2話 〈夢渡り〉
こんにちこんばんは。
VRゲームものって旬は過ぎてるよねーと思いながら投稿する仁科紫です。
じゃあ、何故ファンタジー書かないのか。書かないんじゃない。書けないんだよ……(´;ω;`)
それでは、良き暇つぶしを。
ゲーム中に寝るとログアウトという言葉が脳内で10回ほどリフレインし、ネムはようやく現実を受けいれた。
なるほど。それは固まって処理落ちくらいするだろうな、と。現実を受け入れた。
しかし、ここで諦めるのであれば初めからゲーム内で寝ようなどと考えるわけもない。どうにかならないかとネムは状況の打破を試みることにした。
「でも、寝る方法くらいあるよね?現実世界の2倍時間が多く流れるくらいなんだし、うたた寝とかなら……!」
「……あーそう、ですね。うたた寝……うたた寝ならまあ、恐らくログアウトする事は無いかと……あっ。」
やっべと言わんばかりに口を押えたアイに嫌な予感が募る。声はかけたくなかったが、致し方ないとネムは尋ねることにした。
「……どうしたの?」
「いえ……うたた寝でもシグナルが睡眠に移行すると同時にログアウトしてしまうというのを思い出しまして。……申し訳ないです。」
静まり返る空間にネムは遠い目をした。
打破失敗。どうして寝るためにこれだけの時間がかかっているのか。誠に遺憾である、と。
いや、もちろんゲームで寝ようと考える方が運営からすると想定外でしかなかったわけだが、ネムにとっては一大事である。ゲームの目的が達成不可能と突きつけられているも同然なのだから。
(母さん達に心配されちゃうし……うん。買って貰ったのに遊ばないのは申し訳ない……。)
ネムが連想するのは幼い頃に買って貰った絵本や遊具達だ。ネムの為にと買われたそれらは結局、ネムが遊ぶことなく弟達の遊び道具となってしまった。大きくなってから知ったときは、なんとも申し訳ないことをしたものだと思いつつ寝るはめになった。あれは流石に寝心地が悪かった。それでも意識はあっという間に夢の国へと旅立ったあたり、ネムらしいのだが。
大学生にもなってまた同じことをするのは心苦しいものがある。故にネムは足掻いた。
「えっと……じゃあ、さ。なんか、寝てもログアウトしないような方法、ない?種族でも技でもなんでもいいから……。」
もはや状態異常に睡眠でもあれば進んでなりにいきそうなネムにアイは危機感を抱いた。
このプレイヤー、頻繁にログインとログアウトを繰り返してしまうのでは、と。
当然、ログインとログアウトを短時間で繰り返し行うとなると、バグの原因となりかねない。
そして、何かないかと考えた末、提案したのがこれだった。
「あの、夢魔は如何でしょうか……?」
「むま?」
「夢を司る魔族の事です。夢魔にとって夢の中に入ることは眠ることと同じことですし……どうですか?」
ネムは少し考えてみる。
夢魔について詳しく聞いてみると、夢魔であれば眠ると同時に夢の中へと入るため、寝ている間にログアウトしているようなことは起きないらしい。夢の中でも寝ていると流石にログアウトするようだが。
ネムは考える。それによって睡眠時間を得られるとは思えない。しかし、夢を見ている状態とはいえ寝るのは寝るのである。ネムが求めていたものには近いのだろう。ネムは試しにその提案を受け入れることにした。
「じゃあ、それでいい。」
「では、種族は夢魔ですね。
次に姿を決めてもらいます。何か希望はありますか?」
「なんでも……」
いい。そう言いかけてネムはハッとする。もしかして、このまま進むとミント色の髪にミント色の目、ミント色の爪になるなんてことにはならないだろうか。ミント色はワンポイントだからこそ輝くのである。全身ミントはネムからしても流石に避けたい。面倒だと相手に放り投げていい結果が返ってきた試しなどそうそうないのだ。
慌ててこれだけは譲れないと綺麗な人に話しかけた。
「えっと、髪は黒。それ以外ダメ。」
「黒髪ですね。夢魔の姿はこのようになりますが、よろしいですか?」
そう言った瞬間に現れたのは手のひらサイズに収まる人型の生物だった。小さな蝙蝠の羽と先に尖ったハートの飾りがついた細長い尾。耳は魚のヒレのようであり、全身がフサフサとした黒い毛に覆われている。口には鋭い歯が生え、目は丸く大きい。手と足には鋭い爪が生えていた。
動物で例えるならメガネザルが一番近いかもしれない。正に人外。人とは言い難い姿をネムはふーんと言って眺める。
「空飛べるの?」
「ええ。慣れが必要ですが、飛べますよ。いくつか変更も出来ますが如何しますか?
色、毛の長さ、模様……太さなどは変えられますよ。ただし、あまりにも大きな変化は出来ませんが。」
ネムはぼんやりとその夢魔だという生物を眺める。やがてネムが変えたのは2箇所だけだった。
「目はミント。爪、キラキラがいい。色はミント?他は好きにしていいよ。」
「かしこまりました。それでは、少々微調整させて頂きます。」
シャランッという効果音と眩しくない程度のエフェクトが起き、表示されている姿が変わる。クリッとした目は眠たそうにたれ、瞳はキラキラと輝くミント色に変化。体は少し小さく、先程よりも幼い印象を受けた。
しかし、爪はミント色になっただけでキラキラはしていない。ネムはそこだけが不満だった。
「爪、もっとキラキラはない?」
「ございますよ。該当するのはこちらになります。」
メニュー表の如く見せられたディスプレイには、水晶のようなものからネイルをした爪のような薄いものまで実に様々な爪が表示されていた。
その中でもネムが目を離せなかったのは滑らかな曲線と艶やかな輝きを放つ、トルコ石を円錐状に尖らせたような爪だった。透明感はないが、完全にミント色一色というわけでもなく、まるで中に星空が収まったかのようにキラキラと輝いている。きっと角度を変えればもっと美しく煌めくだろうそれは、星空の鉱石を削って整形したかのようだった。
「これ。これがいい。」
「かしこまりました。それでは、このようになります。」
また音と光と共に姿が変わる。想像通りの爪が生えたその姿はネムにとってとても満足のいくものだった。
「うん。いいね。
……爪って長くできる?」
こてりと再び首を傾げるネムにアイは少し間を置いてから答えた。
「それに関しては、はいともいいえとも言えません。あなたの成長の仕方次第でしょう。」
「成長の仕方……?……って、何?」
よく分からないという顔でネムが尋ねるが、サポート係は微笑むだけで何も言わない。
じっと見つめてもただにこやかな笑みを維持するアイに、これは答えて貰えなさそうだとネムは諦め、別のことを聞くことにした。
「他はこれでいいよ。終わりかな?」
「そうですね。キャラメイクはこれで終了となりますが、チュートリアルが残っています。」
「チュートリアル……?」
「動作の確認と簡単なゲーム内の説明です。
チュートリアルを行いますか?」
その言葉とほぼ同時にネムの目の前にウィンドウが表示された。
《チュートリアルを行いますか?》
はい いいえ
どうやらこの二つの選択肢のうち、どちらかを押すと先に進むようだ。逆に言えば押すまで進まないやつとも言う。
ネムはそう判断し、すぐさま〖はい〗を押した。流石にいくら早く寝たいとはいえ、ここでチュートリアルを受けないという選択肢はネムにはなかった。
(急がば回れってやつだよねぇ。流石に何も知らない状態で放り出されても困っちゃうし。)
うんうんと脳内でネムが頷いていると、気づけば周りの景色が変わっていた。
言ってしまえば森、なのだろうが山ではない。木が沢山ある場所をネムは山以外には知らず、平坦な足場に少し戸惑う。
『それでは、早速チュートリアルを開始します。まずは体を動かしてみましょう。右手を上げてください。』
どこからが聞こえるアイの声に反射で右手を上げる。
そこで自分の体が黒い毛で覆われていることに気づいた。あれっと首を傾げて森をよく見てみると、木の枝がかなり遠い。てっきり木が大きいからだと思っていたが、正しくは目線がかなり低くなっているようだ。
先程作ったキャラクターに体が変化したということだろう。ネムはひとり納得し、次の指示を待った。
それから何度か動作の確認を終え、メニューの見方や飛び方、スキルの使い方を学んだ。
もっとも、メニューは右目を3秒閉じた時に見えるように設定し、飛び方は背中の羽を動かすのではなく、念じるだけだったが。
一番驚いたのはスキルの使い方について説明を受けている時のことだった。
「〈夢渡り〉」
ネムが唱えると自然と瞼が落ちた。次に目を開くとそこには夜の世界が広がっていた。
「急に夜になった……?」
暗闇に包まれる森の中を淡く赤い大きな月が照らし出す。てっきり光も赤いのかと思えばそうでもない。そこには静謐な世界が広がっていた。
(静か……。)
これならゆっくり眠れそうだとその場でごろんと寝転がる。フサフサと生えた雑草は少しばかりチクチクとしてこそばゆいが、それでもいい寝心地の場所だ。
ネムはそのままいつものようにうつらうつらと船を漕ぎ出す。……が、その前に肩を揺すられた。
「……なに。」
寝ぼけ眼を擦って目を開けると、そこには綺麗な人の顔のアップがあった。
綺麗な人……サポート係のアイは申し訳なさそうに口を開いた。
「あの……ここで寝むるとログアウトしてしまいますよ。」
「む……。こんなに気持ちいい場所で寝ないなんて有り得ない。」
「そこをなんとか堪えてください。ね?」
顔の前で手を合わせられると流石のネムも致し方ないと渋々浮き上がる。アイは何処かホッとした顔をしており、やっぱり夢の世界で寝るのはダメなんだろうなとぼんやり思った。
そこで何やら深刻そうな顔でネムを見ていたアイが手の平を差し出してきた。何事だろうとの差し出された先を見ると、そこには白い兎にトンボの羽が生えたような生物がいた。
「眠兎さんがゲーム内で寝ないようにこの子をつけさせて頂きます。」
「ミィッ!」
「えっと、その子は……?」
「羽うさぎという魔種の妖精の一種です。この世界には仲間となって一緒に旅をしてくれる子がいるんですよ。
この子もそうですが、流石に眠兎さんがあちこちでログアウトするとエラーの元となりますから。この子に見張ってもらうこととします。」
「ミッ!」
えへんと偉そうに胸を張る羽うさぎを見て少し考える。確かにネムだけとなるとその可能性は否定できない。ならば、この羽うさぎという子を連れて歩く方がいいだろう。
何より……
「可愛い……。あの、モフモフしていい?」
「ミッ!?」
あまりもの可愛さに羽うさぎに手を伸ばす。羽うさぎは嫌そうに後ろに飛び跳ね、ネムを警戒するように構えた。
(ダメだった……。)
ネムがしゅんっと肩を落としているとアイが苦笑した。
「羽うさぎ次第ですね。絆レベルが一定よりも高くなれば撫でさせてくれるかもしれません。」
「ほんと!?」
目を輝かせてじーっと羽うさぎを眺めていると、羽うさぎは後ずさりをしてそっぽを向いた。
これはしばらくかかりそうだと思うが、それもまた楽しそうだと先を思い描いてニヤける。……更に羽うさぎが後ずさったが、ネムは気づかなかった。
「この世界では仲間を増やすのも醍醐味となっていますからね。色んな子にどんどん話しかけてみてください。頭上のカーソルの色が緑色になると仲間になった証ですからね。
あと、プレイヤーとの見分け方はこのカーソルの色なので忘れないでください。青はプレイヤー。黄色はNPC。赤は敵ですよ。敵が近くにいる場合はログアウトできません。いいですね?」
「うん。」
なるほど。こんなに可愛い子たちがこの世界には沢山いるようだ。それは楽しみだとネムは頬を弛めた。この世界で過ごす目的がまた一つできた気がする。
それにしても、と背中でパタパタと動く羽を見る。
(こんなので飛べるんだねぇ。)
羽を動かさなくても飛べるあたり、空を飛ぶというよりも浮かんでいる気がしないでもない。ネムは自身の羽を見つめて数秒ほど考えた後、一つの結論に至った。
(よし。飛ぶ時は羽を動かそう。その方が可愛い。)
自分の持論に満足そうに頷いたネムはその後、チュートリアルを終了し、ゲームの世界へと旅立ったのだった。
「それにしても……ゲームの中でも寝たいプレイヤーが居るとは。このゲーム、何処でも敵陣のプレイヤーから攻撃されるんですけど大丈夫でしょうか?」
だから、サポート係の呟きも聞こえるはずがなかったのである。
まさかこれが安眠を手に入れるまでの険しい道のりの始まりになろうとは。ネムは勿論、ネムを担当していたサポート係ですら想像していなかったのだった。
次回、ゲームを間違えたかも……?
ネムの表記は三人称で書こうとした作者が呼び名を考えるのが面倒になった結果、これならダブルミーニング♪と、安易に考慮した結果だったり。
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお過ごしください。




