92話 美味しくなーれ
【 12歳 晩夏 】
昼食を終え、午後も程よく早歩き気味で移動をする。
相変わらず雑談をしながらの移動であるが、今回は内臓の機能などの話をロァヴェルナさんが解説してくれている。だって俺が知ってるのもおかしいし、何よりこちらの世界の内臓が同じか不明なので口を出さずに一緒に聴講した。
……話を聞いているとやはり前世の知識とは異なる器官がいくつもあり、特に虫は全く違う進化をしたようだった。殻を持つ虫は前世と同じく骨が無いのかと思えば、あの巨体を支える為に色々と進化したっぽく、ある程度大きく育つと烏賊の骨のような部位を体内に生成しだすらしい。いや、蟹と言った方が分り易いか。
しかも身体が最適化されるのか、その軟骨が魔石の効果を持つのか、その骨の有無で運動能力が一気に変わるらしく、エルフの全力攻撃すら防ぎ、大型のタコすら襲うようになるんだとか。
「 ……それ、倒せるんですか?」
「前回出た時は班分けした上で攻め続けて何とか餓死させる事ができたけど、丸 2日間掛ったわね」
「「「 …… 」」」
人間なら滅ぶんじゃないか?
「そこまで大きくなった個体は人類みたいな小さな生き物は狙わないけどね」
いよいよもってファンタジーから乖離してるよな。
バトル漫画の方にでも移住してくれないだろうか。
そんな事を考えてると突然、真横に居るはずのロァヴェルナさんから念話が届く。
『鳥型の魔物に狙われてるわね…… 私が倒すからみんなはそのまま歩いていて』
『他の人には言わなくて良いのですか?』
『誰が狙われてるか判らないからそのまま進んで。メイド隊は武器取り出さないでね。魔導器を構えられると私が動けなくなっちゃうからね』
『『『はいっ』』』
足を止めずに光魔法で周辺を確認するが何も見えず。どうやって発見したんだろ?
いやっ ロァヴェルナさんが見当たらない?
あれ?? とっ、次の瞬間凄い速度の鳥が現れたっ!
「!?」
と、思ったらロァヴェルナさんが目の前に現れて鳥を上空へ蹴り上げたっっ!!
「「きゃっ」 えっ 今のは?」
鳥は悲鳴代わりに物理的な断末魔を発し、念話の届いていなかったティーエから小さく悲鳴が上がった。そしてアリーが急いで武器を取り出すと、ティーエを背中に庇う。
どうなってるんだ? 近くに居たのか?
「おー、流石ー」
ヴァレニーがほぼ棒読みの感嘆を上げる。
「手応えがあったからもう大丈夫よ」
でしょうねー 明らかにヤバい音が聞こえてたし。
「ロァヴェルナさん、今、ずっと横に居ました?」
「居たわよ。認識攪乱を使ってたから認識できなかったかもだけどね」
「そうなんだ……」
結構な時間を置いて、蹴り上げられた鳥が離れた所に落ちてくる。
10mは無いくらいの茶色の猛禽類だったが、現在は首の付け根周辺が形容し難い事になってて痙攣を起こしていた。
「こんなのがこの辺に居たら行商人の人たちは対処できないんじゃないの?」
「はいっ!! 最近かなり被害が出ていました!」
独り言だったのだが、集まってきた行商人の一人が興奮気味に教えてくれた。最近、男爵領内の家畜や子供が犠牲になっている上に、行商人仲間でも数人見なくなった人が居るらしい。
「一先ず血と内臓だけ抜いて冷蔵してしまいましょ」
「そうですね」
「討伐の証拠に頭でも持っていけば褒章が出るかもしれませんよ?」
「報告はしたほうが良いだろうし、そうしようかな」
「序に塩も採ろっか。やっぱり赤い方が美味しい気がするのよね」
「そう言えば、さっきの認識攪乱って昨日のヴァレニーに掛けれなかったんですか? 見えなくなるってかなり強力だと思うんですけど」
「効果が全く違うから使えないのよ」
「そうなんですか? でも鳥にも効いてたんですよね?」
「簡単に言うと私の存在分をあなたに付け替えただけなのよ。だから鳥にはあなたが特別美味しそうに見えただけね。使えなさそうでしょ?」
「そういう効果なんですか」
囮にされてたのか…… まぁ他の人にしろとも言えないから良いけど。
「これ以上は大人になってからね」
「はーい」
しかし精神属性魔法、ホント便利過ぎないだろうか? 怖いわぁ
◆
日も暮れかけた時間帯に漸く男爵領の領主邸に着いた。ウチよりも結構豪華な造りをしており全体の高さも少し高い。何より石垣の周辺に一段低い館が数多く並んでいて灯りも点き、賑やかさと華やかさがある。
「これ、夜とか大丈夫なのかな?」
「夕暮れ時に若干明かりを灯すだけですのでそれ程問題無いようですぞ」
「そうなんだ」
「内部はかなり遅くまで明るいですがな」
「そうなの?」
「はい。常時行商人の往来で賑わってますからな」
「それって魔力的に大丈夫?」
「その行商人の協力で明かりを点けているのですよ」
「へ~ もしかして滞在費用でもあるのかな。良くできてるねぇ」
「では早速、鳥の報告に行きましょうか。喜ばれると思いますぞ」
「そうだね。ロァヴェルナさん、行きませんか?」
「ん~、やめておくわ。恩を売る気も無いし、肉も好きにして良いわよ」
うーむ。結構凄い事なんだがな、手間としか思ってないっぽい。
「トルテ、一緒に来てくれる?」
「はい、分かりました」
フェンさんが行商人の窓口で衛兵に連絡を取ってくれる。獲物はトルテが保管しているが、内臓を分けただけで羽根も毟ってない状態だ。
「おぉ、フェントリクス。今夜は我が領に随分と多くの幸運を運んでくれたようだな!」
屋敷に入ると、すぐ男爵当主っぽい人が出迎えてくれた。 ……仲が良いのかな?
「お久しぶりです、ハルサリフ様。ですが、今回あの大きな鳥を倒されたのはイェルマリエ家の方々なのです」
「あぁ、判っているとも。そちらの方かな?」
「はい。フェイラント様のご子息でルァニエス様です」
「初めまして、ハルサリフ殿。ルァニエスと申します。実際に鳥を倒したのは同行した者ですが、お役に立てて幸いです」
会う予定が無かったので緊張してしまったものの何とか挨拶をする。
「あぁ、とても助かったよ。前回、兄君のルァウフェイム殿とも話させて貰った。弟である君は魔術と商売が得意だと話していたよ。フェイラント殿も、さぞ頼もしい事だろう。羨ましい事だ。はっはっはっ」
何か陽気な人である。
歳は父より少し上だろうか? 体型は少し太めで、武術をしていそうな感じは無いかな。 ……いや、戦える感じがする。
「ふっふ、余り見つめないでくれ。最近酒と飯が美味くてな、倅に仕事を譲った途端に太ってしまったのだよ。ふふふ」
「すいません、不躾でした」
「はっはっはっ 構わんよ。君の父君は未だ現役だし、出会った相手の力量を計るのは必要な事だ」
無礼を詫び、今回の目的と行先を話す。この領は今回の新しい道の有無で余り影響は無いので、特に警戒はしていない。どうやら前回、父と兄も挨拶をしたようだしな。
「そうだ、料理が得意とも聞いたのだが、是非ともウチの領でも披露してくれないかな? ほぼ毎日競い合っているから君の上達にも繋がると思うが、どうかね?」
「今日は時間も無いですし明日以降で考えさせてください」
「まぁ、そうだな。部屋を用意させるから自由にすると良い」
「ご配慮、ありがとうございます」
その後は一度戻り、アリーと一緒に改めてご挨拶をさせて貰った。文官を一人くらい連れて来たら良かったかな…… ドワーフ領に数人待機してるから全く考えて無かったわ。
妹を紹介すると男爵からも家族の紹介を受けた。まずは次期当主一家で、20歳くらいのムキムキな男性とその奥方、それと 1歳に成りたての赤ちゃんだった。ウチの父様同様、現役の戦士って感じの雰囲気をしている。彼は事務以外の領主の権限をほぼ引き継いでいるらしく、鳥の魔物の討伐を聞くと喜び、非常に感謝をしてくれた。やはり、空を飛ぶ魔物は仕留めるのが非常に難しいらしく、囮を使っても有効な武器が無い為に仕留めるには至らなかったそうだ。
まぁ、ロァヴェルナさんみたいに蹴りで一撃ってのは異常だからな。
それと女の子 2人と男の子を紹介された。三女と四女、それに四男との事で、他に 3人居るが学校の為に王都に滞在しているそうだ。この世界は子沢山だからなぁ
三女が兄と同じ歳、四女はアリーと同じ歳で、四男はフィニーと同じ歳になるようだ。
「滞在する時間くらいはあるのだろう? 娘に案内をさせよう」
「……では、お願いできますか?」
「ああ、自慢の領地だ、楽しんでくれ」
うーむ。断り方を聞いとくんだった……
大型生物も寝せず休ませず水すら飲ませずでは、体内にある程度栄養を貯めていたとしても流石に耐えられません。
認識攪乱の魔法は鳥に掛けたのでは無くルァニエスに掛けており、効果範囲は目視した者です。生命属性っぽいですが精神属性で、生命属性だと威圧、萎縮のよう感じになってしまいます。
ちなみに行商人の鳥への対抗策は口の中へジャッキを入れる方法です。
成功率は…… かなり低いです。
落ちてきた鳥さんの脳と心臓は何とか無事です……
「美味しくなーれ「怖いっす!」」
この世界では閣下呼びはしません。男爵は少佐、子爵は中佐くらいの扱いです。
もっと上だとか、王都住みで領地無しだと箔付けで呼ぶかもですが、ここではしてません。
本文に書いてないですが、男爵の子は 4男 4女で長女は嫁いで不在です。
猛禽類の大きさを変更しました。翼分を少し小さく見積もってました。
あちらの子山羊を攫える大きさなので、5m → 10mに。




