10話 力の代償
こんにちこんばんは。
ほんわかとシリアスは紙一重。曖昧な境界線で反復横跳びすることが多い仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
息を潜める。
ただそれだけの行動に緊迫感を覚え、足元が覚束なくなる。しかし、音を鳴らしてしまえばすぐにやられてしまう。足に力を入れ、動かないように意識する。今は動くことの方が危険だ。
ところが、まだアルはネムの手を引っ張る。まるでここにいる方が危険であるかのように。
(…ボクは、アルを信じる。)
アルが聞けば少しは感動しそうな思考。しかし、それには続きがあった。
(何より、死んだらまた寝るための時間が減る。それは嫌だ。)
間違いなく感動を返せとでも言われそうな言葉。ネムが声に出していないから良いものの、アルに聞かれれば暫くはそっぽを向かれること間違いなしである。
ネムはアルを信じ、アルを頭に乗せて足元と男を交互に見ながら後ろへと下がる。
ネムがいた場所はネムよりも背が大きい植物が幾つも生い茂っており、隠れるにはいいが移動するときは注意せねば音がなる。この辺りは崖で囲まれているため、頭上にさえ気をつければいいという優れた隠れ場所だったのだ。落ちてきた人間相手に戦うだけであったため、ちょうど良かったとも言う。
何故か一時人が増えたため、対策にと移動して見つけた場所だった。
(…そういえば、この人、何処から…?)
降りてくる場所もあるにはあるが、切り立っており危険だ。勿論、落下ダメージはあるため、ネムのように空を飛べるものでなければまず避ける場所。
ネムは警戒レベルをひとつ上げた。
「…□□○○△○…」
呟くような声。後ろに下がっているにも関わらず、遠ざかったようには感じない。恐らく、声の主もネムの方へと近づいてきているのだろう。
アルが引っ張る方向へと進んでいると、崖下の巨大な岩に小さな割れ目を見つけた。ネムの大きさならば入ることが出来るだろう。アルはここに誘導してくれていたようだ。
しかし、割れ目付近には身を隠せる場所がない。ただ小石がころがっているだけであり、見つかる可能性は否定できないだろう。
(どうしよう…でも、飛び込むしかない、よね?)
後ろから聞こえる足音、呟く声。選択肢は1つしかない…わけではないが、限られている中では良策と言える。
とにかく、今は悩んでいる時間もおしい。いくらスキルを覚えたとはいえ、元々が灯音曰く紙装甲なネムに真正面から敵とやりあえるだけの力はないのだ。
ネムは迷いを振り切り、草むらが途切れたと同時に音を立てずに浮遊。割れ目へと飛び込んだ。
奥は思いの外深く、出来るだけ入口から離れて男が過ぎ去るのを待つ。
1、2、3…
「…っ。」
ザッという砂利を踏んだ音が耳に入り、隙間からの光が遮られる。ネムは息をのみ、出来るだけ見つからないように、見えないようにと丸くなった。
(ボクは石、ボクは石…!)
「…△□▽△、○。」
遠ざかる足音。ホッとネムは息をついた。
「良かっ…」
「□▽…?」
声。
そして、覗き込む赤い目。
「…っ!!」
動けない。蛇に睨まれた蛙とはまさにこの事だろう。動かない体、目を見張りただ赤い目を見る。その目は明らかにネムの姿を捉えていた。
(離れてなかったんだ…!)
見つかった。
その事実にネムは逃げることは不可能と悟る。
しかも、このままではアルも道連れになる。少なくともアルだけは助けなければ。
(今、ボクに出来ることは…っ!)
普段使わない頭を使い、浮かんだのは当然、スキルを使うこと。
では、何を?
アルが逃亡を勧めたということは、〈ねむれ〉が効かない相手ということ。
〈夢渡り〉をしたところで、体はこの場所にあるだけ。状況を打開するには向いていない。
ならば、自ずと選択肢は1つになる。
「〈かたくなる〉…っ!」
前を見る。赤い目は既にない。
代わりにパラパラと頭上から降ってくるものがあった。ドゴッだの、ゴシャッだのと物騒な音が聞こえてくるため、相手は崖を一部崩してネムを生き埋めにしようとしているのだろう。または、崖のヒビ割れを大きくして直接ネムに刃を届かせるためか。
どちらにせよ、今はかたくなった己を信じるしかない。
「アル、ボクの下に。」
「ミィ…?」
「アルはボクよりかたいって知ってるけど、こういうときはボクを盾にするんだよ?」
「ミィ…。」
迷う素振りを見せたアルは、ネムの意思が変わらないと感じたのかアルの腕の中に収まる。
ネムは出来るだけ生き残れるようにと、ゴツゴツとした石が転がっている場所を少し掘り返し、体を沈める。
その数秒後には天井が落ちてきた。とっさにネムは再び〈かたくなる〉を唱える。降ってきた岩は、ネムの体に衝突する寸前に静止する。しかし、更に積もった岩により押されて崩れ、圧迫感が強まっていく。
一際大きな音がし、ネムが押し潰されるかと思った次の瞬間。アルがネムの腕の中から僅かに顔を出した。
「…ミィッ…ミィイイイイッ!!」
「アル…?」
キーンッと音が鳴る。ネムには分からないが、アルが何かをしたのだろう。辺りが虹色の光に包まれた後、ネムが隠れていた小さな穴は完全に崩れて塞がってしまった。
・
・
・
「…ケフッ。大丈夫?アル。」
「…ミ。」
ネムの隠れていた穴が完全に塞がった後、奇跡的に助かったネムは微かな隙間から這い出た。
既にネムを襲撃した赤い目の男の姿は消えており、ネムのことは死んだものと判断したのだろう。
(でも、どうしてボクのところだけ……?)
幾らかたくなるを使っているとはいえ、ネムのいた場所は周囲に丸く瓦礫が積み上がっていた。まるで瓦礫でパズルを組み上げたかのように隙間なくぎっちりと。それも、何故か脱出口となる穴というおまけ付きで。
訝しんだネムがアルに問いかけるべく振り向く。いつもはやれやれとばかりに呆れた表情をするアルが、そこにいるはずだった。
「……アル?」
「ミ……。」
「アルッ!?」
弱々しくくたりと横たわる体躯に慌てて手を伸ばす。
手のひらに載せたアルはか細い鳴き声をあげるだけで動けそうにない。
トクトクと手のひらに感じる、小さな熱に込み上げてきた涙を必死で堪える。
「どう、しよう……そ、そうだ!ステータス!」
きっと何か分かるはずとアルのステータス画面を開く。
───────────
Name:アル Condition:衰弱(原因:権限の行使)
Base:黒 State:顔見知り
Class:妖精族 Species:羽うさぎ Lv15
Belong:風
HP 1(-400)
MP 10(-150)
STR 1(-40)
VIT 1(-25)
INT 1(-40)
MND 2(-20)
DEX 1(-12)
AGI 1(-40)
LUK -20
AP 30
Skill(使用不可)
〈暗視〉〈かぜまほう Lv1〉〈ずつき Lv4〉
〈飛ぶ Lv1〉〈早い Lv1〉
Title
【一匹兎】【寝夢眠兎の▅▂▅▅▂】
【▲○▼■○▲■】
───────────
「衰弱って、何っ!?ボクは、ボクはどうしたら……?」
殆どのステータスの数値は1と表記され、アルが衰弱という状態になっていることが分かる。
しかし、それはネムをより混乱させるものでしかなく、ネムがすべき行動の道標にはならない。
混乱する中、ネムは分からないなりに決断を下した。
「ログアウト、しよう。灯音に聞けば何か分かるかもだし、次にログインしたらアルの状態も良くなってるかも……。」
衰弱した状態のアルをそのままにしておくのも気が引けるが、対処法すら分からないのだ。
ネムはアルにごめんと言って頭を撫で、力なく横たわるアルを自身の膝の上に起いてログアウトした。
【寝夢眠兎のスキルレベルが上がった!】
〈かたくなる〉Lv2→Lv4
□■□■□■□■
「衰弱……デバフかな?それか、力の代償。何か大きな力を使った代わりのデメリットとか。」
「でば……代償……デメリット?……あの時、アルが何かしたってこと?」
「その可能性が高いかな。幾らスキルがあったとしても、岩の下敷きになって生きてるーなんて無理だと思うよ。」
早速外から帰ってきたばかりの灯音を呼び止め、アルのことについてネムが相談すると、一理ある答えが返ってきた。
流石灯音だとネムが感心するが、灯音は苦笑いを浮かべてネムを見た。相変わらず世間知らずだと言いたげな視線は呆れを含んでとり、諦めすら感じさせるものだった。
「確認だけど、兎さんのステータスには権限の使用が原因って書いてあったんだよね?」
「うん。」
それが何か関係あるのかとネムが身構えると、灯音は少し考える素振りを見せた後、頷いた。
「それなら、時間経過で回復する可能性が高そうかな。」
「本当に!?」
「うん。クールタイムさえ終われば回復するはずだよ。恐らく、衰弱のところをタップしたらクールタイムは表示されるはず。」
「くーるたいむ……。」
「制限時間みたいなものかな。
主に能力を使ってから使用可能になるまでの時間のことだよ。」
そんなものがあるのかと感心するネムは、灯音が未だに考え込んでいることに気がつかない。
何故特別な権限を持つ兎がネムと共に行動しているのか、どんな権限をその兎が持っているのかと灯音が考えていることなど知る由もないのだった。
次回、マジか
ちなみに、灯音はまあまあのゲーマーだったり。
兄のことはオモチャと認識しているが、たまにとんでもない事をやらかすため、面白がっている。
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお過ごしください。




