3-8 素材の使い道
ケルソンバートの街に到着した翌日、今日はまだ馬車を動かしても問題なさそうなので馬車で街の近くの森へ散策へ。しばらくは泊まりで野営をすることもないので3人とも日中に起きて活動をする。
馬車で来たので鞄の容量や持ち歩くことを考えなくてすむのは便利で楽だ。しかしこうなると一番の警護対象は馬になるので馬車から離れないで済むようにあまり木が密集したところには入らないように進んでいく。街道は馬車や人が多かったが街道をそれて森に向かうような人はいなかったので他の人が通ることなどは考えなくてよさそうだ。
「それにしても街の中も外も人が多かったですね」
「シルフの言う通りですわ。それに荷台を引く人や大きな荷物を抱えている人が多かったのでより混雑してるように感じましわね」
馬車から降りたシルフが採集をしながらそう呟き、シルフのそばで警戒しているセレンがそれに同意する。2人の言う通り人の往来はかなり多かった。
「ケルソンバートは流通が活発みたいだね。川を渡ってリアンクルの方へ行くならここを経由するし逆に向こうから何かを運んでくる場合も同じようにここを経由するし」
「ちょっと川を渡っただけで人種関係なく人が集まっているのを見るとリアンクルで威張ってる獣人が滑稽ですわ」
「まぁ獣人たちの体が強いのは事実だし、この街では人種への偏見が無くてもこの先の街がどうかわからないからね。セレン、そっちから何か来るよ」
「あら?これは・・・豚さんですの?」
「猪かな?いけそう?」
「問題ありませんわ!」
そう言ってセレンが腰の剣を抜きながら駆けていく。あの剣はセレンが母親のサリーさんから渡されて持ってきたものだ。サリーさんが使っていたものでかなりいい物らしい。
猪というが大きさは牛くらいある。セレンは突進してくる猪を少し横にずれてすれ違うようにしながら首の辺りを斜めに切り上げる。一撃では致命傷にならなかったようで猪はすれ違ったあと方向転換をするともう一度セレンに突進してセレンはさっきと同じようにして反対側を切りつける。
首を左右から切られた猪は血を流しながら三度目の突進をする前に倒れた。うん。華麗な手際でした。
「ギンジ、これはどうしたらいいんですの?」
セレンは倒した猪の首元にしっかり剣を指してとどめを刺したあと、牙を掴んでずるずると馬車の元まで引きずってきた。
「セレン、そんな大きい猪、よく片手で運べるね」
「シルフだって魔力で体を強化すればこれくらいできますわよ。できますよね?」
軽々と猪を運ぶセレンにシルフが驚くとセレンが俺に目線を送りながら質問してくる。
「シルフでも運べるとは思うがセレンほど軽々は難しいと思う。セレンが自分で思っているよりセレンの身体能力は高いぞ?」
「そうなんですの?それは以前教えて頂いた気の流れというやつでしょうか?」
「そうだ。獣人は元々気の流れが強いんだと思う。単純な力比べなら俺よりセレンの方が力が強いと思うぞ」
「それだとギンジが私を襲えないので困りましたわね」
「セレン!何言ってるの!?」
「そうですわ!私が襲えば問題ないですわね!」
「問題ありだよ!」
「それより血抜きしてしまおうか。こいつは皮も肉も買い取ってもらえるみたいだし解体はしなくてもいいだろう」
猪の足をロープで縛って木に吊るしてその下に穴を掘って血を抜く。俺はその近くで馬に水と餌をやりながら見張りをする。
それにしてもセレンの体の動きや剣捌きはかなりのものになってきているようだ。短期間だったけど母親のサリーさんと剣を交えたのはかなり良い経験になったようだ。猪に負けるとは思っていなかったがあんなにスマートに無力化できるとは思っていなかった。
血抜きが終わった猪は馬車の荷台に積んで引き続き馬を警護しながら2人について行く。シルフはせっせと素材として売れそうな草や木のみ、樹皮や苔を集めてセレンがそれを見守っている。
「今日はこれくらいにしておこうか。これから街の混雑が増すかもしれないし」
「それもそうですわね。シルフ、そろそろ帰りますわよ!」
「はーい!ってこんなにいっぱい集めちゃったんですね」
今日は馬車の荷台に積み込めるので鞄がパンパンになることを考えなくて良かったがシルフは自分が集めた素材を改めて見て少し驚いていた。しかもそこに猪が2頭プラスされている(セレンがあの後もう1頭狩った)
「こんなに取って大丈夫だったでしょうか?」
「採集自体はそこまで人気があるわけでも無さそうだし、節末祭前だから素材がたくさんあって困ることもないだろう」
「それならいいんですが」
「素材を売らずに使うのはできないんですの?」
「どういうこと?私は今までずっと売ってきたからよく分からないんだけど」
「植物の素材は何かの薬にしたりするんではないんですか?私も詳しいわけではありませんが加工もしてしまえばいいのでは?」
「ええっ!?そんなの私にはできないよ!」
「今すぐは無理でしょうが魔道具屋で売ってるものを作ってる人達も最初から作れたわけではないでしょうし、勉強すればできるようになるかも知れませんわ」
「そういう本とかあるのかなぁ」
「魔道具屋さんで聞いてみましょう。もし公開されていない技術ならその時諦めればいいですわ。毒消しや魔物避けの薬が作れたら私たちも使えますし便利ですわ」
「うん、そうだね」
おお、シルフが薬師になろうとしている。これは応援したい。
「本や資料、それに加工に必要な器材や保存の瓶なんかも必要なら手に入れよう。もしかしたら役場の資料室に良い本があるかもしれないしそっちも行ってみようか」
「いいんですか!?」
「もちろん。やりたいことはドンドンやっていこう。物やお金が必要ならみんなでなんとかすれば大丈夫だ。それにケルソンバートは物が集まるから節末祭でも何かいい物が見つかるかもしれないな」
「やったー!ありがとうございます!」
「やりましたわね」
「セレンも一緒に勉強しようね?」
「わ、私もですか?構いませんが私は戦う方を学んだ方が良いかなと思っておりますが」
「セレンは何か武器とか欲しいのかな?」
「いえ、今はこのお母様の剣があれば十分ですが、何かあった時の為に相手を傷つけずに制圧できる方法を覚えたいですわ。ギンジの棒を使った戦いは私には難しいでしょうか?」
「俺の場合は気の流れが見える前提だからなぁ」
「そうでしたわね。何かいい方法はないでしょうか?」
「セレンのスピードがあればなんとかできるかもしれないから色々練習してみようか。俺もそんなに詳しいわけじゃないけど」
「よろしくお願いしますわ」
「これはシルフもなんだけど、2人とも万が一の時は自分の身を守るのが最優先だから手加減できない時は相手を殺すこともためらっちゃダメだ。相手を殺さず・傷つけずに倒すのは余裕があるからできることだから」
「「はい」」
とりあえずはシルフが薬師になるための資料探しとセレンの戦いの幅だな。そんなことを考えながら狩りと採集を終えて街に戻った。
猪はそこそこいい値段で買い取ってもらえた。節末祭で丸焼きにして出すお店が買い集めてるらしい。
シルフが集めた植物の素材はかなり多かったようで魔道具屋の店員さんが査定をするのに四苦八苦していた。急かせても申し訳ないのでゆっくり査定してもらって明日以降にお金を受け取りに来ると伝えて宿に戻った。
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