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91話  パイルバンカー

 【 12歳 晩夏 】



 無駄話しをしながらもそれなりの速度で移動した。もちろん妹たちやフェンさんが居るので体力、魔力任せに突き進むような真似はせず、飽くまで常識の範囲だ。


昨日より人通りが多いと言うのに、相変わらず川沿いの移動だしな。平地でも無いし舗装(ほそう)もされていないんだよ。南端倉庫を真似るくらいなら、水路の方を真似ろって思うわ。


と、言うわけで若干息が上がってるフェンさんを尻目に、余裕のありまくるヴァレニーやメイドたちとの雑談は続く。


「背が伸びるのは説明で判ったど、スタイルが良くなったりはしないの?」

「 ……それは大人の女性に聞いてよ」

俺に聞くなっ


「昔、あれが効く、これが効くってやったけど大きく差が出た人は居ないわねぇ」

「残念~っ ルァニっ、何か探してよっ」

「無茶、無理。ヴァレニーが自分で試していけば良いじゃん」

「今、里にあるものには効果が無いってのは確実だと思うんだよねぇ」

「 ……それで?」

「魔道具ならどう?」「「「 !? 」」」

「そんなのができるなら、もう作られてるってば」「「「 …… 」」」

男性、女性どっちからの要望が切っ掛けだろうと、出来るならば出来てるわ。


「そっかなぁ~」





 順調に旅は続き、太陽が真上に来る頃には中間の野営地に着いた。

確かに微妙な距離だな。もう半分なのか。


まぁ、このまま同じペースで歩いて(ようや)く夕方に到着なのだから、体力が無いならゆっくり出てここで一泊が良いのかもしれない。行商人も靴擦(くつず)れとかをするのか知らんが、一度行って終わりでは無いからな。売買をし、持ち帰って売ればまた仕入れの為に出発なのだ。


「休憩と食事を取りましょうか」

早速メイドたちが食事の準備を始める。


「フェンさんは十分に休んでくださいね。メイド隊もですが、みんな訓練慣れしていて速く歩くのは得意なので」

「はい助かります。若様も平気なのですかな?」

「私は身体強化と身体回復強化を併用してるんで」

「回復強化は要らんでしょ~ 軟弱だなぁ~」

「ヴァレニー、揶揄(からか)わないっ」

ロァヴェルナさんが助けてくれる。


「体力もだけど、硬い地面は歩き慣れないと使い慣れてるはずの靴でもキツイよ」

「あ~ まぁそうね」

「妙な筋肉が痛いし、足の裏が熱い」

戦闘訓練と長時間歩行だと使う筋肉が違うようで、脹脛(ふくらはぎ)だけじゃなく(すね)側まで痛い。


「それはちょっとわかるかも~」

ヴァレニーも靴を脱ぎ、川に足を入れて休んでいるしな。


靴の大きさの合う合わないもだが、素材の性能も大きい。前世みたいにクッションの利いた柔らかな素材とかでは無いんだよ。ほんとの革靴。足の裏、靴底、足首の固定までもな。伸縮性(しんしゅくせい)に欠けるし、道は凹凸(おうとつ)だらけだしで散々だわ。


ちなみに…… 比較対象として説明してばっかなエルフの里だが、里の中ではデザインが優先され、狩りを行なう者たちは足の裏が薄手の皮でできた機能性重視な物を使っていた。足の甲を厚めの革で覆っているので形状はブーツに見えるんだが、足の裏はかなり柔らかい上、親指が独立してるからどちらかと言えば安全靴風な地下足袋なんだ。


彼らは足の裏で魔力操作なんかもするし、足の指も凄い器用なんだよね。大浴場で見せて貰ったが、足の指自体も少し長い気がした。小さな頃から足の指で物を掴むとか、指先で魔力を使う訓練をしてるからだろうなんて言ってて驚いたものだ。俺もそれから真似してるが、指が伸びる気配は今のところ無いな。



話が脱線したが、そんな訳で疲労回復の効果が付いたストッキングの魔道具が行商人に売れるわけなんだ。回復と冷却機能付きの靴の中敷きでも作ろうかな?


……いや、流石に大きさも厚さも足りないから工夫が必要か。魔石をどこに着けるって話にもなる。靴ごと魔道具にするんなら足の大きさを測った上での受注生産になるし、簡単には売れないだろうなぁ


川自体は曲がっている訳でも無いのだが、ただの河原なので石も多いく歩き難い。多分多少なりとも整備してるのだろうから、増水する度に元に戻されるとかそんな感じなんじゃないかな。



「料理ができましたよ」

ルンが呼びに来た。


本日の食材は道中で出た百足(むかで)である。


体長 10mとそこそこ大きく、この辺りで出たら領主が総戦力を差し向けるレベルの大物だが、エルフ領で 30m級を見ているウチのメイドたちからすると初心者向け教材でしかない。死神の鎌(デスサイズ)みたいな大型の鶴嘴(つるはし)を使い、ルセアと新人 3人で等間隔(とうかんかく)に河原へ()い付けて終わりだ。エルフの森だと打ち込んだ後に()を外して体の中に(くい)を残す為の装備なんだが、今回は先端を土魔法で地面と繋げたようである。余りの早さに他の行商人から驚きと称賛を受けた。


暴れる百足の上で 4人が折れないように武器ごと身体強化で抑えつけ、他のメイドと妹たちでトドメをさす。そしてその後は頭と脚を落とし、内臓を処理しておしまい。こう言う時は川が近くで助かるわ。


鶴嘴で開けた河原の穴の補修もサラッと終え、何事も無かったかのように出発したのだが、それ以降行商人は俺たちから余り離れないよう距離を縮めて移動しているようだった。


「行商人の方々の分も作りましたけど良かったのですか?」

「良いよ。対価も貰ったし、多分護衛みたいな事をさせてたから理由を付けて報酬を出したいんじゃないかな。それに量はあるけど、余らして売る気にもならないしね」

「では行商人の方々にも声を掛けて来ますね」

「お願いね」


フェンさんの話だと、百足は余り森の外では見ないので食べる機会はそうそう無いらしい。百足は人間よりもっと食べ応えのある猪や鹿なんかを襲うから、猪の多い森の奥でしか見ないのだ。そして鹿はまだしも、猪は臆病で空から鳥や虫に襲われないよう開けた場所には出てこない。なので河原で出会うなんて事はかなり稀で、たぶん今回の百足は偶々川を渡ろうとでもしていた個体と出くわしたんだと思う。


ロァヴェルナさんたちと野営地に設置された携行型レストランへ向かうと、調理された肉の良い匂いがしていた。さっそくレストランに入り席に着く。流石に行商人たちが入れるスペースまではないので、彼らにはピラミッドの方で食事を提供する事になっている。


席にアリーたちが見当たらないと思ったら、メイドと一緒になって調理をしているようだった。調理する姿を初めて見た気がするのだが、できるのかな?



テーブルには料理が大皿で並んでいて、レイが個別に料理を配膳している。

置かれていたのは、百足の足を半分に開いたもので作ったグラタンっぽい何かだった。


昼食は適当に済ませるつもりだったのに随分と手間を掛けさせてしまった。


「結構お肉が取れたので、野菜炒めの他、蒸し、(あぶ)り、角煮にしてみました」

サラッと角煮が出てくる辺り、ウチのメイドも中々にエルフ思考だよなぁ


「昨晩焼いたパンだけだと足りなかったので米も()きましたが、どちらにされますか?」

「パンを貰おうかな」

「はい」

「私はご飯を貰おうかしら」

「あたしはパンで~」

「ご用意しますね」


妹たちも席に着き食事が始まる。

「アリーは料理もできるのかい?」

「いえ、この旅の内に覚えてみようと思ったのです。折角目の前で作ってますし、新しい方たちと一緒に習うならお手間を取らせないでしょうから」

「へ~ 良いんじゃない。できる事が増えるのは楽しいよね」

「はいっ 思ってたより解体が楽しかったです」

解体の方か~ 妹がメイド思考になって行く……



出てきた料理はどれも美味しかったが、やはり虫の系統は動物と違い肋骨(ろっこつ)が無いからか、どうしても内臓に接する横隔膜(ハラミ)のような微妙な臭みがあるのだ。それと脂が乗ってない所為でどの部位も似たような食感になる為、獣肉に比べると価値が低く扱われてしまうのさ。グラタンにした足の先は運動する部位で無いためか微妙に肉が柔らかく、エルフの里でもここだけは人気があるんだよね。


料理は行商人たちには好評だったようで、多めに作った分は全部売れてしまった。それでも使いきれない程に肉は残っているので切り分けて下茹でしてから冷蔵した。流石に大きすぎて食べきれなかったので残りは森に埋めようかとも思ったのだが、フェンさんに売ったら良いと言われて持って行く事にしたんだ。


エルフの森だと足以外は捨ててるからな。あっちは更にデカいしさ、脂身も付いてないガッチガチの巨大なササミみたいな物をエルフは食べないんだよ。


「……何か男爵領で料理する流れ?」

「するんじゃないの?」

「そのつもりは無かったんだけどな~」

第一、仮に美味しかったと言われても百足は簡単に手に入らんだろ。



無駄な知識ですが、「パイルバンカー」は和製英語で、商標登録されてるわけでは無いようですがアニメ好きな外国人の脳内にはしっかり登録されてる造語のようです。

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