夢みがちな娘 SIDEクラウン
祖父母は元貴族だった。
祖母のティナの本当の名は、クリスティーナ。
王国の南東に領地を構える子爵家の長女だった。
祖父のアレクの本当の名は、アレックス。
領地を持たない、代々騎士を輩出する男爵家の三男だった。
裕福な家の娘であった祖母には、誘拐や婚姻目的での醜聞の危険性が高かった為に、幼馴染であった祖父を護衛騎士に迎え、ゆくゆくは婚姻する予定であった。
しかし、子爵家が財政難見舞われ没落し、富豪の商家へ第3夫人として嫁ぐことになった。嫁ぎ先では唯一の貴族だった事からたいそう虐めにあい、夫からは監禁されていたようだった。
耐えかねた祖母は、一瞬の隙をついて逃げ出した。逃走した先で偶然祖父に再会をし、そのまま駆け落ちをし、隠れるように辺境へと逃げ、住み着いた。
派手な事を好まず、地道に生活していくうちに1人娘を授かった。
娘は、夢みがちな少女だったらしい。
いつかは王都で愛する人と暮らすんだと言って、年頃になるとあっさりと村を捨てた。
便りも途絶えた頃、痩せた男児と共に帰ってきた。
黒髪に青い目の子供の名前はクラウン。さぞ驚いたことだろう。祖父は何故か悲しそうな目で、黙って俺の頭を撫でた。
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王都の家にいる頃から、母は毎日「あの方は、私を迎えに来てくれる、きっと今はお忙しいのよ。」だの「誰よりも私を愛してくれてるの。」だのと、聞きたくもない事を朝から晩まで話すのかとても嫌だった。
ある時、花を花瓶に挿しながら「お前は、あの方にそっくりね。」とにっこり笑う母にゾッとした。
ちょうど同じ頃、王都が騒がしくなった。
王宮で毒を用いた事件があったと噂が流れた。
現在の王宮には王子が3人。王太子はまだ決まってないという。
それぞれの母親が異なっている為に、陛下は決めかねていたらしい。
第一王子は頭は切れるが情に薄い。
第二王子は力はあるが知力が足りない。
第三王子は愛嬌はあるが常識がない。
順当に第一王子が立太子するものだと思われていたが、祖父を辺境伯に持つ第二王子派と、祖父を公爵に持つ第三王子派が待ったをかけたのだ。
第一王子の後ろ盾となる母方の実家が子爵家だった為である。
子爵家といっても、代々高名な学者を多く輩出する名家であり、陞爵して拡大した領地を管理するより、研究に時間を費やしたいと当主自ら辞退し続けていただけで、これまでの功績を清算すれば侯爵位に相当するという。
現在も新薬の開発に力を注いでいるらしい。
面白おかしく大衆新聞が煽る。号外の新聞に描かれていた王子達の姿を見て、俺の頭の中はガンガンと警鐘が鳴った。
王都にいちゃいけない。
俺は歳の割に頭の回る方だった。だから幼いながら、自分の見た目と、能力を隠さなければならないと思った。
それから俺は、毎日少量の毒を母の食事に混ぜ入れた。お酒を飲むようになった母に、毒の苦味はわからない。ケイ草というどこにでも生えている草だが、その根っこには毒があり、生のまま口に入れると僅かな痺れがでる。
「お母さんには、王都の水が合わないんだよ。」「ひどくなる前に少し田舎で休んで、また戻ってこようよ。」
毎日毎日言い続けた。
とうとう根負けした母は、その年の春に辺境の村へ戻った。
母の体調はいつの間にか元に戻っていたが、次は妄想の世界の住人となった。
俺を見て「またお花を下さいませ。」と話しかけ、いつかはあの方が迎えに来てくれると言い続けた。
そのうちにベットから起きあがられないほど衰弱し、そのまま儚くなってしまった。
最後まで息子の事など気に掛ける事もなかったからか、涙ひとつ流れなかった。
祖父母との生活は、贅沢はできなかったけれど、穏やかに過ぎ毎日がとても幸せだった。
清潔な寝具、温かい食事、狩りの仕方、畑の耕し方、文字の練習に計算のやり方を教えてくれた。
ようやく普通の子供になった。
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