にあるので領兵やその家族たちも安堵している様子だった。
そして俺たちの紹介がされ、改めて鳥の討伐の感謝の言葉を貰い、盛大な拍手を戴いた。実際、あれは空と言う届かない距離から攻撃してくる圧倒的強者だったからなぁ ロァヴェルナさんみたいな魔法の撒き餌と隠れ身を使って誘き寄せた上で、身体強化を乗せた辻蹴りとか人類にはまだ早いだろ。
ちなみにその猛禽類さんの現在と言えば、鋭い嘴を備え、凛々しく、まるで守護神かのように建物の上部で舞っている。
そう、俺が頭が無いのが惜しいと言った言葉を聞いていたオーレイリア嬢が男爵に伝え、引き渡した頭部を態々こちらに持って来てくれたのだ。
今はヴァレニーが再度調整し、頭がある状態でまさかの仁王立ち!
願いを言ったら叶えてくれそうな雰囲気すらある。
刎ねた首の断面から漏れる赤い光の所為で光るチョーカーをした様に見える妙におしゃれな鳥? は、腕? を組み足を軽く開いた立ち方でゆっくりと回っており、実に優雅だった。
そしてその調整をしたヴァレニーはと言えば、男爵家の奥様二人に捕まり褒め殺しにあっていた。なにせ年上に見えない少女による魔法に見えない魔法だものな、称賛しまくりである。
良かったなヴァレニー、信者ができて。
「しかし、料理の大きさもだが、調理方法も見た事が無いものだな。旅に調理設備を持ち歩いているのかね?」
「大きな肉の調理は調理魔法でですね。あちらの調理器具は調理に合わせて作った物ですよ」
「一から作ったのかね?! ここで?」
「はい。脂で燻煙する機能を足しただけの焼き窯ですけどね」
「それでも中々だよ。この肉の食感も切り方も珍しいしな」
男爵の皿に乗っているのは焼き鳥窯で焼いた、スパイラルに切り込みを入れたスペアリブステーキだ。
短く切断されたあばら骨の周りに肉が螺旋状に付いた料理である。
予想以上にネジっぽくなっており、ほぼ頭の付いて無いボルト状態である。
現在大きな焼き鳥の方は、メイドが足場を使いながら日本刀のような長さの包丁を使って肉を切り分けてくれている。
刃物について少し変わった現象があるのだが、戦闘時や解体時は力が入りやすい短い刃物を使い、調理では動かない大きな肉が対象の為に長い得物を使う傾向にある。生きてる大きな魔物に長い刃物を差し込んでしまうと筋肉で折られてしまうし、皮は哺乳類、爬虫類に係わらず、体重を掛けて切らないといけないほどに硬いからな。
実際運用すると中華包丁みたいな形状になるのも納得だわ。
もちろん、メイドには解体用も調理用も刃物は用途に合わせ色々な種類を持たせてるぞ。彼女らの希望で当然のように光る仕様でな。
料理は手羽の部分から切り分けて行き、早々に届かなくなったため足場は順次回収されていった。胴体の部分の肉は焼け目の付いた表面から徐々に切り分けるよう指示を出してあり、今はメイドが周囲から取り囲んで解体している状態だ。
内部にも既に熱は通してあるので切り分けてから炙って焼き色を付けても良いのだが、大きい肉から切り分けるって言う見映え重視で行きたいじゃないか。やっぱ、肉は大きい方が食欲が湧くだろう?
ある程度落ち着くとメイドたちも交代で食事を取り始め、俺も妹と男爵家の方々との食事を楽しんだ。こちらも、男爵領で作られた珍しい料理が並んでおり、かなり美味しい。
どうもこの領では魚の養殖も行なわれているらしく鯰料理がいくつもあった。種類は違うが、ウチで養殖している魚よりもかなり大きく育っており養殖技術の高さが窺え、魚料理も全体的にレベルが高い上に種類も豊富だった。
珍しいところだと茶碗蒸しのような物があったのだが、材料は卵ではなく味の付いた豆腐だった。豆乳の状態で食材を混ぜてから固めたようで中には焼いた鯰の切り身や根菜などが入っていたのだが、味と食感が何故かグラタンな不思議な料理だった。
ウチの領しか知らなかったけど、この世界の人類もなかなか料理が発展している事が判ったわ。饗す場面での料理では飾り切りなども普通にあるし、盛り付けや色彩を組み合わせ方も素晴らしかった。ウチでは見た事の無かったが、ホイップクリームのように絞り出す道具もあるようだった。
ちなみにっ! 発展してるって言いつつ素材への描写が少ない理由はな……
ほぼ半数が虫系なんだ……
平地だと良く獲れるからなっ! 流石に卵料理は初めて食べたわ。
今回は塩漬けされた物だったが、秋口だと新鮮な物が食べられるらしい……
送ろうかと言われたので、固く辞退させて戴いた。
◆
宴も終わり頃、今後の日程を男爵に伝えた。明日一日いっぱい使って半月分ほどの物資の買い込みを行なうつもりだ。現地に獲物さえ居れば塩すら手に入る異世界事情ではあるが、流石にそれ以上は一度帰るつもりだ。
ひとまずはドワーフ領との話し合い次第ではあるだろうが、ドワーフたちが物資を男爵領に頼りきっている場合は、先に南端倉庫までのルートを開拓してそちらからやった方が補給的に楽だろう。食料を完全依存なんて事は無いと思うんだが、分けれる程には無いって言われる可能性はありえなくはないとも思っている。
俺と男爵の会話を聞いていたオーレイリア嬢たちが残念がり引き留めようとしてくれる。別れは惜しいが測量をさっさと終えないと他の交渉事が全て進まないんだ。
距離も近いし、歳も近いのでまた会う事もあるだろうと話すが納得して貰えず、アリーが手紙を交換しようと言ってわかって貰えた。
そうだよな、手紙はあるんだった…… 業務連絡しかしないから忘れてたわ。手紙は普通に行商人に依頼したら喜んで運んでくれる。なんせ軽いし行先が同じ場合にしか頼まれないので、楽な小遣い稼ぎになるんだ。もちろん紙ではないんだけどな。
その晩オルサリクス君が俺の部屋に来て、そこそこ遅くまで色々な話しをせがまれた。アリーたちの方にもオーレイリア姉妹が泊まって結構遅くまで話し込んだらしい。
この世界の貴族の子女は同年代と出会う事自体がとにかく少ないから名残惜しいのだ。普段は屋敷から出ないし、年齢が近いのは新人で入ってくるメイドくらいなんだわ。
養護院に行けばいっぱい居るんだろうが、普通の貴族の子女は行かない。養護院の子にも仕事があるし、何より習慣が違い過ぎて何を話そうか双方が困る状況なんだよ。これは子爵領、男爵領とかの違いでは無くね。
まぁ、俺は違った訳だけど……
もちろん、俺も少しは期待してたよ? 斜に構えたようなタメ口の悪ガキとか、口が悪くてシスターを揶揄うような悪ガキとか~
それ以前に男女比が全っ然っ、違ったけどなっ
◆
翌日も男爵家で朝食を取ってから三姉弟と商店街を巡った。
メイドたちも二手に分かれて貰い各種買い付けをお願いした。ルンだけは念のためこちらに居て貰ったが、男爵家のメイドとフェンさんも居るから問題は無いと思う。
ドワーフ領の状態が全く分からないので干物の類を多めに揃え、メイドたちにも複数の穀類を満遍なく買うように伝えておく。それと葉物野菜や果物なんかは収納魔法を使っても日持ちしないので少量に抑えて根菜類を多めにと頼んだ。もちろんチーズや豆腐クルトン等、加工品もな。
収穫時期前って事もあって値段は高いが種類は凄く多かった。
南の森の中で手に入る物もあるのだろうが、南西側から入った感じでは猪とラプトルばかりが多かった気がした。食肉に関してはそこそこ時間を掛ければ現地調達も可能だとは思うのだが、湿気の多い森なのに虫の類が少ないのが妙な感じなんだよな。
現地調達可能なあればうれしい系の山菜なんかもかなり少なかったので、食料はこの辺を対策しないといけないだろう。土の養分の違いか何かかもしれないが、測量時に植生は少し気を付けて調査しなければいけないかもしれない。重度に酸性に偏るとか、重金属が多く含まれるとかな。実は毒やガス、病原菌の所為でした何て事は勘弁願いたいからな。
食料以外にもロープや測量に使えそうな道具の買い足しをしているとお昼の時間になった。念話でメイドたちに連絡し、それぞれに料理の買い出しをお願いしつつ合流する。
全員が揃い、和やかに食事が進む中オーレイリア嬢が衝撃発言をする。
「あ、あの…… わたくしもドワーフ領に付いて行く事はできませんか?」
「姉さま?!」「ぼ、僕もーっ!」
無理無理無理っ
アリーたちも居るのにこれ以上はきつい。メイドを護衛に回すとなると動ける人数とできる事に大幅な制限がでてしまう。
あと責任持てない。第一、男爵の許可が出んだろ。
頭の無いボルトは全ネジとかスタッドボルトと言うようです。
実際にできるかどうかは試してません。当然ですが……
前提として大型の動物を相手するあちらの人類とこちらの人類では食肉の解体方法や切り分け位置が異なります。大きな骨の分割可能な位置も違う事でしょうしね。スペアリブも肉厚でごついです。肋骨と肋骨の間が拳 2個分とかあるので……
異世界の食糧事情を検証していくと辿りつく食材問題。
草原のキャビアなるポジションのちょっと困る食材さん~
戦闘力を持たない領民の貴重なたんぱく源です。
男爵家の養護院は結構北の方に存在します。男爵家にも農業をする集合住宅がいくつもあり、そちらに近くなってます。男爵の領主邸は山から平地への魔物の移動を止めるのが目的のため山にかなり近いです。できるだけ平地を有効活用する為の配置なのです。
やっと100話~
ストック確保の為少し間を開けます。
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