9話 すきるの、れべるあっぷ?
こんにちこんばんは。
続く下痢にぐぬぬってる仁科紫です。
踏んだり蹴ったりか……!
それでは、良き暇つぶしを。
「と、言うわけでアル、僕に向かって攻撃してみて。」
「ミィ?」
はぁ?突然何言い出してんのコイツとばかりに首を傾げるアルに、そういえば情報共有してなかったなと灯音の提案を説明する。
初めは胡乱げな視線をネムに向けていたアルも聞くうちにまともな話だと納得したのか、最後には真剣に頷いていた。
「アル、おねが「ミィーッ!」ゴッフ……えっと?アル?話聞いてた?」
「ミ?」
話の途中でネムのお腹にダイレクトアタックを決めたアルは、今ので合ってるでしょと言いたげだ。ネムの頭では人選を間違えたかもしれないという思考がよぎる。
(いや、きっとアルはアルなりに僕のためと思ってやってるは)
「ミィーッ!!」
「グッ……!あの、アル?せめて、行くよーって声か「ミミミミッミィ!!」あ。これ、分かってて聞いてないやつ、だッ……!」
二度目は流石のネムもアルに注意を払っていたため、受け止めることに成功するが、離した瞬間に再びアルは突進してくる。
まず間違いなくアルは分かっていてやっている。
つまり、これは日頃の憂さ晴らしといってもいいだろう。ネムは説得を諦めた。
(まあ、迷惑かけちゃってるし、ね?)
日頃から呆れさせることばかりやっている自覚はある。大人しくその日は傍から見ればただのじゃれあいにしか見えない攻防を続けるのだった。
《条件達成!
寝夢眠兎 は〈かたくなる〉を 覚えた!》
□■□■□■□■
「へぇ。かたくなる、覚えたんだ。」
「ん。固くなった。」
「まんまだねぇ!」
思ったより早いと副音声が聞こえるものの、ネムに対して母親のごとく慈愛の微笑みを浮べる玲音。
それに対し、ケラケラと笑っている灯音は純粋にゲームの話に興味があるようだ。
いずれにしても、2人ともネムのゲームの話に興味がある様子だ。ネムはこの状況に心が暖かくなる。今までなら一人で寝ていたネムも、やはり心のどこかで人との関わりを欲していたのかもしれない。
故に、ネムは今後も灯音の意見を聞き、採用していくことだろう。
そのためにも灯音の言う通り、頑張らねばと気合を入れる。誰しも達成感を得るからこそ、教えようと思うのだ。やる気のないやつには誰も教える気がなくなるというもの。レベル上げには頓挫してしまったが、スキルを身につけるのは出来たのだ。次も頑張ろうと胸中で意気込む。
「…もしかして、灯音?
おにぃ最強化計画、続いてる?」
「え?もっちのろんだけど。他に何かあった?」
「…ほ、程々に、ね?」
「…?」
意気込むネムを置いてコソコソと弟と妹の話す姿にネムは首を傾げる。少ししてよくある光景かと納得したネムは、徐々にやって来た眠気に誘われ、手に持ったクッションへと身を預けた。
生まれた時から抱えている心地のいい微睡みはネムにとって慣れ親しんだものであり、何者にも侵害されない家のような安心感がある。沈んでいく意識に逆らうことなど出来るわけもない。
明らかに脱力したネムの様子に、当然ながら2人も気づくがいつもの事だ。慌てることなく灯音はネムにデコピンをしかけた。
「こら。次の計画話してないんだけど?お兄ちゃん。」
「いっ…んー。はぁぃ…ぐぅ…。」
しかし、ネムは目を覚まさない。
これまたいつもの事ながら気持ち良さそうに眠るネムに2人で顔を見合せ、苦笑する。こうも穏やかな表情をされると起こす方も心を鬼にする必要があるのだ。しかも、心を鬼にしたところでネムが起きるとも限らない。ネムはいくら起こしても目を覚まさないことがあるのだ。
そして、今回は起きない典型的なパターンと言えた。
「あー。これはダメそう。ちょっと待ってからにしよう。灯音。」
「そーだね。じゃあ、レオ兄よ。付き合ってもらうからね?」
「ダヨネー。はいはい。何でもお付き合いいたしますよ。可愛い妹のためなら。」
「うぇっ。気持ち悪っ。そういうのいいから!」
当事者を放置しての作戦会議は当事者が起きる1時間後まで続くのだった。
「…で、次はすきるの、れべるあっぷ?」
ネムが起きて速攻で聞いた言葉はスキルの強化についての話だった。
「そうそう!スキルは手に入れるだけじゃあ貧弱なままなのよ!強化は必須!分かった?」
「分かった…?…うん。分かった。頑張る、けど…」
灯音の言葉にコクリと頷くネムは、そういえば灯音と自分では頑張るの基準が異なることに思い至る。以前、認識を擦り合わせておらず、睡眠を邪魔されたことがあった。これは聞いておかねばならないだろう。
「…強化って、何処まで?」
「もっちろん!MAXまでよ!」
「わか…マックス…?」
「あったりまえじゃない。もし、硬さが足りなくてお兄ちゃんが起こされる事になったら結局変わらないでしょ?」
ドヤっとした灯音の顔に苛立ちよりも疲れが勝ち、ネムはため息をつく。
いつもの灯音の定番パターンだ。何を言っても変わらないだろう。
「おにぃ、ファイト。」
「ん…。」
MAXとは上限までという意味なのだろうが、まだまだレベル1のネムには遠い話でしかない。どれほど大変なことなのかすら想像もつかないのが困ったところだ。
妹からの無茶振りに、とりあえずネムは眠りの世界へと旅立つことにした。
□■□■□■□■□■
「と、いうことで、スキルのレベルを上げます。」
「ミィ!?ミミィ…。」
今度は説明した上でのネムの宣言に、アルは驚愕し、本当にお前に出来るのかと懐疑的な視線をネムに向けた。
「出来るじゃなくて、やらなきゃなんだよ?アル。ボクはボクのためにやり遂げないといけないんだ。」
「ミィ…!」
「全ては睡眠のために…!」
「ミィ…。」
何かに希望を見出したアルは、すぐさまネムの一言でコロンと不貞腐れたように寝転がる。ネムは首を傾げたが、アルはただため息をつくだけだった。
まずすべきことは、スキルを使うこと。スキルは使えば使うほどに経験値というものがたまり、レベルがあがるらしい。
そして、経験値は経験する出来事により得られる値が異なるらしく、毎回同じことをしていると上がりにくくなるのだとか。
(ボクには常に新しい経験が求められてる…って、ことなんだけど、レパートリーとかあんまりないよねぇ。)
アルを〈かたくなる〉で受け止める練習は、もう何度もした。10回目を受け止めた頃に1上がったレベルは、もう10回受け止めても上がることはない。上がるとしてもその倍以上は受け止める必要があるだろう。
「だから、さ?アル。もう、突進しなくても、いっいんだよ゛っ…?」
「ミィ?」
「効率、いい方法かんがっ…アル…?」
「ミィッ!!」
唐突に止んだアルからの突進に首を傾げ、次に聞こえた足音に合点が行く。
最近は出来るだけ人が気づけなさそうな場所を選んでいたが、どうやら招かれざる客が訪れたようだ。近くの茂みに隠れ、足音の方向を見る。
「■□●…?」
キョロキョロと辺りを見回す訪問者は、何かを探しているように見える。
今までに遭遇した人とは異なり、不安そうでも油断しているようにも見えない。
(隙が、ない…?)
着ている鎧は金属なのだろうが、見た事のない程に黒い。艶のないそれは、暗い森の中では同化して見つけにくい。
明らかに場馴れした雰囲気に、ネムは彼を強者であると結論づけた。今まで見たこともないタイプだが、このまま隠れていればやり過ごせるだろう。
そう考え、ジッと茂みの間から男を見ていると、手を引く小さな感触があった。
「…?」
いつもにない反応に後ろを見れば、常なら好戦的なアルがネムの手を引っ張っている。
それは相手との間にかなりの差があるということを示していた。
次回、力の代償
皆さんはお気づきだろうか。
いつもは好戦的=相手との差が少ない、勝てる相手にネムは負けていたという事実に……。
あ。毎日投稿、多分明日で最後っす。
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお過ごしください。




