12話 僕は戦うよ
こんにちこんばんは。
涼しくなってきて秋を感じる仁科紫です。
9月で秋感じるって……変な年ですねぇ。
それでは、良き暇つぶしを。
スキルの進化。
それは成長の方向を決め、キャラクターとしての性能をあげることを意味する。
それはつまり……
「意外と悩まないもんだね。」
「ミィ……。」
それはお前くらいだよと言いたげなアルの様子にネムは気が付かない。
因みにスキルの選択肢は3つ。
〈硬くなる〉〈堅くなる〉〈固くなる〉だ。一見して違いが分からないが、説明によると明確な違いがあった。
〈硬くなる〉
説明:物理的に硬くなり、攻撃に用いると相手に与えるダメージ量が上昇する。
〈堅くなる〉
説明:意志の強化。精神的に堅くなり、攻撃を弾く。
〈固くなる〉
説明:精神的、物理的に固くなり、いかなる状況でも揺るぎないものになる。
ネムには詳しいことは分からないが、万能そうな方がいいだろう。
(それにどんな状況でも揺るぎない、つまり寝ていても動かせないってことだよね。
寝てても邪魔されない……うん。これしかないよね。)
よって、〈固くなる〉一択である。悩むわけがなかった。
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Name:寝夢眠兎
Base:黒
Class:夢魔族 Species:夢魔(幼体)Lv6
Belong:闇
HP 75
MP 175
STR 12
VIT 35
INT 70
MND 95
DEX 42
AGI 21(-5)(飛行時42-7)
LUK 16
AP 25
Skill
〈暗視〉〈夢渡り Lv1〉〈ねむれ Lv4〉
〈しる Lv1〉〈とぶ Lv1〉〈にぶい Lv3〉
〈つく Lv3〉〈固くなる Lv1〉
Title
【特定観察対象3級】【羽うさぎの椅子】
【無能】【遅すぎる踏み出し】
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ネムは機嫌よくステータスを眺めてこれからどうしようかと考え始める。
(これでスキルはまた振り出しになった……ってことであってる、よね?
灯音に言ったら多分もっと鍛えろって言われそう。)
それは面倒という思考が頭をよぎり、いや、でもなぁとバレた時のことを想像する。
間違いなくなんでやってないの?と上から目線でため息をつかれる。それはいいが、続くお説教で睡眠時間を削られることだろう。
……そっちのが面倒そうだ。
「仕方がない。この〈固くなる〉ってスキル、育てるかな。」
「ミィ!?」
驚愕するアルはネムを胡乱げな視線で見る。
コイツ本物か?と言いたげな視線にもネムは気にせずどうやって育てるかだけを考え始めた。
(岩はもう無理そうだもんね。
高さ変えるのもあまり変わらないって結果になったし。)
岩を落とすという方法をとるにあたり、その辺は実験を行ったのだ。
結果、この世界において経験値は与えるものの方に依存するらしく、威力は考慮されない。
つまり、岩は岩の大きさにより経験値が依存し、アルに突進してもらうにもアル自身の強さに依存して経験値が与えられるのだ。
もう既にアルが落とせる限界の大きさの岩を試しているため、岩ではレベルが上がりにくいだろう。
「あれ。でも、スキル進化したし、もしかしたらリセットされてるかも?」
ふと閃いた事実に、ネムはアルに岩を落とすようにお願いする。
首を傾げながらもネムの言う通りアルが上から落とした岩に向けてスキルを使った。
「〈固くなる〉」
ガンッと激しい音がなり、ネムに衝突した岩は方向を変え、地面に向かって落ちる。
ネムはビクともせずそれを見送る。
果たして結果は……
「……うん。知ってた。」
当然のごとく通知は来ず、レベルは上昇しなかった。つまり、得られる経験値は微々たるものである、ということだ。
(他に試せるものはなさそうだし……。)
周りを見渡し、ちょうど良さげなものはと首を傾げる。崖の下にあるようなものは岩か低木くらいで経験値になるようなものをネムは見つけられなかった。
「アル。ここだともう〈固くなる〉は鍛えられそうにないし、ついでだから〈ゆ「ミミッ!」……まだ言ってないのに。」
昼寝するべく〈夢渡り〉を使用しようかと考えたのだが、アルにはお見通しだったようだ。
使えば使うほどレベルがあがるはずなのにと、ネムは不貞腐れるが、ただ使うだけでレベルが上がるなら苦労しない。アルは無意味にスキルを使おうとするネムを見てつける薬はないとため息をついた。
そして、ネムに向かって鳴きながら羽をパタパタと動かした。
「ミッミ!」
「アル?……もしかして、〈とぶ〉を鍛えろって言ってる?」
「ミ!」
アルの満足そうな顔に手を伸ばし、顎の下を触ろうとしたところでそっぽを向かれたネムは、少し残念に思いながらも考える。
(確かに、〈とぶ〉ってあんまり使ってないんだよね。)
寝るのが好きなアルだが、実はマイペースに歩くのも好きなのだ。結果としてあまり飛んでおらず、先の逃亡劇でようやく1レベル上がったほどだ。何かメリットがなければやる気など出てくるはずもなく。
ネムは少し考えてレベル上げを拒否しようとしたその瞬間、ふと天啓のごとく閃きが訪れた。
(……あれ?もしかして、〈とぶ〉を極めたら寝ながら移動できる……!?)
常人ならいや、寝てるんだから普通に危ないだろうと却下するような案。しかし、ネムには理想としか思えない考え。むしろ何故今まで思いつかなかったのかと自身を叱責しつつネムは手をぎゅっと握りしめた。
「アル。僕はやるよ。そして、必ず……!」
「みぃ……?」
なんか絶対おかしな事を考えてるとジト目でネムを見つめたアルは、やってくれるなら何でもいいかとため息をついた。
「因みに、レベル上げの方法ってどんなの?」
「ミィミミッミ。」
「追いかけっこ……?」
その後、問答無用でひたすら追いかけ回され、追いついた瞬間に頭突きされるネムの姿があったとか。
「ミッミミミミーミミミ♪(一石二鳥とはこのこと)」
「思いつくのがもうちょっと早かったらそうだったかもね……!?〈固くなる〉……!」
2日ほどかけて〈とぶ〉を〈飛ぶ〉へと進化させたネムは、アルから崖下から移動しようという話を提案された。これ以上は崖下にいてもスキルを鍛えにくいということなのだろうが、そんなことよりもネムの頭の中は意思疎通をはかる際のアルの姿でいっぱいだったが。
てしてしと一生懸命になって頭上を指さすアルの姿は可愛すぎた。勿論ネムは悶えた。悶えてコロコロと辺りを転げ回った結果、アルに怒られ頭突きを連発されたが後悔はない。
その結果、アルにそっぽを向かれ、ネムは少し悲しくなったが、後悔はやはりなかった。
そして、今度からは脳内だけで悶えることにしようと心に決めたのだった。何か不穏な考えを察したのか、アルは不満げなのを隠しもせずてしてしとまた地面を叩いていたが。
それを見てまた悶えていたら...以下略。同じ動画を繰り返すかのようなループが何回か起きたが、ネムとアルしか居ない今、止めるものはいない。灯音が居れば、呆れるか爆笑するかのどちらかだろう。
上を目指している今、不服そうではないため許されたのだろうとネムは思っている。実際はどうであれ、だが。
崖の凹凸を蹴って上へ上へと登っていく。時折平たい岩を見つけてはゴロンと寝転がり、岩の硬さを堪能する。寝具には向いていない硬さだが、冷たさが心地いい。ペタりと張り付き、上機嫌で頬擦りをする。しまいにやってくる眠気にネムがうとうととし始めると、知ってたと言わんばかりにアルが動いた。
「ミミミミ、ミッ!」
「〈固くなる〉...もー。折角いい気分で寝ようとしてたのに。」
「ミィ...ミミ。」
突進したアルを受け止めたネムにアルはだからだよと言いたげな視線を向けた。
多少成長してもネムの行動方針は変わらないらしい。すぐに寝そうになるネムに、アルは改心にはまだ遠いとため息をついた。
「とうちゃーく。」
「ミミ。」
崖上まで登り、2人でいえーいとハイタッチする。こういう何気ない行動に反応してくれるようになったあたり、アルはかなりネムに心を開いてくれるようになったと言えるのかもしれない。...ステータス上の仲の良さは未だに顔見知りのままだが。データ上のものが全てではないと分かっているが、もう少し見える形でも仲良しになれたらなと密かに思う今日この頃である。
ネムの願望はともかく、周りを見渡したネムはふと首を傾げる。1週間近くは崖の下にいたため森は久しぶりだ。そのため、感覚は鈍っているかもしれないが、以前は大なり小なり様々な生き物の存在感を感じたものだった。しかし、この場所は嫌に静かだ。
まるで、ネムとアル以外に生物が存在しないかのように、小鳥の鳴き声一つ聞こえない。ネムはこの状況に似た体験をつい最近したばかりだ。
珍しくピンと来たネムは辺りに注意を払いながらアルに小声で話しかけた。
「...アル。何か...居る、ね?」
「ミ...ミミ。」
アルは少し戸惑った様子ではあるが、こくりと頷く。ネムの勘はあながち間違いではないらしい。
逃げるべきか戦うべきか。選択肢を迫られたネムは今までなら迷うことなく逃げるを選択していたことだろう。
(でも、いつまでも逃げてられない、よね...?)
夢の世界に閉じこもるにはかたさが必要になる。かたいからこそ、現実を気にせず眠っていられる。眠りたいならかたくなるしかない。
つまり、選択肢は始めから一つだけ。
「アル。僕は戦うよ。」
次回、虫唾が走る
「ミミッ!?(コイツ、本当に監視対象か...!?)」
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお過ごしください。




