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1話 寝たい

こんにちこんばんは。


新作始動です!……が、作者都合により毎日投稿を1週間実施後は週1更新にする予定です。

尚、見切り発車ではありますが、今まで同様完結はさせますのでよろしくお願いします。

感想、DMで急かされれば急かされるほど頑張る子なので下さると嬉しかったり……。


それでは、良き暇つぶしを。

「ふぁ〜ぁ。……眠い。」


 眠気から目を擦り、節中音夢(ふしなかねむ)はだらだらと歩く。今日も今日とて大学に出勤だ。

 別に大学で働いているというわけではなく、ネムはただ学びに行っているだけの学生である。故に、正しくは通学と言うべきなのだが、ネムは通勤と呼ぶのが正しいと考えている。

(だって眠いし……。)

 ネムは一日におかしいくらい眠る。なんなら一日中だって寝ようと思えば寝れる。いくら寝ても寝足りないくらいだ。一度病気かもしれないと検査してもらった事もあるのだが、全くの健康体。ただの体質だろうということでどうにもならなかった。

 正直、大学に通うのもつらいのだが、こればかりは致し方ない事情があった。

 もしネムが就職しようと考えた場合、どうしても時間に融通のきく仕事が好ましくなる。しかし、高卒では仕事の選択肢が狭まり、何より両親がいい顔をしなかった。他にも色々と理由はあったが、こうして大学に行くことが決まったのだった。

 それならば通信制の大学にしたらいいと思うかもしれないが、ネムの両親が許さなかった。理由は単純。

『ただでさえ外に出ないのにこれ以上外に出ないのは体に悪い。』

 ネムを思っての言葉に流石の睡眠大好きネムも渋々大学に徒歩で通うことにしたのである。ネムは両親に心配されてまで眠りにつきたいとは思わないのだから。

(親孝行……って、やつだよねぇ。)

 ぼんやりとして見える垂れた半目を通学路に向け、とぼとぼと歩いていたその時。


『今夏よりサービス開始!「Another Clock World」!

 今までになかった時間の圧縮による体感時間加速化機能!これによりVRゲームは更なる進歩を遂げた!なんと!ゲーム内の時間進行速度は現実の2倍!つまり、ゲーム内で1時間遊んでも現実では30分しか……』

「……え。何それ。寝放題……?」


 まさかの単語に惹き付けられ、家電量販店前のディスプレイに足を止める。

 画面にはゲーム内の様々な光景が映し出されているが、そんなものはネムの瞳には映っていない。ただ目に入るのは倍速で進む世界であるというその事実のみ。内容は頭に入っておらず、ただぼんやりとその広告を眺めながら思考をめぐらせる。


(このゲームを買えば寝放題ってことだよね。今夏ということは、7月か8月くらいかな。

 今が4月だから……あと3ヶ月?まだ先だけど、準備はいるよね。)


 ネムはその宣伝が終わると同時に踵を返し、家へと……向かいたかったが、今日は出席をとる授業がある。思い出した事実に溜息をつきながらとぼとぼとまた通学路を歩き始めたのだった。


(アナザークロ……なんだっけ。忘れたけど、後で事前予約ができるか見てみようかな……。……貯金使ってもいいけど……バイト、しようかな。眠いけど。)


 最悪、両親にお金を借りようと考えながらどうにかして購入の算段をつけようとネムは考える。

 故にネムは知らなかったのだ。そのゲームが到底のんびりとは程遠い殺伐としたものであるということを。


 ・

 ・

 ・


 数ヶ月経ち、サービス開始日がやって来た。休日の正午からという事もあり、全国各地で今か今かと待っているプレイヤーも居るとニュースで放送されるほどだ。

 それだけAnother Clock Onlineというゲームが今注目の的なのだという事実は、あれから少し調べるだけでも嫌という程知ることとなった。事前予約はある時期から抽選になるほどだったが、発売予定の発表とほぼ同時に予約していただけにネムは無事にソフトを手に入れていた。

 そんな待ちに待ったゲームにもうあと数分でログイン出来るという状況でネムが何をしているのかというと、ベッドの上で毛布を被ってごろごろと転がっていた。

 尚、ゲームのソフトとハードは、結局両親からプレゼントされることとなった。ネムが自分から興味を持ったことがよっぽど嬉しかったらしい。そんな両親を見て思うところがないわけではなかったが、気にしないことにした。この眠気はどうにもならないし、今更だというのもあった。

(うーん。眠い……。早く始まらないかな……。)

 ベッドで寝転がっているせいか、普段の生活習慣のせいか。だんだん落ちてくる瞼にネムは視界の端にある時計へと目を向ける。

 そして、ゲームのログイン受付が開始した頃、ネムは結局睡魔に勝てず、夢の国へと誘われてしまうのだった。

(おやすみなさ……。)


 時が経ち、ネムが目覚めたのは夕方の4時頃だった。よく寝たなと寝ぼけ眼を擦りながらリビングに向かう。2階の自室から降りてきたネムを不思議そうに見たネムの母にネムは首を傾げた。


「どうしたの……?」

「あら。音夢。もしかして、今まで寝ていたの?あれだけ楽しみにしていたでしょう?」


 母の少し呆れた声にゲームのことを思い出したネムは、寝ている間に邪魔だからと外したのだろうヘッドフォン型のゲーム機の存在を思い出す。

 今からならまだ夕食の時間まで2時間ほどあるのだから、間に合うはずだ。


「あっ……ご飯までには戻ってくる。」

「分かっているならいいわ。音夢のお話、楽しみにしてるわね。」

「うん……。」


 少しばかり気恥ずかしくなりながらもネムは自室へと戻り、今度こそゲームにログインするのだった。



 目を閉じ、生体認証を済ませた後、暗闇から薄らと眩い光を感じて目を開く。

 真っ白なその空間にはちょっとした広場と7つの壊れかけの白い柱が存在していた。

 ネムは柱と柱の間に立っており、これからどうなるのかとぼんやりとその空間を眺めた。

 やがて何も無い空間から青い粒子が集まって人の姿を形取る。それは女性とも男性ともつかない柔和な笑みが素敵な美しい人だった。


「ようこそ。Another Clock Onlineへ。

 私はサポートAIのアイです。

 ここは白の間。キャラメイクを行う場所となっております。名前は決まっていますか?」


 透き通った声に何も考えていなかったネムはどうしたものかと口を閉ざす。

 別に人見知りというわけではないのだが、流石にここまで顔のいい人に会ったことがない。戸惑いと焦りから気が動転し、一周まわって綺麗なアイの顔を眺めることにした。

 ネムは睡眠も好きだが、綺麗なものや可愛いものに目がないのだ。ぼんやりと眺めている瞬間は確かに眠りとはまた違う癒しをネムに与えてくれる。

 そんなネムの様子に困惑したのは目の前の綺麗な人だった。黙って見られていても業務が進まないとアイは眉を下げてネムに話しかけた。


「えっと、大丈夫ですか?」

「あっ……うん。見惚れてた。名前、思いつかないんだけど、何かある?」


 こてりと傾げるネムにアイは戸惑った様子ではあったが、笑みを浮かべた。


「え、ええ。勿論ですよ。その為の私たちですから。もし何か入れたいキーワードがあれば仰ってください。何もなければこちらのイメージで考えさせて頂きます。」

「分かった。」


 首肯し、何かないかと考える。流石に全てを任せるのは怖いし申し訳なかった。


「じゃあ……睡眠とか、眠たいとか、眠るとか、永眠とか……。」

「全部眠るの言い換えでは……?」

「うん。知ってる。」

「そ、そう、ですね……。良ければイメージカラーや好きな食べ物も教えて頂けますか?」


 流石に眠るという言葉だけではダメだったらしい。ひきつる笑顔を見て仕方がないとネムは別のものを考えることにした。

 イメージカラーと言われてもそう簡単には思いつかない。ふとネムが思い浮かんだ色は灰色だったが、それも少し違う気がする。

 次に好きな食べ物を思い浮かべてみると、思いつくものがあった。目覚まし代わりにほぼ毎日食べているそれならば丁度いいだろうと口に出す。


「ミント。」

「ミント、ですね。ミントと眠る……既にある組み合わせを避けると……こんな名前は如何ですか?」


 しゃらんと音がなり、表示されたのは寝夢ミントという文字だった。


「ねむ、みんと?」

「はい。如何ですか?」

「うーん……。」


 ねむみんと。繰り返して呟き、ネムは首を傾げる。

 気になったのは下の方の名前だった。本名の音がそのまま苗字になっているのはなんだか妙な感じがしたが呼ばれても反応できるため、まだ納得出来る。しかし、ミントという名前はなんだか自分に合っていない気がした。


「ミントって漢字にできる?」

「ええ。できますよ。こちらでいかがでしょう。」


 頷いたアイは手をかざし、ミントの文字に触れた。そして、眠兎へと変化する文字。

 ネムの希望に沿うとこうなるらしい。


「寝夢眠兎……兎なの?」

「お嫌いでしたか?」

「うーうん。好き。それでいいよ。」

「では、こちらの名前で登録させて頂きますす。」


 綺麗な人が言うと同時に表示されている名前が輝いた。どうやら、確定すると光る仕様のようである。

 その様子にネムは機嫌よく頬を弛め、目の前で輝く名前を見つめた。言うなれば夢の中でも眠る兎。それはネムにとってピッタリの名前のように思えた。


「では、次に種族を決めて頂きます。」

「種族?」


 当然のごとく首を傾げるネムは勿論、このゲームがどのようなゲームなのかさえ知らない。ただ睡眠時間を得るためだけにここに居るのだから当然とも言えるが。

 ネムがゲームのことをあまり知らないことを悟ったのかそれ以降、アイは殊更親切に説明してくれるようになった。


「種族は大きく分けて人種と魔種が存在します。何か希望はありますか?」

「希望……寝たい。」

「えっと、そうですね。もう少しお付き合い頂けますか?」


 困った様子のアイにそういう意味じゃないんだけどなと見つめ返す。ネムのぼんやりとした視線をどう受けとったのか、アイは簡潔に説明し始めた。

 曰く、人種とは人間と姿の変わらない種族のことであり、人間、森人、山人、鬼人、獣人があるとの事だ。

 そして、魔種とは人種と敵対関係にある種族のことであり、所謂悪役やモンスターが当てはまる。

 魔族や動物、虫、スライムなんかがあり、ある一つのデメリットを除けばかなり色々と自由にできるらしい。ただ、一部の種族は初期からは選べず、ゲーム内で進化することでなれる事もあるとのことだ。これは寝たいだけのネムには関係ないからいいとして、気になる言葉があった。


「デメリット?」

「はい。魔種は人種の拠点を使えません。入ることは出来ますが、言葉が違うのでお気をつけください。

 また、魔種の拠点は数える程しかありません。魔族が少ないですからね……。」

「つまり、ゲームの中で休憩できないかも?」

「そうなりますね。」


 何がどう大変なのかはゲーム経験のないネムには分からなかった。しかし、どことなく歯切れの悪い言い方に嫌な予感がする。

(……まあ、いっか。)

 それよりも自分の目的を果たすべく次の問いかけをする事にした。


「分かった。……ゲーム中、沢山寝れる種族ある?」

「……はい?えっと、今なんと?」

「沢山寝れる種族。」

「えーっと……」


 カチコチと固まるアイはどうやら頭が上手く働いていないらしい。

 先程の会話からも想像ができたことではあったが、アイにとってはさすがに予想外だったのだろう。それでもネムは何故このような反応をされているのか合点がいかなかった。

(うーん。ないのかなぁ。あるのかなぁ。なくても早くログインして沢山寝たいのにな……。)

 ネムがぼんやりとそんなことを考えていると、ようやく再起動したらしいサポート係はネムを見た。


「寝たい、ですか?」

「うん。」

「もしかして、ゲームの中で寝ることを目的としていますか?」

「うん。」

「……あの、このゲーム、ゲーム中に寝るとログアウトしてしまうのですが。」


「……えっ。」

次回、〈夢渡り〉


ネム「ねたい……。」

アイ「(なんだか変わった子が来ましたね……。)」


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

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