3-3 お使い
宿場町で1泊した後、旅人向けの店で食料を買い足す。あまり日持ちしないものもあるし、俺たちは小さな馬車で移動しているので持ち運べる量も限られる。野営した時にセレンが料理のバリエーションの話をしていたのでお店の人に調理方法などを尋ねながら買って行く。基本的に焼くか煮るしかないからな。まぁ旅の途中にそこまで挑戦することもないだろうし次の街に滞在してる時にでも新しい料理を覚えよう。
荷物を積み込んで出発する。俺は昼に寝ていた分、宿ではあまり眠れなかったので今から馬車の荷台で休むことになるだろう。シルフとセレンは1日ぶりのベッドはやはり快適だったようで昨日の野営明けよりすっきり眠れたようだ。
「じゃあ今日も昼の間はよろしく頼む」
御者台の2人にそう声をかけて俺は荷台に引っ込む。初めはこんな揺れの中で休めるのか疑問だったが慣れてしまえば逆にこの揺れが眠気を誘ってるようだ。「ギンジはコウモリみたいですわね」「コウモリですか?」「知りませんの?昼に寝て夜活動するんですのよ」「ふふ、そう言われるとそうですね」・・・御者台から聞こえる会話に耳を傾けながら俺は眠りについた。
そのまま2日ほど進んだ。
特に問題は無く、昼は2人に任せて俺が休み陽が暮れる前に野営できる場所に馬車を停めて俺が見張り2人に休んでもらう。
そうそう、日中の休憩の時にセレンが兎を狩ったと起こされたことがあった。せっかくなので桶に水を貯めて血抜きをして皮を剥ぎ、2人にやり方を教える。血と兎を洗った水は街道から離れたところに穴を掘ってそこに捨てて埋めた。穴を掘るのが大変だったので魔法で作業ができるようになるまでは無暗に狩るのは止めようと決まった。ただその日の夕食で食べた兎の肉は上手かった。
宿場町の間隔が遠いのか野営する時に他の馬車がいることもあった。さすがに全く知らない人が近くに泊まっているというのも気になってしまうので挨拶はしておいた。向こうは売り物を運んでいて商人と御者、それに護衛の戦士が2人いた。この辺りは危険な魔物が街道に出て来ることも少ないのでそこまで大げさな護衛は使わないらしい。まぁ護衛を雇えばその分商品の値段が高くなってしまうしな。ただいくら危険が少ないと言っても子供が2人に若い男が1人ということで逆に心配されてしまった。交流はそれくらいで特に何事もなく朝になると俺たちよりも早く準備をして俺たちが来たリアンクルの方へと向かって行った。
馬車に揺られるのも昼夜逆転生活もそこまで苦ではなかったが地図を見ても自分がどこにいるのかよくわからず、あとどれくらいで次の宿場町、いやもっといえば次の街にたどり着けるのかよく分からないのがストレスだった。地図は縮尺がでかいしどれくらい正確なのかもよくわらかない。距離も書いてないし俺たちがどれくらいの速度で移動できているのかも分からないので大きな目印がないと地図を見ても「この辺」くらいの感覚でしかわからない。川なんかがあるとわかりやすそうなんだがしばらくはそれもなさそうだ。
そんなことを夕食の時に2人に話したが
「う~ん、確かにそう言われるとそうですが私たちは座っておしゃべりしてるだけなのでそんなに苦ではないですね」
「そうですわね。私は今までほとんど家にいたのでずっと外にいるだけで新しい生活のようで楽しいですわ」
俺が考えすぎなのかな。
「でもギンジさんは夜の警戒の時1人なので色々と考え事してしまうのかもしれませんね」
「そうですわね。私たちも交代で起きていましょうか」
「そこまでしてもらわなくてもいいんだけど」
「私はギンジとお話したいですわ」
「そうですね。私もギンジさんと話したいですし魔法のことも色々聞きたいです」
「それなら少しだけお願いしようかな」
「じゃあ今日は私が先に寝ますのでシルフがギンジの相手をしてあげてくださいませ」
そう言って2人が交代で俺の相手をしてくれるようだ。なんか心配かけたようで申し訳ないがこのままだと移動中は食事の時以外は2人とコミュニケーション取れないままだったので良かった。
その日はセレンが荷台で休んだ後、しばらくシルフと話をしていた。魔法の話もしたがほとんどが俺が寝てる間に見たものやセレンとの会話のことだった。楽しそうに話すシルフを見てるとこの馬車生活も悪くないのかもと思えて来る。一通り話すとシルフが眠そうにしていたので先に休んでもらった。
前の宿場町から3日後、次の宿場町に着いた。リアンクルを出る前に領主であるカーティラさんに頼まれた届け物をする森にあるという集落を少し通り過ぎてしまった形だ。
途中で森に続くそれっぽい横道があったのだが地図で見たところ宿場町が近かったので先にそっちに来てから戻ることにした。実際に森に続く道を通り過ぎてから半日もしないうちにこの宿場町にたどり着いたのであの道で間違いないだろう。今日はここで泊まってから向かうことにする。
前と同じように宿場町の入口のところで馬車を預けて宿に向かう。今回は1人部屋も空いていたが安くすむからと前回と同じように3人部屋に泊まることになった。
宿で1泊した後、少し食料を補充してきた道を戻るように出発する。一度通り過ぎた横道のところまで戻って今度はその道に沿って森の方へ向かう。街道ほどしっかりした道ではないがきちんと踏み鳴らされているので少なからず人の往来があることが分かる。集落の場所がどれくらい森の深くにあるのかわからないけど森の中で一晩過ごすのは嫌だから早めにたどり着けたらいいが。
森に入ってからも道はしっかりしていて馬車でも進むのに困らなかった。ただ道の両側には木々が生えているし魔物が出るかもしれないので今日は俺が御者をしている。昨日は宿に泊まったし睡眠はばっちりだ。
途中で馬車を止めて馬に水を飲ませる。街道のように道の横に原っぱがあったりするわけじゃないので馬車に積んでいた野菜を食べさせる。うん、ずっと馬車を引いてもらっているので気を遣ってはいるが馬の体調は良さそうだ。俺たち3人もこのタイミングで休憩をしつつ少し食事をとる。さすがに森のど真ん中で火を使うわけにはいかないのでパンと燻製肉をかじる。
休憩が終わってしばらく馬車を進めると道の先に人が立っていてその後ろに木で作られた塀のような壁と門のようなものがある。あそこが目的の集落か。着いたみたいだと荷台にいる2人に声をかけようとすると
「止まれ!!」
と道の先に立っている人が叫んだ。思わず手綱を引いて馬車を止める。まだ距離があるのでちゃんと見えないが門番のような人は獣人のようだ。犬系かな・・・動きやすそうな防具を付けており腰には剣を下げていて手には槍を持っている。
俺が馬車を止めると門番の人が槍を構えてさらにこちらに叫ぶ。
「ここは只人が来る場所ではない。商人か旅人かは知らないがここで引き返して帰るがいい。それ以上進むのであれば容赦はしないぞ」
なんだか面倒なことになりそうだ。
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