3-5 象の獣人
ファンモスと名乗った森の村の長は象の獣人だった。なんかインドの神様でこんな感じのがいた気がする。
「わざわざ来てもらったのに失礼な対応だったようですまないな」
「いえ、俺が獣人じゃなかったので警戒させてしまったようでこちらこそすいません」
「あんたが謝ることじゃないだろう。だがあいつらも悪気があるわけじゃないんでな。許してやってくれ」
「はい。それほど気にしてませんので。挨拶が遅れてすいません。俺はギンジと言います。それでこちらが」
「シルフです」
「セレンですわ」
俺に続いて2人が名乗る。
村の入口でのいざこざに関しては本当に気にしていない。門番がちゃんとしてないと住人も安心して暮らせないからな。よそ者に気を遣って住人を危険に晒すなんて本末転倒だ。
「それは耳・・・なんですわよね?お鼻も本当に長いんですのね。象の獣人の方は初めて見ましたわ」
「セレン、象って何?」
「シルフは象を知らなかったんですのね。私も本で見たことがあるだけで実物は見たことありませんが。あちらの村長さんのように耳が大きくて鼻が長くて体もすごく大きいと聞いておりますわ」
「そうなんだ。獣人も色んな人がいるんだね」
たしかに、俺だって日本には動物園という施設があったから見たこともあるが野生の象なんてTVやネットがなければ見たことはない。この世界だとどんなところに生息しているのか分からないけど象に限らずいろんな生き物に出会う機会は少ないだろう。
「初めてってわけでも無いんだがな。お前がセレンか。大きくなったもんだ」
「村長さんは私を知ってますの?」
「赤ん坊の頃にちょっと見ただけだけどな。カーティラとも長い付き合いだしそういうこともあるさ」
「お父様とお知り合いなんですね」
「カーティラのことは今のセレンより小さいころから知ってるぞ。小さい頃はそりゃあやんちゃな小僧だったわ」
「そんな頃から!?村長さんはいったいおいくつなんですの!?」
「こんな爺の歳なんて聞いても仕方ないだろう。それに数えるのも面倒になって自分でもいくつかわからんわ!ハハハ!」
見た目だと年齢はよくわからんがかなりのご高齢のようだ。象って長生きなんだっけ?いや、獣人にそういうのは関係あるのか?わからん。
「それで、セレンがこんなとこまで来るくらい元気になったのはギンジと言ったか?そっちの兄ちゃんと・・・シルフか、どっちのおかげなんだ?」
「あら?私の体のこともご存じでしたの?」
「カーティラとは手紙でやり取りもしてるし年に何回かはここにも来るぞ。あいつも親バカだからな。娘の将来に頭を悩ませておったわ」
「お父様が・・・」
「で、どっちなんだ?」
「多分、ファンモスさんが言ってるのは俺のことだと思います」
「お前がか。ふむ・・・」
そう言ってファンモスさんが俺をじっと見つめる。ファンモスさんが言ってるのは魔力も使えず体を動かすのも得意じゃなかったセレンが家族も家の者も連れずにこんなところに来れるようになった原因のことを言ってるんだろう。だったらそれは俺が原因だ。誤魔化してもよかったがなぜかこの人に嘘をつくきにはなれなかった。
それにしてもじっと見つめられると心の中まで見透かされそうだ。老人特有の目力というか・・・ヘルムゲンの魔道具屋の婆さんもこんな目をしてた気がする。
「悪いやつじゃなさそうだな」
「ありがとうございます」
「底は浅そうだな」
「ぐっ・・・」
「余裕ってのは周りに悟られると警戒されるからな。舐められた方が楽なことも多い。守るものがあるならもう少し馬鹿っぽく見せるか、とことん強く見せるかだな」
「精進します」
「ハハハ!素直なのは良いことだ」
本当にすべて見透かされてそうだ。でもメンタリズムだっけ?それっぽいことを言って揶揄われてるだけかもしれない。
「あんまり長居しても森を出るのが遅くなっちまうだろう。兄ちゃんたちはリアンクルに戻るのかい?」
「いえ、逆の方に向かってまして今回は通り道だったのでカーティラさんについでにお使いを頼まれた感じで」
「それじゃあちゃんと荷物は届いたとカーティラには伝えておこう。わざわざ寄り道してもらって悪かったな」
「いえ、元々あてがない旅ですので」
「そうか。この先どこにいくのか知らんがここみたいに大きな街から離れて暮らしてる集落ってのはそんなに珍しくねぇ。ただどこもここと同じように警戒心は強いしひどいところなら近づいただけで襲ってくるような奴らもいるだろうからもしそういうところに行くなら気を付けてな」
「ありがとうございます。それよりこういう集落って少なくないんですか?」
「どこにだって人付き合いが苦手だったり色々と不器用なやつはいるもんさ」
ファンモスさんの家を出た後、家の外で待っていたマルスさんに連れられて村の入口のところで預かってもらっていた馬車のもとに行く。
「よそ者が来ないから飯屋とか宿屋もないもんで、何もしてやれなくてすまないな」
マルスさんはそんなことを言っていたが別に気にしてない。そのことと村での案内の感謝を伝えて俺たちは村を後にした。
「ギンジさんは象を見たことがあるんですか?」
宿に戻る道中、御者をしていた俺に荷台の幕をめくってシルフが尋ねて来る。
「いや、俺も話に聞いたことがあっただけだよ」
「そうですか。それにしても耳も羽みたいに大きかったし鼻・・・でいいんですよね?鼻も長いうえに器用に動かして使っていて凄かったです」
「私も驚きましたわ!動物の象もあんな風に鼻を使えるんでしょうか」
「ファンモスさんは手も使えるけど象はそうじゃないからね。物を掴んだりするのに鼻を使うらしいよ」
「「へぇ~すごいですね(わね)」」
ファンモスさんの見た目が気になっていた2人と違い、俺はあの村の存在自体が気になっていた。街で暮らすのが苦手だったり難しい人が集まってるんだろうか。もしかしたらセレンのように魔法も使えず体もあまり強くない人とかもああいうところに行くのかもしれないな。
結局朝出発した宿場町に日が暮れる前には戻ってこれた。さすがにこのまま先に進むとすぐ夜になってしまうので今日はここでもう一泊していくことにした。
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