3-21 地図と理科
「魔力酔いというのは不便ですわね。私としては羨ましい限りですが」
馬車の荷台でずっと手を繋いでいる俺とコールに向かって御者台にいるセレンが声をかける。
「変われるなら変わって欲しいわよ!魔力酔いなんてせずに魔法を覚えられるのが一番だわ!」
「ごめんね、こんな方法しか思いつかなくて」
「ギンジが謝ることじゃないわよ。それに普通の魔力教師に頼んだら魔力酔いを我慢するか諦めるかしか無いと思うし」
魔力共有をした結果、ひどり魔力酔いを起こしたコールは「少し横になるわ」と夕食まで休んでいた。
小さい時から魔力の流れを意識せずに魔法を使っていたコールにとって急に意識した魔力の流れはそれだけで違和感があったのにそれに加えて俺の流れが入ってきて、それこそ初めて乗り物に乗った時のような感覚だったのだろう。
コールが起きて来て4人で夕食を取った後、コールに魔法を教える方法を話し合ってしばらくはコールが俺に魔力共有をして魔力の流れを操る練習をしていくことになった。
そうして採集の為に森に向かう馬車に乗っている間もコールとずっと魔力共有をしているというわけだ。
「それにしても魔法自体はずっと使って来たから意識できるようになると魔力の流れ自体はすぐ操れそうだな」
「そうね。今まで意識してなかったけど魔法を使う時に感じていた感覚だから慣れたら問題ないわね」
「じゃあ今日は身体強化を使って剣を振ってみようか」
「そんなに簡単にできるの?」
「簡単だよ。元々無意識で魔法を使ってたんだから身体強化も普段体を動かす時からずっと使うようになるよ」
「それって疲れないの?」
「魔力を使うけど体は楽に動かせるようになるから人によるかな。元々体を鍛えてる人は魔力に頼らないでもいいだろうし、逆の場合は魔力を使った方が疲れにくいと思うよ」
「つまりあたしは後者ってことね」
「そうだね」
採集の後、実際に剣を振らせると昨日よりもブンブンと振り回しても元気そうだったので身体強化は問題なくできているようだ。
「これ!昨日より軽い剣とかじゃないわよね!?」
「そんな手の込んだことはしないよ。単純に魔力のおかげで力が強くなってるんだよ」
「これならあたしでもなんとかなりそうね」
「とりあえず素振りからかな。シルフ、採集で疲れてるところ申し訳ないんだけど、お手本お願いできる?」
「はい!全然大丈夫です!」
そう言ってシルフはコールの隣に立って色んな剣の振り方を教えていく。コールはそれを真似して何度も素振りを繰り返す。
「なんでわざわざシルフに頼むんですの?」
「コールと俺ばっかりが接するのもよくないかと思ってね。みんな仲良くならないと」
「では私やシルフがギンジと接する時間も用意してくださいね?」
「・・・善処します」
「いえ、'必ず'お願いしますわね」
「はい」
しばらくシルフとコールを眺めていたがコールが疲れてきたようなので剣の訓練を終了して街に戻る。
翌日も同じように採集と訓練をしてその次の日は安息のイドの日だったので採集には向かわず4人で今後について話し合うことになった。
コールの話を聞いて次に行くエルシュヴィレンはそのまま素通りしてジェドウィックに行くので今までより少し長距離の移動になりそうだ。
「ジェドウィックまで一気に行くとなると1週間以上かかるのか。エルシュヴィレンの近くの宿場町も宿代って高いのかな?ずっと野営というのも疲れるしできれば宿での宿泊もしたいんだけど」
「宿場町の相場はどこも変わらないわ。高いからって誰も寄らないようになったら存在意義がなくなるわ。エルシュヴィレンに一番近いところでも連泊じゃなければ問題ないと思うわ」
「それなら宿場町の場所を確認して予定を立てるか。明日にでも役場の資料室に行って地図を見てくるよ」
「地図ならあるわよ」
コールはジェドウィックからこちらに来ているのでそっち方面の地図を持っていた。宿場町の場所も記載されている。
「これなら問題ありませんわね」
「コールちゃん、これ自分で書いたの?」
「地図も買うと高いからね」
コールが広げた地図を3人が覗き込んで話している。セレンの言う通り街と街を移動するだけど俺たちには十分だしシルフの言う通り自分でこれを書いたのならよくできている。
「売り物にできそうだな」
「こんなものが売れるわけないでしょ。なんの信用もない小娘が書いた地図なんて」
「そういうものか」
「有名な行商人が書いたとかならお金を出す人もいるかもしれないけどね。逆にこの地図がちゃんと書かれていると判断できる人にはこんな地図は必要ないし。物を売るって難しいのよ」
確かにコールの言う通りだな。この世界にはそういった商売を管理する機関も何かあった時に補償してくれる機関もろくにないのだ。自分の目で判断して真偽を見極めないといけない。
「コールのおかげで地図を買ったり書き写す手間が無くなったのは助かった。これなら食料などを買い込めばすぐにでも出発できそうだな」
「そんなに急いで行くの?」
「エルシュヴィレンは諦めたけどジェドウィックの節末祭に間に合うように行きたいからな。1週間以上かかるならそろそろ出発したい」
「なるほどね。たしかに節末祭なら色んな魔法や魔道具を見るのにはもってこいだと思うわ」
「やっぱり魔法使いがたくさんいるんだろ?」
「そうね。魔法を見世物にするなとか、商売より研究を優先する人とかもいるけど。魔法を覚えるのにたくさんお金を払って人とかは稼いでなんぼって人もいるしね。魔法使いも色々よ」
「それもそうだな。とりあえず明日は街で準備をして明後日には出発しよう。人数も増えたし必要な物も増えるだろう。逆に便利になったこともあるしな」
「氷の魔法ですね!」
「そうでしたわね。ギンジ、どれくらいの氷が出せますの?」
「特に制限ないぞ。水を出して凍らせればいいから。もちろん食材自体も凍らせられるから今までよりも色んなものを持って行けると思う」
「はぁ!?あんたそんなことできるの!?あたしだって大きな氷を出すのは無理なのに」
俺の発言にコールが食いつく。コールは凍らせるのは問題ないが氷自体を出すのは小さいものが限界みたいだったからな。
「他の魔法を教える時にちゃんと話すつもりだったけど、コールだって氷を作ってるんじゃなくて厳密には水を作ってそれを凍らせてるんだよ」
「どういうこと?じゃああたしは水の魔法も使えるの?」
「使えるというか既に使ってるんだよ。氷の魔法と凍らせる魔法は本来別のはずで、コールが使ってるのは凍らせる魔法だ」
「ちょっと何言ってるのか全然分かんないわよ」
「だからこれは説明が必要なんだけど・・・今いる?」
「どうせ今日はやることないんでしょ?気になるから今から教えてよ」
「分かった・・・ただ俺も曖昧なところがあるからあんまり突っ込まないでくれよ」
そう言って俺は水や水蒸気の話を出してコールに簡単な理科の話を説明した。
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