パンチでピンチです
結果、オープンから1ヶ月を過ぎても賑わいは衰えなかった。
港に着いた商人や旅行客はもちろん、街へ買い物にきた人や、そこで働く人たちも足を運んだ。屋台の持ち帰りも好評で、独り身の人やゆっくり食事を摂る事ができない人、家庭の主婦にも人気になった。
こりゃあ、屋台の数増やした方がいいよね。
おじいちゃんおばあちゃんも村に戻り、街全体に笑顔が増えてきた頃、他所から来たらしい破落戸が騒ぎをおこしていると連絡を受けた。
さすがにレストランの方は元漁民が働き、現役コワモテ達が客として来ているからかちょっかいはだされなかったが、個人でやっている屋台は嫌がらせの標的にされたらしい。
急遽、漁民達で自警団を作って見回っていたが本職は漁師。海に出ている隙をついて嫌がらせは続いた。自ずと客足も遠ざかる。いよいよ本格的に対処しようと動いていた矢先、思わぬ呼び出しを受けた。
港湾管理局。
こちらは国が定めたものではないが、領主主体で港の管理をしている組織らしい。活動しているのを聞いた事もないけど。
「グリード伯爵より通達だ。この度の街おこしにおいて得た利益についての税率の変更と、使用したレシピ、運営方法、『まつり』についての権利等はグリード伯爵家に帰属する、というものである。全てを文書化し、こちらからの申し出にサインしろ。」
はぁ⁈なーに言ってんだぁ、ホントとんだ悪党だね。空いた口がふさがらない。誰がハイハイと差し出すものか。
「突然そう言われても困りますよ。この問題は私の一存でサインする事はできません。事業に関わった関係者、漁民、然るべき機関もしくは識者の方へ相談させていただいた後、改めてご返答します。」
長居しても恫喝されて脅されて、もしかすると拘束されると思ったから、一気に捲し立てさっさと退散した。後ろにいたゴルさんが今にも斬りかかりそうになっていたのもあったけどね。これはすぐに相談だ。
「グリード伯爵か、あの人お金と権力が大好きな胡散臭い人さ。漁港おこしが成功して、お金回りも評判も良くなってきたら、名誉も金も搾り取ろうとしてるんだろうな。
最近は俺にもちょっかい出して来やがってうんざりだよ。あの家の娘からは付き纏われ、寄子の男爵家の娘にはクスリを盛られ。夫人に関してはあからさまに相手をしろと言い寄ってくる。
こちらを平民だと侮ってどうにでもできると思っているらしい。お前も気をつけろ。伯爵の対応はこっちで世話になってる人に相談する。暫くは大人しくしていろ、ゴル意外でも護衛を増やすか。」
と、言われたから大人しくそうする事にした。
問題を解決しようと下手に動いて迷惑かけるのも嫌だったし、そもそも私如きに専門的な知識もないし、何よりこの世界の仕組みすら理解して無いからね。
その翌日からは、主にレストランの裏方や会計のお手伝いをする事にした。
うん、こんな地味だと言われる仕事も結構楽しい。接客だって日本式の丁寧な対応をしていれば、お客さんもにこやかになっていく。
気軽に声をかけてくれたり、お礼を言われるのも嬉しい。それを見た従業員も士気が上がって、ますます評判があがっていった。
「いつもニコニコ楽しそうだねー。今日もすり身の天ぷら定食いただこうかねー。」
流れ?の錬金術師のニコラスさん、御年50歳独身。たまたま港町に着いた際にすり身を食べて虜になったんだって。暫くここに居着くらしい。
「いらっしゃいませこんにちは!天ぷら定食ですね、かしこまりました。ニコラスさん、そのブローチとっても似合ってます。」
この方は博識なうえにとてもオシャレさんだ。今日は、胸元にフクロウのブローチを着けている。
「ありがとう、これ自信作なんだよ。新しく作ったらコマちゃんにもあげるね。」
「嬉しい!じゃあ、すり身おまけしちゃいますね。」
お客さんとこんな会話ができるのも接客の醍醐味だね!
「コマチさん〜クロウ商会からお届けものがありますんで確認お願いしますー。」
と声をかけられて勝手口へ向かった。大きな木箱がひとつ。
うん?と思った瞬間、口を塞がれ体を拘束されそのまま木箱へ。
やられた!
ゴルさん、今日は休暇中なのに気を抜いてた!いったいどこへ連れてかれるの⁈
荷馬車がゴトゴトと一定のリズムで進んでく、さほど離れてはない場所で停まったようだった。
「捕らえましたぜ、黒髪ののっぺり顔の娘でさぁ。」
はぁ⁈ひどい言いようじゃないか!
「ああ、そうだ。いけすかない感じのな。」
ああん⁈誰よあんた!顔がわからない分イライラも募る。
「じゃあコレはどうします?オークションですか、それともこのまま積みますか?」
コンコンと木箱を叩く。
「例の『まつり』で顔が知られるからな、そのまま船に積め。」
「あいよ、じゃあ伯爵、報酬は屋台の分も一緒にウチのもんに持たせてくだせぇ。」
・・・・・コイツらか。許せない。
多分、脱出はできると思うんだけど、伯爵を罪に問える程の証拠がないんだよ。このまま帰ってもまた同じ事の繰り返し。どうしよう・・・
デカ蜂針は殺傷能力が高すぎて怖いし、扇子風を吹かすのもリスクがあるよね。もうこうなりゃヤケクソ!
ドンドンドン、ドンドンドン
「開けろー開けろーこの人達人攫いですー!ギャー殺されるぅー!!」
人生で初めてってくらいの声で叫んだ。
「オイッ!!うるせーぞ、静かにしろ!」
「早くどうにかしなさい!人がくるぞ。」
箱の蓋が開けられる。
目標はただ一つ、破落戸ではない、チョビ髭パンチのこの男だ。肌の露出している手を狙って齧り付く!頑張れー私の顎!喰い千切らんばかりに噛みついた。
「イデーーーッッッ!!イタタタッ!離せ!このクソがっ!!離せ!!!」
ガッガッガッと空いた方の手で私の頭を殴る。
頭殴られるの嫌だな、すっごく痛いし、何より自尊心が傷付けられるようで精神をゴリゴリ削られる。でも、それでも絶対離さない。
破落戸がわき腹を蹴り上げた。息ができないっ。
「うっっ・・・」
「ハァーハァーハァー、コイツは船に乗せない。今すぐ始末して海に棄てろ!」
伯爵は血が流れる手を押さえて破落戸に指示した。
「黙って大人しくしときゃあ数年は生きていられたのになあー」
そう言って私の髪の毛を掴み、ナイフを手に取った。
「メグ」呼びは主におじいちゃん、おばあちゃん、クラっちで、その他の人達は「コマチさん」や「コマちゃん」と呼んでいます。
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