1-23 街を出る相談
「街道沿いに行けば徒歩でもとなりの街に行けると思うよ」
資料室に行って他の街に行く方法を尋ねるとそう教えてくれた。実際に地図を広げて見せてくれて、街と街の間には小さな集落ができていて、宿場町とまでは行かないが街を往来する人が泊まれるようになってるとのこと。集落間の距離は一定じゃないけど相当悪天候でもなければ朝から晩まで歩けばたどりつけるはずと教えてくれた。これなら道中の魔物だけ対策すれば一人でもなんとかなりそうだな。
「人に襲われることはないんですか?」
盗賊や山賊がこの世界にいるのか分からないので聞いておく。
「僕も国中の事情に詳しいわけじゃないが・・・そういったことはないわけじゃないが、バレたらこの国で生きていけないからね。大金を持ち歩く人はいないし、行商なんかを襲っても襲われた大体の時期がわかればその前後で通行した人は疑われてしまう。まぁ大丈夫だと思うよ」
プレートの貯金機能やIDとしての機能がいい方向に働いてるんだな。
ちなみに乗合馬車もあり、そちらだと距離や乗る人によって料金や時間が変わるようだ。戦士の人が多く乗る場合などは夜の警戒などを持ち回りにできるのでできるだけ多くの距離を走って野営する、それを繰り返せるのでかなり早く移動することもできるし、客が少なければ集落に寄って宿泊をすることもある。そうなると時間も料金も高くなってしまうみたいだ。
「ギンジさん、ちょっといいですか?」
マックさんに話を聞いた後、資料室を出て役場を出ようとするとメガネのお姉さんに声をかけられて別室に連れてこられてしまった。なんだろう・・・最近はシルフの護衛の時に狩ったゴブリンの魔晶を持ち込むくらいで特に目立つことはしてないつもりだったが・・・
「街を出ていくというのは本当ですか?」
「えっ!?なんでそれを?」
「それは今は関係ありません。が本当のようですね」
いや、俺としては自分のことが知られてるのは何か怖いんですが・・・。
「まぁ今すぐではありませんが。何か問題がありますか?」
「問題があるわけではないんですが・・・」
いつものピシっとした感じではなく歯切れの悪い感じでお姉さんは続けた。
「正直に言うと力のある人が街にいるというのはとても助かりますので、できるだけ街に滞在していてほしいという気持ちはあります。ですが報酬を払っているわけでもないですし緊急時などでなければ今のようにご迷惑にならない範囲でお願いをする感じですね」
「僕にわざわざ話すほどここってそんなに強い人いないんですか?」
「はぁ・・・黒狼の件もですが、衛兵の訓練の様子も噂になってるんですよ?誰も手も足も出なかったって」
げ、マジか。
「あ~あれはですね、相性が良かったというか、僕に有利な手合わせだったので」
「申し訳ないんですが何を言われてもこちらの評価は変わりませんので。もちろんこちらが何を言ってもギンジさんの自分は大したことは無い、という態度が変わらないことも承知しています」
「そうですか。で、結局この呼び出しは何だったんですかね?」
「先ほどもお伝えした通り街を出ていかれるならそれの確認と、いくつかお願いがありますのでそれをお伝えするためです」
「お願い・・・」
「はい。一つはこの街を実際に発たれる日が決まればこちらにご連絡を頂きたいです」
「それくらいならまぁ」
「ありがとうございます。それともう一つはお願いというか報告になるのですがギンジさんのこの役場での評価は他の街にも伝わっております。ご了承ください」
「え!?どういうことですか!?」
「そのままの意味です。もちろんこれはギンジさんだけではありません。目立つ人は他の街にも情報が共有されます」
えぇ・・・個人情報とかどうなってるのこの世界は。
「人相書が出回るわけじゃありませんのでそこら中で認識されるわけじゃありませんが街への出入りや役場で何かされる場合はやはりプレートをかざす機会もあると思いますので、その場合はこちらが公開している情報と紐づけられると思います」
「何か面倒ごとに巻き込まれたりしませんか?」
「場合によっては特別に依頼をされるかもしれません」
「気ままな旅とはいきませんかね?」
「基本的に依頼に関しましては報酬と内容に納得がいかなければ断っていただいても問題ありませんが、、、」
「ありませんが・・・?」
「ギンジさんに依頼が行くほどの問題が発生している場合、その被害などを聞いてギンジさんが断れるかどうかが・・・」
お人よしだと思われてますねこれは。まぁ当たってると自分でも思うが。
「確かにそれはありそうですね」
「役場からの依頼でしたらそこまで無理な条件のものは無いはずです。ですが役場が仲介をして依頼をしてくる場合は依頼主が無理を言っている場合もありますので特別な依頼が来た場合はしっかり内容を把握して判断してください」
「わかりました。ご忠告ありがとうございます」
「それでは先ほどお伝えした出立前のご連絡、よろしくお願いします」
お姉さんとの話が終わると役場を出る。面倒がなければいいなと思うしかないし何かあったらあったでその時考えるしかないな。全く知らない若造扱いと例のアイツか的な扱いのどっちがいいかは分からないが。
教会に戻ると街の清掃からみんな戻ってきていたのでジャックとメグに魔力共有をして水の魔法を教える。俺が街を出るまでに使えるようになるかは分からないが何かの役には立つだろう。多分。
二人の魔法のレッスンが終わった後、シルフが無言の圧力をかけてきたので裏庭で魔法の練習と剣の訓練を少しした。
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