13話 虫唾が走る
こんにちこんばんは。
話作るって大変なんだよなぁと日々思う仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
戦うと決めたネムはまず隠れるように草むらの中へと潜んだ。
ネムは敵が何処にいるのか分かっていない。対して、敵もネムの居場所を把握しているとは言えない...筈だった。
5分程崖から森の奥へと進むように歩いていると、ガサッと目の前の大きな茂みが揺れる。
上を見上げれば見下ろすようにネムの方を見る女の姿があった。
「……ッ〈ねむれ〉!」
ネムは慌ててスキルを使うが、女性はネムの目が追いつかない速さで距離を取ったのか次の瞬間にはネムの視界から消えていた。
アルに後ろへと手を引っ張られ、慌てて茂みから次の茂みへと転げる。ついでに〈固くなる〉を使い、もし攻撃が当たってもいいように備えた。
瞬間、先程までネムがいた場所に踵が突き刺さる。文字通り穴を開けた威力に驚き、ネムはコロリと転がった。
ネムに合わせるように体勢を低くした女が踵を支点にし、地面に対して水平に回し蹴りをする。ネムの隠れている茂みごと吹き飛ばす勢いの蹴りにネムは再びコロコロと転がり別の茂みへ...向かわず、女の方へと近づく。偶然にも見つかっていなかったのか、今度こそ女の姿を捉えた。
「〈ねむれ〉っ...!」
「っ...。」
かくりと揺らいだ身体にやったかと思ったが、次の瞬間には立ち直し、女は距離をとる。
(効いてない訳じゃない。でも、足りてない...?)
〈ねむれ〉しかネムには強敵と戦う選択肢がない。夢魔という種族自体はは他にも戦う術はある。しかし、ネムはただ眠ることを目的としているがためにそのスキルが身についていない。
ネムはスキルのレベル云々よりも自分の能力が戦闘という行為に適した成長をしていないことを実感する。
(そもそも、寝たいってだけだもんね。)
それもそうかと自分の考えを改める気もなく納得する。寝たいだけの奴が戦闘に特化したものに敵うはずもない。
それでも勝ちたいなら。少しは成長したいと望むなら。
多少不得手でも、汚い手でも使うしかない。
睨み合うような時間が過ぎる。
女はきっとこちらの〈ねむれ〉を警戒している。先程の様子を見るに、近づき過ぎれば眠ってしまう自覚があるのかもしれない。
女の警戒はネムに時間を作り、勝機を作り出していた。
カサリと茂みを僅かに鳴らす。それは女にも聞こえた。聞こえたが、それを何が意味するのかを確認する前に後ろからの声に反応する。
「ミッ!」
突然現れた気配に女が後ろを振り向く。
「...!?」
こちらが1人だと思っていたのか、驚くような声に一瞬の隙を作れたことを察する。
ぴょんと跳ねて近づき、音もなく顔付近に近づく。こんな時に羽を動かすなんて相手に気づかせることをする必要はない。
女が気づく前にと囁くようにスキルを発動させた。
「〈ねむれ〉」
「...っ!!」
女が咄嗟に振り向き、腕で横から叩かれるも、既に眠気に襲われた後の女の攻撃は遅い。
直前に〈固くなる〉を使っていたこともあり、HPの減りは微々たるものだ。
体勢を立て直したネムは耐える女に何度も〈ねむれ〉を仕掛ける。
闇雲に振り回される手足は精彩を欠き、ネムでも余裕をもって避けることが出来る。
その間に〈つく〉を発動。女の首を狙うが、流石に首を捻って避けられる。かすっても余裕のある女に〈つく〉が有効でない可能性を悟る。
(スキルレベル……?それとも、ボク自身のレベルの問題……?……どっちにしろ、何か考えないと。)
初期スキルのクールタイムは10秒。クールタイムなんて気にしてられないと何度も〈ねむれ〉を唱える度に傾きかける体を、女は距離をとるべく足へと力を入れようとする。しかし、完全には防ぐことが出来ないために女の目は閉じていく。
このまま行けば〈夢渡り〉を使いさえしたら勝てるだろう。勝ててしまうだろう。
でも、それではネムは何も変わらない。
別に変身願望がある訳ではない。何者かへなりたい訳でもない。ただ、あの恐ろしい赤い目と対峙したとき、またアルに救われるだけの自分では居たくなかった。
だから、ネムは咄嗟に〈固くなる〉を使った。
「〈つく〉」
女の背にまわり、背後を突き刺す。
〈固くなる〉を使ったのは、単純に相手が硬いなら自身もかたくなればいいと考えたからだ。
精神的、物理的に固くなるのであれば、柔らかいもので切るよりは効くはずだ。
そして、固くなった爪は相手の急所となる場所へ深々と突き刺さる。
今までにない判断にネムを知るものは間違いなく驚愕し、目の前で見ていたアルですら驚きに目を見張る。遂には目の前で赤い粒子へと変わった女の姿にネムはほんの少し安堵した。
ゆるりと気の抜けたネムはほわっと笑みを浮かべる。
(ボクにも、出来た。)
やれば出来るのだと満足気にアルを見る。
しかし、その場に居たはずのアルがいない。
慌てて周囲を見渡すと、後ろから足音がした。
「○●△□□○□▽○?」
聞こえてくる音全てに煩く心臓の音が反応する。正直、振り向きたくはない。想像よりも厳しいものなんて見たくもない。それでも、アルのためと気持ちを落ち着かせて振り向く。
そこには忘れもしない赤い目の男が居た。
手にはくたりと力ない様子のアルの姿もある。
「アルッ...!」
「□◎□、□△◇●■○◎▽□△△□○。」
動こうとしたネムを脅すように男がアルの首に力を入れる。小さく呻くアルの声で我に返り、ネムはグッと堪えてその場に留まり男を睨みつける。
ネムは怒っていた。
自分ではなくアルを傷つけようとする男にも、敵を倒したからと気を抜いた自分にも。
ただアルが命の危機に瀕しているから怒っているのではない。
これはそういうゲームだ。ネムも理解している。ネムが怒っているのは、明らかに弱いものを痛みつようとする男の態度にだ。
今もネムの様子を見て愉しげに嗤っている。ネムが苦しんでいるのを理解していて、アルが大切な相棒だと分かっていての態度。普段からのほほんとしているネムでも分かる程のそれは、誰が見ても不快にしか感じないことだろう。
(全部、分かっていての態度なんだろうな。
ボクを傷つけるつもりでやってる。今すぐにでも殺せちゃうくせに。ほんと...)
「虫唾が走る。」
「○◎?」
今ほど会話がしたくないと感じたことはないとネムは内心で溜息をつき、目の前の害虫をどう倒すか考える。
(ボクは速くない。やっぱり、〈ねむれ〉でどうにかするしかないんだろうけど、困ったことにこの人には通じなさそうなんだよね。)
端にある文字を確認すると、〈ねむれ〉のスキルレベルが上がったと表示されてはいる。しかし、あがったところでアルが撤退するよう進言する相手に通用するのかといえば、しないだろう。
(困った。困った...ね。...寝てしまおうか。)
どの道敵が近くにいる場合はログアウトできない。
こういう輩は嫌いだ。でも、だからとネムにできることは限られている。
本当は倒したいが、アルが傷つけられるくらいならネムが死んでアルが解放される方がよっぽどいい。
(ムカつくけど、ボクは主人公じゃない。都合のいい展開ばかりが起きるなんて、それこそ夢物語だ。)
そう。夢物語。夢渡りをしようにも相手が寝ていなければ意味はないし、この爪はさっきの相手にすら通じなかった。先程のように〈固くなる〉を使ったとしても通じないだろう。
森が静かだったのはこの害虫が居たからだと今なら分かる。
諦めたくはない。でも、状況が状況だ。
なら選ぶべきは。
「□○、○○◎◇□△□。」
アルを掴んだ手に力がこもる。
覚悟を決めたネムは赤い目の男に向けて駆け出し……そして、男がニヤリと笑ったのを見て瞬時に自分の首へと爪を突き立てた。当然、〈つく〉を発動させていたネムは自身のHPが瞬時に減ったのを見た。
そして、目の前の男が驚愕のあまりに目を見開いている姿を見てざまぁみろと笑った。
(次は、負けないからね……?)
【寝夢眠兎は称号【無能】を手に入れた!
既に【無能】を所持しているため、統合されます……称号【無能】は【無力】へとランクアップしました!
また、行動によりスキルを……】
【無力】
詳細
魔神様は貴方の活躍を見て大変不満を覚えています。もっと人間達に制裁を。
しかし、自ら死んでしまうとは本当に情けない。貴方にはもっと試練が必要なようですね。
効果
他の魔族からの好感度が2下がる。
ステータスが常に半減する。
「……えっ。」
次回、私の知ってる椅子じゃない
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお過ごしください。




