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14話 私の知ってる椅子じゃない

こんにちこんばんは。

玲音の名前を途中で礼音に変えようとしてうっかり忘れて玲音で先に投稿したものだから、玲音くんで行くことにした仁科紫です。


それでは、良き暇つぶしを。

「へぇ。そんな事になってるんだ。お兄ちゃん育成計画を変えなきゃかな?」

「おにぃ、大丈夫か?」

「だいじょばない、かも……?」


 ぺたりと頬をダイニングの机に付け、ぼんやりと宙を見る。

 姿勢は悪いが、珍しく弱気なネムの姿に母ですら困った顔で何も言わずに傍観している。

 昨日あったことをネムは早速灯音や礼音に伝えていた。

 ステータスが本格的に意味をなさなくなってしまった現在、ネムにとれる赤目虫(長いため短縮)への対策はスキルの強化だ……と、言いたいところだが、残念ながらそれも難しい事情があった。


 ネムのスキルは〈固くなる〉にしろ、〈つく〉にしろ、ステータスが基準となっているのだ。

 勿論、スキルは育てれば育てるほど強化の倍率は上がる。しかし、0にどれだけ数字をかけても0でしかないのと似たようなもので、今のネムのステータスでスキルを使っても今までの半分の力しか出せはしない。

 よっぽど重点的に育てなければスキルの効果は薄いこと間違いなしな現状に、元々戦闘に乗り気ではないネムが項垂れるのも致し方がないのだった。


「まあ、スキルは一段階進化して、ステータスだけ半減なんでしょ?

 成長はしてるんだし、そこまで落ち込まなくてもいいでしょ。」

「……でも、勝てない……。」


 ムスッと頬を膨らませるネムへ一斉に視線が集まる。向けられた顔の多くが驚愕に彩られているのを見て、ネムはこてりと首を傾げた。


「何……?」

「え?おにぃ、もしかして勝ちたい相手が出来たのか?」

「……?勝ちたいと言うか、負けたくない……?」


 そう。ネムは別に勝ちたいわけではない。ただ負けるのが癪に障るというだけであり、負けなければ別に勝てなくとも良いのだ。

(まあ、ほんの少しくらいはやり返せたらなぁなんて、思わないでもないけど。面倒そう?だし、ね。)

 どうにも嗤った赤い目が印象的過ぎて男の人物像は悪い方向にばかり傾いて仕方がない。

 よく知らない相手に負けたくないと感じること自体ネムの初体験である。全国テストやらカラオケの採点やら、よく知らない相手と競う機会は意外と身近にある割にネムは気にしたことすらなかった。もはや関わりたくないのが本音だ。

(でももう二回会ってるもんね。世の中甘くないよね……。)

 溜息をつくネムは灯音が何処か楽しげに笑う姿に気づくことなく考えに没頭したのだった。


「あ、灯音……?おにぃは傷心中なんだ。

 そーっと、お手柔らかに、な?」

「分かってるよ。レオ兄。なんとかなるなる!」

「それ、ならないヤツ……!」



 □■□■□■□■



「と、言う訳で早速お兄ちゃんの無念を晴らすべく相手の情報を仕入れてきちゃいましたー。」

「え。ぇえええええええええっ……!?」

「……ネムにぃ、そんな声出せたんだ?」


 ハッとして口を押える。驚きすぎてカロリーを消費しすぎた。眠い……もう寝てもいいだろうか。

 チラリと灯音を見る。

 キラキラとした目と目が合う。……眠れないね。コレ。

 仕方がなく灯音に話を促せば、嬉々とした笑顔でキャッキャと話し出す。


「ふっふっふ。この私にかかればこれくらいよゆーなのだよ!

 お兄ちゃんに襲いかかった災難の名は紅ザクロ。人種の中でも変わったヤローだね。

 対戦スキーではあるんだけど、格下相手だと相手を弄んで愉しむ愉快犯?になるみたい。性格は良くなさそう。

 一部の正義大好きっ子からは嫌われ者で、人種のコミュニティでも関わらない方がいい人の一人って言われちゃってる。」

「へぇ。でも、なんでそんな人が初心者のエリアにいたんだ?

 前に灯音がなんかそんなこと言ってたろ?」


 初心者のエリアとは?と、頭の中で生まれた疑問にこてりとネムは首を傾げる。

 その様子に気がついた灯音はこれまた不思議そうな顔をしてネムを見た。やがて何かに思い至ったらしい灯音は目を丸くしてネムを見た。


「もしかして、お兄ちゃん実力でエリアごとに分けられているのを知らない!?」

「何それ?……確かに、森から出ようとしたらやけにアルが止めてくるなぁとは思ってたけど。」

「思ってたんだ。思ってたのになんでかまでは調べなかったんだ……。」


 頭を抱える灯音に苦笑いする玲音は、まあこの兄だしなぁと言わんばかりだ。

 ネムは疑問に思っていたことに合点がいき満足気だ。眠たそうに目を擦り、今にも夢の世界に飛び立っていきそうなくらいには満足している。

 そんなネムの様子に気がついた灯音は、慌てて話を戻す。


「とにかく!本当に災難だったねーって感じ?

 どうもお兄ちゃん目当てって言うより、他の有名な夢魔目当てだったみたいだし。ターゲットにされたのは多分、お兄ちゃんが珍しい兎と一緒に居たからじゃないかな。

 なんせ、本人はどう考えても中級から上級の実力っぽいし。お兄ちゃんを虐めても面白みは少ないだろうしね。」


 灯音が言うには、一応実力が上でも下のエリアに行く分には可能らしい。

 というのも、実力が上のものが下のエリアに行く時は必ずステータス半減などのデバフを受けた状態で戦うことになるのだとか。

 更に、格下に倒される程ステータスは下がり、格下を倒してもステータスの糧にはならないという理由からメリットはない。むしろデメリットにしかならないのだ。

 故に今回のことは本当に事故のようなものだったらしい。ネムが最後に自傷さえしなければステータスもプラスにしかならなかったはずなのだとか。

 ネムは知らなかったが、パートナーとなるアルは死んでもネムの所持品扱いで生き返るらしい。

 つまり、死ぬ必要は本当になかったのだ。ネムとしては今後もアルが死にかけるようなことがあるのなら自分が死ぬが。そこは譲れないのである。


「因みにお兄ちゃんが初めに戦った女の人はアイプラム。紅ザクロと最近よく一緒に居るけど何でかは不明。実力はあるけど、レベルは始めたばかりだから初級くらいだね。

 今回は相性かつアルくんの協力含めて辛うじて勝ったって感じかな。」

「へぇ……。」


 ここまでノンブレスである。

 あまりの情報量に相槌をうつネムの意識は飛びそうだ。


「多い、多いよ。情報量が……!おにぃの目がほら、見て!半目だから!ほぼ寝かけてるから!もっと纏めて!」

「つまり?ドンマイ!」

「まとめすぎッ……!」


 もうやだこの子と頭を抱える玲音に、真面目だなぁとボケっとした目を向ける。真面目過ぎて損をすることの多い玲音は昔から家族思いである。

 ネムはなんとなく玲音の頭をポンポンと撫でた。


「それ以外言えないよー。まさか、上位層が初級マップに出没するとかさー?

 そんなの階層ボスがエリア無視して通常マップに出没するようなものじゃん。」

「ふぅん……。強いんだ。」

「強いなんてもんじゃないよ。トップ層の中でも5本の指に入るくらいには鬼強いのだよー。

 今度やるイベントでも決勝までは行きそうって話あるくらいだし。」


 イベント。アカネの話にネムは目をぱちくりとさせる。

 何も知らなさそうなネムの様子に玲音は首を傾げ、灯音は口角を上げてニヤリと笑った。


「あっれぇー?もしかして知らなかったの?お兄ちゃん。」

「うん。だから、教えて?」

「しっかたがないなぁ。」


 素直なネムにこれまた素直に説明し始める灯音。

 これが玲音なら頬を引き攣らせ、自分で調べると言い出し、灯音に散々煽られるところだが、このやり取りである。

 玲音は自分にはできない対応をする兄に尊敬の眼差しを向けるのだった。


 □■□■□■□■


「アル。ボクは頑張るよ。まずはレベル上げからかな!」

「ミィ…?」


 ここ数日の落ち込みはどこへ消えたのやら、急に奮起したネムにアルが首を傾げる。暫くポカンと見つめたアルは、敵を探そうと動き出したネムに毛を逆立てて叫ぶのだった。


「ミィイイイイイイ(私の知ってる椅子じゃ)っ…(ないっ…)!」


 イベントまで残り一週間。

 ネムは果たしてどこまで強くなることが出来るのだろうか。

次回、ボクってもう進化できたんだね


『誰がこの世の覇者たるか』

配信開始1ヶ月記念イベント。

所謂現在の1番を決めましょうという趣旨の元、開催されることになったお祭り。

この日ばかりは魔種、人種関係なく話が通じるようになる。

基本NOと言わなければ当日ログインした全員が強制参加のクソ仕様。


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお過ごしください。

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