3-9 調合
翌日、宿の食堂で朝食を取った俺たち3人はそのまま魔道具屋へ向かう。明日は節末祭なので準備どころか今日から出店を出したり騒ぎ出す人もいるかもしれないので早めに行こうということになった。
「いや~、たくさんの素材ありがとう。ケルソンバートでは戦士の方は商人や旅人の馬車の護衛をされる方がほとんどでこういった素材採集をされる方が少なくなっていてね。自分たちで取りに行くか採集の依頼を出さないと中々まとまった数が手に入らなかったんだよ」
魔道具屋で昨日渡していた素材の買い取り金を受け取りに来たら店員のおじさんはそんな風に説明してくれた。シルフはプレートを出して買い取り金を受け取りながら「こんなにいいんですか!?」と金額に驚いているようだ。
「適正な値段で買い取りしてるよ。特別に素材採集の依頼を出す場合はこの金額よりも高くなってしまうからね、うらとしては助かっているくらいだ」
「それならいいんですが」
「素材の採集の仕方も丁寧でとても状態が良かったよ。これは全部お嬢さんが?」
「はい。採集は私が」
「今回は初めての取引だったから持ち込んでもらった素材を全部しっかり見させてもらって相場の価格で買い取りさせてもらったけどお嬢さんが採集した素材なら今後は少し色をつけさせてもらうよ。査定ももっと短い時間で終わらせるよ」
「ありがとうございます。ただ私達いつまでこの街に滞在するかわからないので」
「そうなのか。急ぎってわけでもなさそうだから旅の途中ってことかな?それでもケルソンバートに滞在している間にまた採集に行くことがあったらぜひうちに売りに来てよ」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
買い取りは終わったみたいだな。今日明日は馬車が出せないしこの街にどれくらいいるのか分からないのであと何回採集に行くことになるかは分からないが。
「・・・こういう素材って私でも使えますか?」
シルフは少しためらいながらも店員さんに尋ねる。
「使うというのは?」
「その、素材から薬を作ったりとか」
「ああ'調合'だね。お嬢ちゃん、調合に興味があるのかい?」
「調合って言うんですね。そのどうせなら自分たちで使いそうなものは自分で作れた方がいいかなと思いまして」
「そういうことか。もちろんお嬢ちゃんでも調合はできると思うよ」
「本当ですか!?」
「なんでもって訳じゃないけどね。簡単なものなら素材の量とやり方さえ覚えたら誰でもできるよ。ただ誰かに教わらないなら難しいものも多いだろうね」
「本とか無いんでしょうか?」
「もちろん調合のレシピが載った本はあるよ。ただ文字で伝わらない部分もたくさんあるからね。全く誰にも教わらず、となると中々難しいんじゃないかな」
「そうですか・・・」
「そうだな、簡単なレシピで良ければ何種類か書いて上げよう。今日と明日はちょっとバタバタしてるから週明けになるがいいかい?」
「いいんですか!?」
「俺が教えなくてもすぐに調べられるようなものだと思うけどね」
「いえ、助かります!ありがとうございます!」
「それと先に言っておくけど自分たちで使う分には構わないけど売るのはダメだよ」
「はい!わかりました!」
とりあえず闇雲に作り方を調べるより詳しい人から初心者向けのものを教われるのはラッキーだな。
「すいません、ちょっと聞いてもいいですか?」
俺は先ほどの店員さんとシルフの会話で気になったことを尋ねてみる。
「兄ちゃんも何か知りたいのかい?」
「売るのになにか資格とかが必要なんですか?」
「ああ、そのことか。薬に限らず商売をするなら役場で申請をして許可を取らないといけないね。税金の問題もあるし。もちろん街の外で少量を他の人に融通したりする分には問題になることは無いけど」
「勝手に商売したらダメなんですね」
「そりゃそうだよ。物を売れば責任が生まれる。何か起こってから物の出どころが分かりませんじゃ消費者が安心して買い物できないからね」
「理解しました。それで先ほどの調合の件なんですが必要な器具とかってありますか?買っておいた方が良いものがあれば節末祭で探してみようかなと思ったんですが」
「そうだな。今は他にお客さんもいないし少しくらいならいいだろ。ちょっとこっちに来てみな」
そう言ってカウンターの中に案内される。中には作業場というか工房という感じの部屋があって壁際にならんだ棚には色んな大きさの瓶や素材がたくさん詰まっていて他にも壺や鍋、すり鉢のようなものが置いてある。
店員さんは簡単に器具の説明をしながら必要な物を教えてくれた。
「簡単なレシピの物は切る・すり潰す・混ぜるくらいのもんだからな。すり鉢さえあればなんとかなるだろ。もちろん物によっては火を使って煮たりするのもあるがそういうのは独学じゃ難しいだろう。火加減なんかは文字だけじゃ伝わりにくいからな」
「ありがとうございます」
「こういう器具もよく分からないだろうから無理して節末祭で探さなくてもこっちで用意しておくよ。代金は頂くけどね」
「それは助かります!ありがとうございます!」
ただの飛び込みの買い取り客なのにかなり親切な店員さんで頭が上がらないな。これはなんとしてもあと1,2回は採集をして来ないといけないな。
「ここの節末祭は色んな街から物が集まるからな。色んな店を回って面白いものを探すといい。流行りの物や本当に一流の物が欲しいなら隣のエルシュヴィレンで探すといいだろう」
魔道具屋を出る時に店員さんがそう教えてくれた。やはりここは流通が強く色んなものが集まるようだ。
エルシュヴィレンというのは俺たちがこの街を出たら次に向かう予定の街だ。商人が集まる街だと聞いているが良い商品が集まるということは買う人も集まるんだろうし人の多い街なんだろうか。行く前に情報を集めておこう。
「とりあえずお昼ご飯にしようか。それが終わったら武器屋を覗いてみたい」
「武器ですの?3人とも武器は問題ないと思いますが」
「セレンが言ってただろ。殺傷しない戦い方だよ。何かいい物がないかなって」
「ああ!その件でしたのね!嬉しいですわ」
「棒ってあるのかなぁ。刃を付ける前の槍みたいなのでもいいんだけど」
「たしかにそれだとなんとかなりそうですがお店の人は不思議に思うかもしれませんね」
「なんでもいいですわ!早くご飯を食べてお店に向かいましょう!」
「「はいはい」」
足早に目に入った食堂を目指すセレンの後ろをシルフと並んでついて行った。
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