父と息子 SIDEクラウン
「そうそう、君が母親に与えていたケイ草の根っこの毒は解毒しといたから気にしないで。どうせ悩んでいたんだろ、手段だとはいえ母親に毒を使うなんて。だからフローラが亡くなった原因は君ではないよ。」
「えっ・・・」
足の力が抜けた、思わず椅子の背に手を置く。もしかすると、あの草が母を狂わせて死なせまったんじゃないかと、ずっとそう思っていた。今でもあの頃の俺が夢にでてくる。仕方がないんだと言い訳して、ごめんなさいと謝って。
「フローラの死は公爵家が謀ったものだよ。
わかっていたんだろうね、このままにしておくと後々面倒になるって。だから薔薇の花を彼女に送ったんだ僕の名前で。薔薇の棘に、この国では取り扱っていない遅効性の毒を塗っていたんだよ、徐々に血の巡りが悪くなり記憶障害がでるものだ。
おそらく王都にいる時からだと思う、薔薇が送られていたのは。その毒の解毒剤はまだ作られてなくてね、それを知った時にはもう間に合わなかった・・・僕が薔薇なんて送るはずがないのに・・・
薔薇の花はね公爵家の家紋なんだよ、裏の意味まで気付かない人だとわかっていたのに、動くのが遅くなった、すまない。」
そうだ、母の部屋には薔薇のドライフラワーが吊るしてあった。ばーちゃんが枯れた時に捨てようとした時もすごい怒ってたな。
「君に手をかけなかったのは、将来駒になり得ると考えた。そして自分とクリスティーナ様の血を受け継いだ子を手元に置きたかった。」
気持ちが悪い。
「君を手に入れる為に、港町を持つグリード伯爵を子飼いにしてその娘と婚姻させようとしたけれど、君が思いの外抵抗しただろ。挙句に大事に思っている娘にも手を出した。
その先は知っての通りだな。伯爵は禁止されている奴隷売買、軍事使用可能な武器の密輸、脱税、叩けば埃だらけの悪人でね、港を持っているのをいい事にやりたい放題だよ。兄上に報告してきっちり対処してもらったよ。
彼らは私が王位につく事を、まだ諦めてなかったらしい。元公爵の影響力も、派閥そのものの力も随分と弱まっていたんだが、まぁ奴らはそれを大義名分として好き勝手やっていただけさ。
という訳で、僕ここの領主になったんだ。よろしくね息子くん。」
という訳で?待って、情報が多すぎて整理するのに時間が欲しい。
元第3王子が『我が息子』と言って詫びに来た
→ずっと俺たちを付け狙っていたのは王家ではなくコッタ公爵だった
→公爵はばーちゃんが好きだった
→母を死に至らしめたのは公爵家だった
→メグを襲ったのは公爵子飼いの伯爵で、その伯爵も捕まった
→伯爵領が公爵領となる(←今ここ)
細かい事もあるけどざっくりこんな感じか。
「こんな環境の中、よく腐らずに頑張ったなぁ・・・商会まで大きくして。今では他国とのやり取りもあるのだろう?」
「あぁ、言葉を覚えて文化を覚えて人脈を広げて行って。まだまだ販路を大きくするつもりだ。」
「そうか、君は商売の才能があったんだね!僕はね全然ダメ!実はね作家になりたかったんだ。歴史書や冒険譚、地域ごとの文化が書いている本や風土記も好きでね、それはもう読み漁ったよ。いつか僕も書いてみたいなって。」
あれ、ちょっと雰囲気変わった?
「僕はね、ずっと父上の子ではないと思っていたんだ。公爵が母にあてがった者の子ではないかと。でもね君を見て兄上達と血の繋がった兄弟だとわかって嬉しくてね。父方祖父の先々代の王は君とそっくりなカラスの羽のような美しい黒髪なんだよ。公爵家にも黒髪はいないし、私も兄上達も金髪だからね、判断のしようがなかったんだ。
だからね君にも王家の血はしっかり流れているんだ。何か特殊な能力も持ってるんじゃないかい?」
そうなんだ、ずっとこの人が話している時はいっさい顔がぼやけない。
「たくさん話したからまとまらないね。
ではあとひとつ。君の名前はシリウス。生まれた時に僕がつけた、陛下にも報告は済ませている。正式に僕の息子にならないかい?名前で苦労もしたんだろ、この新しい名前で生きて行ったらどうかい?」
「シリウスか・・・えらくカッコいい名前だな。本当に嫌いだったよクラウンなんて。
だから村を出てからはクロウと名を変えたんだ。でもな、北の腕の良い薬師が3本足のカラスは神の使いだって話してくれたんだ。おかげで商売は順調さ。
それにメグが俺の事クラっちって呼ぶんだよ。最初クラッチって何だよって思ったんだけどさ、今じゃすっかり定着してしまって。」
「そうか、新しい名前と場所が使いたくなったらいつでも言っておいで。待ってるよ。」
「ああ。」
なんだが普通の親子の会話だな。この人も人知れず苦労したんだろう。しっかり顔が見えたままなのは本心なんだろうな。本当に母を愛していたんだろうし、俺を気にかけてくれてるんだろう。
「あのな、母さんが亡くなる前の日に、俺は森に花を摘みにいった。薔薇なんて洒落たものはなかったからな、結構奥まで見つけに行ったんだ。日のささないひんやりとした場所にパンジーが咲いててな、それを小さな束にして持ち帰った。そして畑になってたトウモロコシのヒゲをむしって頭に被った、俺の黒髪が見えないようにして母さんに持っていったんだ。「ありがとう私の王子様」って幸せそうに笑ってそう言ったよ。」
母の最期が幸せだった事を伝えたくて、誰にも言えなかった話をした。
父は暫く動かなかったがフーッと一息つくと「そうか」と一言だけいって、俺の頭をポンポンと叩いた後部屋を後にした。
初めての対話は終わった。
色々ありすぎて整理しなきゃいけないんだけど、もう何かに怯えて生きる事はない安堵感と、穏やかな気持ちがあって悪くない疲労感だなって思った。立場上会う事もままならないけれど、たまには用事を見つけて会いに行ってもいいかなと思った。
「で、また何用ですかぁ⁈」
「あぁークロくん!メグちゃんとの話が面白くってね!!」
えぇ〜・・・
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