47話 前夜祭
【 10歳 晩秋 】
夕方と呼ぶにはまだ早いが、徐々に人が増えてきた。至る所で食べ物を調理し並べ始め、良い匂いが漂い始める。リアネルティエさんは今、野菜を刻んでは冷水に放り込んでいる。準備も終わりそうだ。
そんな中でひと際目を引くのが広場中央の大きな獣の肉。
一緒に居る妹たちは唖然。
俺もだけど。
何mあるのやら。とにかくデカい!
前脚 2本に後ろ脚 4本、トカゲみたいな尾の生えたヤギだ。解体され皮が付いて無いのに何でヤギって判ったかと言えば、頭が近くに飾ってあるんだ。頭だけで 3mはある。無茶苦茶怖いっっ しかも、本体のしっぽ太いし長過ぎっ! どう言う生物なのやら。
中央で分割されているものの丸ごと一本の串で貫通してある。
重量で折れないよう、真ん中でも支えている直火の丸焼きだ。
「でけ~~ あんなの火、通るんですかね?」
「既に小一時間、低温で中に熱は通してあるんだよ。後は直火で炙って切り分けるのさ」
リアネルティエさんが教えてくれる。
「あの大きさを低温加熱? どうやって……」
「石魔法で肉を全部を覆った後に内部を水属性魔法で直接加熱ね」
無茶苦茶。低温調理になるのか? しかも火も水を使わないんだ……
「火じゃ無いんですね」
「骨とか肉以外の部分が有る所為で内部を火属性調理は難しいんだよ。かと言って外から直火だと熱を調整できないから焦げるし、石が割れるかもしれないじゃん?」
「材質が違うから? まぁ、そうなのかな?」
ここで元素差が関わってくるのか……
「じゃ、茹でるとかはどうですか?」
「折角覆ってるのに、水入れる大きな鍋と大量の水を用意するの? 無駄じゃないかな?」
「ふ~ん とにかく初めて見る調理方法です」
「複数の属性魔法が必要だからねぇ しかも温度を上げ過ぎないようにするのも経験が必要っぽいし」
「ルティ姉も使える?」
「あんなデカいのを調理する事なんて無いしっ! ほぼ祭り専用の伝統芸だってば!」
「そうなんだ……」
まぁ、俺も練習する気にならんなぁ いつ使うんだよ。
「……で、あれ食べきれるんですか?」
「ウチの男共を侮ってはいけない! 食べるさっ 意地でも!」
「ルァニエス、協力して貰うからな。 ……これは誇り、矜持の戦いなんだ」
後ろからカルニナフさんに肩を掴まれた。
「いやいや、無理でしょ……」
ぱたぱたとロァヴェルナさんの後ろへ逃げる妹たち…… まぁ、流石に許すわ。
食べきるまでが伝統らしい。
巻き込むんじゃねぇ
◆
日も暮れ、中央のお肉もなかなか減ってきた訳だが、この生き物なんだろ? 後ろ脚が 4本ってどう言う状態だよ…… 徐々に見えてきた骨格は前世の生物の系統とは全く異なる姿だ。
昆虫の脚が 6本でも後ろ脚は 2本だ。仮にケンタウロスが居たとしても後ろ脚は 2本になる訳だろ? 後ろ脚って基本 2本の方が制御し易いんじゃないのか?
真ん中寄りの後ろ脚は微妙に形状が異なるし、どう言う生物から進化して来たのやら。
「こんな大きいのが森に出るんですか?」
周りの男衆に聞いてみる。みんな無言でモグモグしてるから間が持たないんだわ。
「この時期にだけこっちに渡って来るんだよ。だから秋だけの幸だな」
「へ~ 山から降りて来るんですか?」
「降りて来るってより山を越えて来る」
「へ~、あの山を登り切るとか凄い脚力ですね~」
「脚力? いやいや、飛んで来るんだよ」
「と…… えっ? 飛ぶんですか?!」
「おう。 ……あれ? あ、そうか。解体見て無いのか。真ん中のは羽だぞ」
「えっ? こ、これ羽なんですか??」
やべぇ~ ヤギ面したペガサスだったようだ。
「羽なのに胴の下から生えてるんですか?」
「元は魚だったんじゃないかって誰かが言ってたな」
違う人が怪しい情報を教えてくれる。
いや、魚はねーだろ…… ヒレ由来の羽なのか?
「これヒレなんです??」
「それで飛べるなら良いんじゃないか?」
いや、まぁ そうだけどさ…… それで納得しちゃうの?
「おら、ルァニエスぅ。もっと食え。大きくなれんぞ」
「魔力が豊富だから内臓も旨いぞ? 肝だぞ、肝。たっぷり食っとけ!」
「あ~、煮込みは奥の鍋な~ 2杯は食っとけよ~」
酔っ払い共が~
「最初に教えてくださいよぉ そろそろ、限界ですって……」
話を聞いて行くとどうやらこのヤギは魔法で体重を減らして飛ぶらしく、魔石も肝臓もかなり大きな生物らしい。結構高い位置を飛ぶらしく、倒すのが凄い難しいそうだ。
どうもエルフはこれを渡り鳥と思ってるっぽい。
鳥って呼んでたし……
分類、雑っっ
◆
無茶な食べ放題から逃げ出してみんなと合流した。
「いっぱい食べた?」
ロァヴェルナさんが聞いてくる。
「何日分も食べましたよ~」
「それは良かったわ」
「あれって女性は食べないんですか?」
「もちろん食べたわよ。アルヒエルタやメイド達も食べてたわ」
「もう少し小さいので良いんじゃないんですか?」
「結構な高さを飛ぶから大きさを選ぶ余地が無いのよ」
「そうなんだ……」
「これが渡って来ない年は天候が荒れる事が多いからね、この時期の縁起物なのよ。 ……それに魔法が上手くなるように、って願掛けでもあるの」
「そうなんですか?」
「生命属性以外の魔法が使える珍しい魔物だからね」
「ふ~ん」
「ルァニ~ こっち来て~」
リアネルティエさんがお呼びだ。
「ちょっと行ってきます」
「いってらっしゃい」
「ルァニ、まだ入る?」
「流石にキツイです」
「もう最後でちょっとしか無いから私だけで食べても良いんだけど、食べない?」
「少しだし、じゃ、戴こうかな」
「よしよし~」
「ルティ姉~」
「なぁに~」
「あんなでっかい肉用意するから他の料理が残るんじゃないの?」
「それは考慮済み~ 女性陣は一人分しか食べないから、女性向けで競ってるのよ」
「肉煮てたから男性向けかと思ってた……」
「そこが盲点なんだよぉ 誰も他に肉料理を用意しないから、今回は結構売れたわ」
「そうなんだ……」
「はい、どうぞ」
「ありがと、戴きます」
「ん~ やっぱ、ちょっと辛いのが良いね!」
完売! 今年の目標を達成したようだ。
◆
それから暫らくして中央の広場から野太い歓声が上がった。どうやら食べ終えたようだ。男達は個々に分かれて行くと、今度はそれぞれ女性と組みで歩いて離れて行った。
……ここから飲み直すらしい。
まだ胃に入るんだ……
「アリーたちも眠そうだし、私は家に帰るわ」
「よろしくお願いします」
「おやすみ~」「おやすみなさい」
「おやすみ」
リアネルティエさんと妹、義妹と別れる。
「皆さんはどうしますか?」
「私はもう少し飲んでから自宅で寝るわ」
「メイドさんたちはどうします?」
「もう少し廻ってみたいのですが、よろしいですか?」
「もちろん! 珍しいでしょうし楽しんできてください。私は眠いので先に帰って寝てますね」
流石に食べ過ぎでお腹もキツい。
「わかりました。では、また明日」
「おやすみ~」
うちの領でも祭りを開けるようになると良いなぁ
神様への奉納的な風習が無いのが大きいのかもしれんな。
この異世界低温調理は理論的にできるかは不明ですが、あちらでは出来ています。
肉をヒーターに見立て電子を動かし発熱&感電で殺菌してます。
電子レンジの技術は使えません。2.45GHzのマイクロ波を魔法で再現できませんから。
いや、マイクロ波発生魔法と波長増幅魔法を別々に作る事ができるなら行けるかも?
秒間 20億は脳に頼ってる内は無理かな……
リアネルティエさんは当然の如く男性陣にも「お願い」して買って貰ってました。
エルフの売買ですが、脳内通貨です! ほぼ恩の貸し借りと変わらないですけど。




