道化師 SIDEクラウン
1年が過ぎた頃、村に破落戸がうろつきはじめた。暴れたり物を奪ったりする事はなかったが、村人ひとりひとりを値踏みするように見てくる。
その時から俺は、髪を伸ばし猫背で歩いた。
手伝いもせず勉強もしない、ふざけたことばかりをするような子になった。
村の子供達も「アホのクラウン」「怠け者のクラウン」と揶揄うようになったが、ヘラヘラとするだけだった。
祖父母ははじめとまどっていたが、怒る事はなかった。ただ悲しそうな顔をしていた。それが辛かった。
13の春、以前から村に行商に来ていた男に、村から連れ出してくれるよう話しをつけていた。
「おれ、王都に行くわ!」と言って、別れの言葉も言わずさっさと家を出た。
夢みがちな女と同じように。
その時の2人の顔は、見れなかった。
時折り一方通行の便りを出したが、孫がどこで何をしているのかわからない祖父母は、さぞ心配した事だろう。
俺が向かったのは王都ではなく港町だ。
いつでも逃げられるように、多くのルートを持つ場所を選んだ。
意外な事に追っ手はなく、この街で商売で名をあげた。
名は「クロウ」そのまま商会の名前にもした。
濡羽色のその髪から付けたのだと言って、名と顔を覚えてもらった。ただし眼鏡をかけ髪を下ろす最低限の変装はした。
商売は順調で、店舗の他にも商隊を作り販路を広げた。
そのうちのひとつのルートにあの村を入れる。
隊員にはあの村には昔世話になった人達がいるから売値は安く、買値は高くしてやってくれと指示する。利益は出さなくていいと。定期的に向かわせ村や祖父母の様子を報告させていた。
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物心ついた頃には、自分に『人の嘘がわかる能力』がある事に気が付いた。
この国では、国民の2割程が魔法、もしくは何らかの加護を持つと言われている。
特に王族・高位の貴族に多く現れるらしく、その能力を持つ者は各々の家門の長となったり、主要機関の要職につく等多くの恩恵を受けていた。
俺は、幼い頃から人の顔が急にボヤけて見えてしまうという不思議な現象に見舞われていた。
最初は気にしていなかったが、だらしのない男が母に話しかけているときの顔や、母が高価な物を勧められている時の店主の顔、成金の男が俺に菓子を渡して家へ招こうとする時の顔が、みなボヤけてくるんだ。
注意深く観察していくと相手が嘘をついている時に顔がボヤけるのだと気付いた。
それからは騙されないように、足元を掬われないように時には笑って誤魔化し、時には逃げてどうにか2人で生き延びてきた。
田舎に帰り、祖父母と暮らすようになった時に、ようやく安心して人並みの生活を送れると安堵した。
祖父母はとても誠実な人達だったけれど、一度だけ母が亡くなった時に
「お前の母は、最後までお前の事を気に掛けていたよ」
と言った時は、彼らの顔がブレて見えなくなった。
決して涙でボヤけたのではない。
嘘だ。とても優しい嘘だった。
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