90話 好き嫌い
【 12歳 晩夏 】
食後は休みがてら区切りもしてなかった大部屋に家具を作る事にした。
限られたスペースに仕切りとベッドを追加していくのだが、アリーやティーエまで手伝ってくれたので統一感の無い奇妙な空間にはなったが一気に無機質さは減った。
もちろん、余り重量を増やさ無いため仕切りは布地である。
鉄筋な訳でも無いので床の強度が心配なんだ。
そして新人メイドたちが相変わらず寝る場所で揉めだした。昨日もやっていたが、誰の横かが重要らしいのだ。2年目のメイドは既に飽きていて放置するようだし、俺もどうでも良いので 1階の柱の増設に向かった。
1階に着くと、早々に 1階のダイニングの端を使う宣言をしていた、フェンさんが寛いでいた。
「賑やかですなぁ」
「旅はしばらく続くんだし寝る場所なんて交代で良いと思うんだけどね」
「ふふふっ 楽しそうで良いですなぁ」
キッチンとダイニングの間の柱を十字型にし、少し広げ強度も上げる。
「そう言えば、壁に色を塗る人って居ないんですか?」
材料をありあわせで作っている関係で、この建物の壁は内も外も石の色なんだ。しかも追加の石次第なので不純物の比率によって模様ができている。
「資産に余裕のある方はすると聞きますが、塗料は高いですからなぁ」
「やっぱりかぁ」
室内は交換もできるタペストリーと絨毯が主流だしな。
塗料ってのは結構難しいんだよ。
薪が使えず長時間の過熱が困難だからこそ膠は高価だし、水性ならまだしも油性の塗料は存在しない。揮発性の溶剤も無いからな。手紙や魔道具に使う特殊インクは魔力による操作が必要で、大面積を塗ろうと思ったらとんでもない人員と魔力と塗料が必要になる。あれも安くなんてないからなぁ
前世でもインクの発展は蒸留による分離が十分に発展してからだしな。
ちなみに、ご想像通りエルフにその常識は通用しない。彼らは色の付いた石を石魔法で超極薄に延ばすんだわ。多分、材料も前世なら高価であろう宝石なんかも混じってるんだろうと思う。顔料と膠どころの話じゃない。壁を宝石でメッキだぞ? 採算度外視って話ですらなく、好みだという理由で躊躇、検討もせずに突き進むからな。再生可能だろうし何も言わんが……
壁が木製なら植物油由来の塗料を塗るんだろうが石材なので馴染みもしない。
塗料が無いので壁紙が欲しいってなるのに、紙も足りない。
そして結局樹が伐れないに戻る…… どうにかならんのかねぇ
養護院の和紙もどきは未だに作り続けて貰ってるが、量が多くないので俺が消費して終わりだ。少しずつだが良い細断方法や漉き方が見つかってるようで見た目が良くなっている。とは言え、壁紙に採用するには幅も長さも足りないし、何より生産量の増大は手作業のままでは無理なのよ。
壁紙なら染めるのも楽だし、貼るための糊もいくらでもあるんだけどなぁ
作業が終わったので 2階に戻ると皆が寛ぎ、雑談をしていたので混じる。
「まさか 2日目で問題が発生するとは思わなかったわ」
「ごめんて~ しゃーないじゃん~」
「取り敢えず身体強化を乗せないように注意してね、首千切れてたら死んでたわよ?」
だから、エルフの会話は一々怖いんだっての……
「は~い」
しかも緩~い。
雑談もそこそこ、明日以降もあるので日の出に合わせて起きる事を決めて解散した。
◆
翌朝も昨日と同じく結構早めに出発をした。今回は周りの行商人たちも俺たちと近い時間に出発したようで、移動はかなりの大所帯となっている。
今日早く出たのも、みんなが同じ時間帯なのも、今日の目的地までの距離が微妙に長いからなのだ。急がない人や他の領へ向かう人には関係ないだろうが、次の男爵領の中心地に行こうとすると到着時間的に結構ギリギリなんだよね。
一応、間にもう一つ野営地がありそこを使う事が推奨されているのだが、一泊が勿体ないと感じる行商人は朝早くから歩いて一泊分を節約するのさ。別にお金が掛かるわけじゃないが、時間と食費は儲けに繋がるからな。
別に親しい行商人も居ないのでメイド隊たちと固まって歩いると微妙に視線を感じる。悩むなっ がっかりするなっ 男だっつーの!
そして相変わらずの無駄話し。
「私とヴァレニーって兄妹に間違う程、似てますかね?」
「姉妹なっ おねーちゃん!」
「ちげーわっ! アリーと間違うなら判るんだけどなぁ」
「私はティーエと一緒に居たからではないのですか?」「 …… 」
アリーがフォローしてくれる。しかし姉は無いよなぁ
「そうなのかな?」
「単に髪型じゃないかしら? アリーはいつも綺麗に編み込んでるもの」
「なるほど。それもあるのか」
確かに俺も伸ばしっぱなしだ。一度禿げてからずっとな。
この世界だと切るのが面倒なので後ろで括るのが一番楽なんだ。兄は暑いのも解れるのも目に入るのも嫌だと小まめに切ってるけど俺は兄ほど汗だくで運動しないからな、何度か毛先を切っただけである。つーか、禿の衝撃は結構辛かった。帽子を手放せない生活はもう要らんっ
「ヴァレニー、長い髪をまき散らしながら歩くのは良くないんじゃない? 纏めようか?」
「やだよっ 変な癖付いたらどーすんだよ」
う~ん。エルフの音楽家は髪で弦を作るから、こんなだらしなく見えてもちゃんと気を使っているようだ。 ……いや、ほんとうか? 面倒なだけにも思える。
「う~ん、ドワーフなら楽器の弦用に金属の線とか作れないかな?」
「細くするだけならヌィグラインにでも頼んだらどう?」
「鉄だけだと強度に問題が出ると思うんですよ。ですので、弦に使うなら他の材料を混ぜて、粘りの強い金属が必要なんですよねぇ」
「良いね! おーーっ やる気が出てきたっっ」
「落ち着きなさいよ、全く。手に入ってから喜びなさいな」
「そう言えば、ルァニって背ぇ伸びた?」
「伸びてる途中~ 実は地味に成長痛で膝が痛い。これも山羊乳を…… そうか、今回の旅の間は山羊の乳が用意できないな」
「チーズでも良ければ男爵領でも手に入りますぞ? 平地の方が畜産は盛んですからな」
なるほど。フェンさんが教えてくれる。
「背が低いのも妹に見られた理由かなぁ?」
「もっともーっと伸びるぜぇ」
「なーまーいーきーっ 夜、少し削ってやる」
「怖いわっ!」
「兄様、山羊の乳を飲むと背が伸びるのですか?」
「子山羊が大きくなる為の栄養が入ってるから、骨の材料も含まれるんだよ」
「へ~、わたしも明日から飲むようにします」
「いや、ごめん。手に入らないから乳から作ったチーズにしようって話しをしてたんだ」
「あ~それで。では私もチーズを!」「 …… 」
「……ティーエも一緒に戴きなさい」
フェンさんが勧める。
「 ……はい」
ティーエは少し困り顔。地元の人が食べるだけなので、余り改良が行われていないチーズってのは臭いがキツイんだよね。カルニナフさんと作ったものを持ってきたら良かった。
「なるべく臭いのきつくない物を探して、多めに買っておこうか」
「そうですな。着いたら探しておきましょう」
「臭いとか美味しくないのは、細かくして水魔法で包んでゴクンだよ」
ヴァレニーが得意げに言う。
「子供かっ!」
「全くもう。ヴァレニーはまだそんな事してるの?」
「ミラッカ、タルタニ、アレコートだけ~ スープで包めばバレないし」
「結構あるじゃんか!」
ミラッカ、タルタニは知らないけど、アレコートはナスっぽい野菜である。
「ヴァレニー…… 昔からそれする子多いからバレてるからね」
「むー」
ロァヴェルナさん情報ではエルフの子供あるあるらしい。
子供の好き嫌いは世界が変わっても同じだが、対処能力は違うようだ。
膠も木材が無い事でコストが上がって高級品となっています。
ルァニエスは気付いてませんが、ヴァレニーは睡眠時間に合わせて毛根、毛髪に生命力強化をアイドル魔法で維持しています。もちろんエルフでもそこまでする人は他に居ません。
嫌いな物を食べるためだけに口の中で魔法を使いだすエルフの子供の執念よ……




