3-2 初めての野営
3-2
「ギンジ、ちょっとよろしいですか?」
「ん・・・どうした?」
小休止の後、馬車の荷台で横になっていたらいつの間にか眠っていたらしい。初めはこんな揺れる馬車で眠れるもんかと思っていたが慣れてしまえば人間なんとななるものだ。
セレンの呼びかけで体を起こすとどうやら馬車は止まっているらしい。セレンも御者台からではなく荷台の後ろ側から声をかけて来ている。
「眠ってましたの?急ぎというわけではないんですが」
「いや、かなり寝たみたいだから大丈夫だ。それで何かあった?」
「日が傾いてきましたので野営の場所を決めてしまった方がいいかと思いまして。このあたりでどうでしょうか?」
荷台から降りると先ほど休憩したところのように少し広めの原っぱに馬車を止めてあった。見晴らしもいいので悪くなさそうだ。シルフは馬に水を与えていた。
「ありがとう、ここなら街道を通る人も見えるし起きてれば警戒も難しくなさそうだな」
「そうですわね。でしたら今日はここで夜を過ごしましょう」
「そうだな。それじゃあ準備するか」
焚き火をして夕食の準備をする。食材や調理器具を考えると本当に馬車で来て良かったと思う。徒歩なら鍋一つでも荷物だ。御者の訓練と馬車を用意してくれたカーティラさんには足を向けて寝れないな。
「ギンジさん、おはようございます。よく眠れましたか?」
「ああ、おかげで夜はしっかり見張りができそうだよ」
「それなら良かったです。馬車って結構揺れるんでちゃんと寝れてるかなぁってセレンと話してたんです」
「俺も初めは不安だったけど気が付いたら寝てたよ。寝てる間は何も無かった?」
「はい。何度か馬車とすれ違いましたがそれ以外は何もありませんでした」
とりあえず1日目は問題なかったようだ。いや、夜がまだ残っているが。セレンが荷台から食材を持ってきてくれたのでスープとパンを用意して夕食を3人で取る。シンプルな食事だけど暖かい物を食べれるだけで十分だ。美味しい物は街にいるときに食べればいい。
「外で食事をとるというのもなんだか不思議な感じですわね」
「セレンはこういうのは初めてか?」
「そうですわね。ギンジとシルフが来るまではあんなふうに森に出かけることもありませんでしたから」
「私だってパンとかは食べたりすることはあったけど、こんな風に料理するのは初めてだよ」
「そうなんですの?」
「俺とシルフだけだと荷物も限られるし、火の魔法もリアンクルで覚えたばかりだしね」
「そういえばそうでしたわね。野外での食事というのは良いんですが同じ料理ばかりというのも飽きてしまいそうですし食事にもこだわりたいですわね」
「それは確かにそうだがまだ1日目だしな」
「あら、やりたいことを何でも言えと言ったのはギンジではないですか」
「そうだったな。じゃあ食事のこともちゃんと考えていこう」
どうせならおいしい食事の方が良いのは俺も同意だ。せっかく馬車もあるんだし調味料なんかは色々持ち歩いてもいいかもしれないな。いや、この世界の調味料ってどうなんだ?次の街でそういう店も見てみるか。
食事も終わりすっかり陽も暮れたのでお湯を用意して3人で交代しながら荷台で体を拭いて着替え服を洗う。それが終わればシルフとセレンの2人には荷台で休んでもらい俺は火の番をしながら見張りをする。2人で寝るには荷台は少し狭いかもしれないが・・・まぁ大丈夫だろう。
パチパチと燃える焚き火を見ながら色々と考える。シルフのセレンへの話し方が昼までよりも砕けたものになっていた。俺が寝ている間に進展があったんだろう。
しばらくは荷台の中から声が聞こえていたがそれが聞こえなくなると風の音くらいしかしない静かな夜となった。今日は昼にしっかり休めたのでこのまま朝まで交代せずにいけそうだ。
夜が明けて陽が昇る。俺は朝食の用意をしながら荷台に声をかけて2人を起こす。
「ギンジさんおはようございます。結局朝まで見張りをしてくれたんですね。ありがとうございます」
「ふぁ~。おはようございます」
「2人ともおはよう。とりあえず顔を洗っておいで。そしたら朝食にしよう」
昨夜と同じく桶にお湯を用意してあるのでそちらで顔を洗ってもらう。シルフは問題なさそうだがセレンはあくびをしているし眠たそうだ。
「セレンはあまり眠れなかった?」
「ベッド以外で寝たのは初めてですので少し寝心地が気になってしまって。すぐになれるとは思いますわ」
3人で朝食を取りながら今日の予定を話す。今日も昨日と同じように日中は俺が休んで2人のに御者をしてもらい野営をすることになったら夜は2人が休んで俺が見張ることにする。
「今日も昨日と同じように昼に俺が休ませてもらって野営になったら夜は俺が見張りをする。あと馬のために休憩はこまめに取ってもらって大丈夫だから」
「水はシルフにお願いいたしますわ」
「うん。それは大丈夫だと思う」
「それじゃあ昼は2人に任せるね。何かあったらいつでも声をかけてくれていいし、火やお湯が必要な時も遠慮しなくていいから」
「わかりました」
「魔道具も有りますからギンジはゆっくり休んで問題ありませんわ」
「ありがとう」
そう言って焚き火などの始末をして荷物をまとめたら出発する。俺は荷台に乗り込んで横になると徹夜のせいかすぐに眠りについた。
「ギンジさん、着きましたよ」
「ん、着いたって・・・?」
昼に休憩をした際に一度目を覚まして3人で昼食を取った後、同じように荷台で眠っていたがシルフに声をかけれて目を覚ます。御者台の後ろの幕をめくって覗くと街道沿いの集落に着いたようだ。
「ギンジおはよう、よく眠れまして?」
「ああ、宿場町に着くのは明日になるかと思ってたけど思ったより早く着いたな。ただどうなると今日は宿を取れそうだから起きてても良かったかもな」
「それもそうですわね」
「それで今日はここに泊まるんですか?」
「そうしよう。とりあえずは・・・馬車を停めれる場所を探さないとな」
集落の入口で見張りをしている人に声をかける。馬車は集落の入口のところで預かってくれて馬の世話もしてくれるそうだ。先払いとのことだので預かり料を支払う。預かり証みたいなものがあるかと思ったがそういうのは全部プレートで確認してるそうだ。便利な世界だ。必要な着替え等だけ荷台から降ろして宿に向かう。
宿では一人部屋が空いていなかったので3人同室で泊まることになった。
「本当に同室で良かったのか?」
部屋に入って荷物を置きながら2人に尋ねる。
「私は部屋どころかギンジと同じベッドでも構いませんわよ?」
「セレン、さすがにそれは早いよ!私は別よりも一緒の方が安心です」
「2人がそう言うならいいけど」
「同室になったくらいで手を出してくださるなら私たちも苦労しませんわ、ねぇシルフ?」
「ななな何言ってるのセレン。私たちはまだ子供なんだから」
「私たちの問題ではなくギンジの問題なんですけどね。とりあえず食事にまいりましょう。宿場町というのも初めてですので楽しみですわ!」
「もう、セレン待ってよ。ギンジさんも行きましょう」
馬車では起きている時間が違うので街を出てからの2人の雰囲気をちゃんと掴めてなかったが思ったよりも仲良くやっているようだ。
それにしても昼間は2人でいったい何の話をしてるのか・・・気になるけど聞くのも怖い気がするな。
そんなことを考えながら2人の後ろを追いかけて宿の食堂に向かった。
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